高齢者が知っておくべき肺炎球菌ワクチン:予防効果と接種のタイミング
肺炎球菌は、特に65歳以上の高齢者にとって深刻な健康リスクとなる感染症の一つです。肺炎球菌が引き起こす肺炎や髄膜炎、敗血症は、命に関わることもあるため、予防接種が重要視されています。現在、日本では23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)と20価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV20)の2つのワクチンが利用可能です。これらのワクチンの違いや接種スケジュールについて、詳しく解説します。
PPSV23とPCV20の違い
PPSV23は、23種類の肺炎球菌に対する免疫を誘導するワクチンで、主に高齢者や免疫力の低い方に推奨されています。しかし、このワクチンは多糖体ワクチンと呼ばれるタイプで、T細胞(免疫司令塔)を介さないため、免疫応答の持続期間が限られています。特に、高齢者では数年後に免疫力が低下することがあるため、再接種が必要となる場合があります【1】。
一方、PCV20は結合型ワクチンと呼ばれ、20種類の肺炎球菌に対して免疫を誘導します。結合型ワクチンは、多糖体にタンパク質を結合させることで、T細胞を介した強力な免疫反応を引き起こします。これにより、免疫がより持続し、強力な防御効果を発揮します。また、PCV20は、従来の13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)よりもカバーする血清型が増えており、予防範囲が広がっています【2】。
T細胞は、特殊部隊の警察官のようなものです。
T細胞は特定の犯罪者(ウイルスや細菌)をしっかり覚えており、再びその犯罪者が現れたときに素早く現場に駆けつけ、直接取り押さえて攻撃します。特定のターゲットに集中して行動するため、一度遭遇した相手を正確に識別し、効率よく対処します。
B細胞は、現場のパトロール警官のようなものです。
B細胞は異変があればすぐに現場に駆けつけ、犯人に手錠をかける代わりに抗体という鎖を放ち、犯罪者(異物)を無力化します。また、一度異物に遭遇するとその情報を記録し、将来また同じ犯罪者が現れたときには素早く対処します。これにより、二度目の侵入を防ぐスピードが格段に向上します。
まとめると:
T細胞は、犯罪者の顔を覚えていて、その犯罪者が現れたときにピンポイントで攻撃する特殊部隊です。
B細胞は、現場の警官のように広くパトロールし、異常があれば抗体という道具で即座に対応し、再度犯罪が発生した場合も迅速に行動できるよう記録を残すのです。
これにより、体内の免疫システムは外敵に対して二重の防御態勢を取っています。
最適な接種スケジュール
米国の疾病予防管理センター(CDC)のガイドラインでは、65歳以上の高齢者に対してPCV20を1回接種することが推奨されています。これにより、20種類の血清型に対する予防効果が得られます。また、PCV20接種から1年後にPPSV23を追加接種することで、さらに3種類の血清型に対する免疫を強化することが可能です。この組み合わせにより、より包括的な免疫が期待できます【3】。
日本でも、PCV20を高齢者向けの初回接種に導入する動きが進んでいます。PCV20は、T細胞を介して免疫システム全体を活性化し、持続的な免疫応答を引き起こすため、PPSV23に比べて再接種の頻度が少なくて済む可能性があります。
まとめ
PPSV23とPCV20は、それぞれ異なる利点を持っていますが、PCV20はT細胞を介した持続的な免疫応答を引き起こすため、より強力で長期的な効果が期待されています。65歳以上の方は、まずPCV20を接種し、追加でPPSV23を接種することで、最大限の予防効果が得られるでしょう。ただし、ワクチンの効果は個人差があるため、接種後のフォローアップも重要です。予防接種のスケジュールについては、必ず医師と相談しましょう。
【1】Centers for Disease Control and Prevention. Pneumococcal Vaccination: Summary of Who and When to Vaccinate. 2022.
【2】Food and Drug Administration. FDA Approves Prevnar 20 for Pneumococcal Disease in Adults. 2021.
【3】Kobayashi M, Farrar JL, Gierke R, et al. Use of 15-Valent Pneumococcal Conjugate Vaccine Among U.S. Adults: Updated Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices—United States, 2022. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2022;71(4):109–117.