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「この事故を、きっかけに、あなたの運命は、奇しくも、好転するのです。身近な人の死に、直面したことによって、この世界に、生きる意味を与えられた。その証として、指を失った手に、刻印されたのです。もし、この日、両親を失わなければ、あなたは、すでに、自ら、命を、絶っています。それほど、死に、引きつけられた定めということです。」
 目の前では、すでに救急車が、到着し、事故の処理に、あたっていた。周りには、規制がはられ、警察が、重々しい表情で、交通整理を始めた。複雑になりすぎた光景は、いつのまにか、なにもなかったように、忘れていく。幼いころの僕は、何が起きたのか、分からずに、病院に搬送されるのを、待っていた。手からは、おもったよりも、鮮やかな、赤い血が、流れていた。
 なんとなく、記憶が、蘇る。あの日、たしかに、僕は、死というものを、感じとったのだ。子供なりの、直感だけを、頼りに。そして、生きようと思った。死ぬまで。
「あなた、泣いているわよ。」
 気づけば、目から、涙を、流していた。いつぶりだろうか。こんな、感傷的になるのは。すでに、自分は、大人になっていたかと、思っていた。目の前で起きる出来事に、冷静に判断し、感情的にならずに、対処できる。だけど、それは、錯覚だった。16歳という年齢は、大人のふりをした、子どもなのだ。僕は、永遠に、止まることのなさそうな、時間のなかで、たしかな、悲哀に触れた。この先も、消えない、確固たる、嘆きに。過去に戻ることによって。

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