16

 電車のなかで、僕ら、二人は、いつものように、意味のない会話をする。どんなスナック菓子が、美味しかったか。テレビドラマの展開に、不満があるとか。その連続した時間を、遮るように、つぼみが、僕に、質問をする。
「あなたは、恋愛をしたことが、ある?」
「人を好きになったことは、ある。ただ、それは、とてつもなく、深いところの、僕の内部の出来事なんだ。それが、表出したとたん、その思いは、あっけなく、空気に吸い込まれていく。だから、言葉にしたくない。なんか、子どもみたいだけど。」
「あなたは、まだ子どもじゃない。16歳なんていう年頃は、大人のふりをした、幼い人間。だから、それで、いいの。」
 少し、沈黙が続いた。未来について、考えていた。僕は、たぶん、いつか、死ぬだろう。それまでは、生きる。どんなに、みじめで、みすぼらしい人生だとしても。少しづつ、心のありようが、変化していくのが、わかった。死に魅了され、どこかで、のたれ死んでもいいと、思っていた。でも、もし、今のように、優しく、頬を撫でるように、時が刻まれていくなら、僕は、生きていたい。でも、そのためには、決意が必要だろう。この指のない手が、おしえてくれるように。誰かに、揶揄されても、怯まない自分。そう、そして、僕は、タフになる。この世界と、同化するみたいに。
 旅は、思いのほか、順調に、進んだ。ただ、南に進むだけ。その土地を観光し、ご飯を食べて、安い宿に、泊まる。もう、ミケのことなんて、忘れたように。まるで、どこにでいる高校生の男女が、過ごす季節みたいに。だけど、それは、音を立てずに、ひっそりと近づいてきて、僕らに、でくわす。非現実と現実が、混じり合う瞬間、美しい音が、あたりに、響き渡る。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?