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バリューと連動し、組織体制の変化に強い人事評価制度を苦労の末に設計した話

こんにちは!株式会社COMPASS 取締役の常盤です。COMPASSは「新しい学びの環境を創り出す」をミッションに掲げ、小中学生に対してAI型教材Qubena (キュビナ)を提供している会社です。

現在COMPASSでは積極的に採用活動を行っています。新しい仲間が増えるときは自然と組織に変化が生まれます。その変化が良い方向に向かうように、また既存のメンバーがより充実して働けるように、私たちは人事評価制度を2021年7月に大きく改定しました。このnoteでは、人事評価制度の設計の思考過程や実際の制度を紹介したいと思います。

人事評価制度は何の為にあるのか

制度の詳細に入る前に、人事評価制度そのものに対する考えを紹介させてください。どんな会社でも苦心して運用されることの多いこの制度、一体何の為にあるのでしょうか?

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究極的にはミッション・ビッジョンを達成する為に人事評価制度は存在すると考えています。私は経営のプロセスの全体像を上記のように考えています。ミッション・ビッジョンから逆算をしてマイルストーンを作り、そのマイルストーンを達成していく為の中期経営計画を立てます。この計画を、経営資源であるヒト(組織)・モノ(事業)・カネ(財務)を用いて実行していきます。

よくビジネスモデルの良し悪しに目を向けられることがありますが、どんなに良いビジネスであっても、それを推進する組織が機能していなければ成功することは難しいでしょう。全社戦略を実行していく為の適切な組織を設計することが重要です。その設計こそが、バリューや組織文化、会社の人材に対する考え方の中核となる人材マネジメントポリシー、そして、それらを運用に落とし込んだ人事制度です。評価制度はその代表的なもので、メンバーに行動変容を促す強い効果があります。

つまり、人事評価制度は、メンバーに行動変容を起こし、全社戦略を実行していく為の組織を実現する為のものということです。


人事評価制度の構成

さて、ここからが本題です。最初に人事評価制度の構成についてです。ここまで「人事評価制度」という文言を使ってきましたが、人事評価制度は評価制度・等級制度・報酬制度が連動して運用されます。COMPASSでは次のようになっています。

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評価基準に基づいて社員が評価され、その評価結果によって等級が決まり、等級ごとに定義されている報酬が支給されます。この3つの制度を互いに齟齬なく、バリュー・人材マネジメントポリシーの要素を反映し、一貫性を持って設計をすることが非常に重要です。

COMPASSではミッション・ビッジョンを達成する為の必要な価値観として以下のバリューを掲げています。設計時にはこのバリューが制度と上手く連動していくことを特に意識しました。

Be a Learner - 真の学習者であること
私たちは常に真の学習者であり続けます。 人に学びを促すために、「教える」こと以上に重要なのは、自身が学ぶことを心から楽しんでいる「真の学習者」であることです。

Begin with Sincerity - まず誠実であること
私たちは常に誠実であり続けます。全ての信頼関係の根源は誠実さであり、仲間に誠実に接することを忘れません。

Beyond the Best - 常に現状に満足しないこと
私たちは現状に満足せず、より上を目指します。事実に基づき現状を見つめ直し、改善と最適化を行い続けます。


人事評価制度の基本設計

まずは何をどのように評価して、何へ反映させるか?を決めましょう。ここは企業の色が大きく出るところです。坪谷邦生氏の『図解 人材マネジメント入門では以下の例が示されていました。

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成果を重視して評価するリクルート社、行動を重視して評価するサイボウズ社と、評価する対象が企業によって全く異なることがよくわかります。重要なのは内容よりも方針やポリシーとの一貫性です。

COMPASSでは能力と行動を評価対象の核にしています。成果は個人ではなくチーム全体に紐づくものとしました。具体的には、長期間にわたって蓄積されてきた経験や能力を戦闘力と称して等級制度の中心に置き、バリューを体現する行動・プロセスを等級内での昇降給や等級外への昇格の必要基準にしています。成果は関連するチーム全体の結果として賞与の支給額へ反映されます。

ここはとても設計に時間を使ったところです。過去の人事評価制度は、担っている役割に重きが置かれていました。リーダーであれば等級B、マネージャーであれば等級Aという形で、その等級ごとに求められている難易度の目標の達成の有無で昇降格が決まる仕組みです。

この仕組みでの難点がいくつかありました。例えば、会社都合などの外的要因で体制変更があり、リーダーからプレイヤーになってもらった場合でも、等級を下げなければ制度として不整合を起こすことです。決まりは決まりと割り切って、等級を上げ下げすることができれば制度としては機能すると思いますが、COMPASSの企業文化は全体調和やメンバー1人1人の納得感を大事にするところがあります。等級を上げることはまだしも、外的要因で等級を下げるというのは企業文化に合っていませんでした。

そこで、新しい制度では社員の戦闘力を等級の中心とし、戦闘力を持っているだけで発揮しなくても評価されるということがないように、バリューを体現する行動・プロセスを合わせて評価するようにしています。こうして役割と等級を分離させることで組織体制の変化に強い制度にする狙いです。また、戦闘力を高めるという行為はバリューのBe a LearnerやBeyond the Bestとの親和性もあると思いました。

その他、過去の人事評価制度の目標の達成の有無で昇降格が決まるというのも、成果は複合的な要因によって得られることが殆んどで個人の昇降格に対して適切な目標を設定するのが難しいという課題もありました。チャーンレート(解約率)を下げる目標では、プロダクト開発だけではなく、カスタマーサクセスやカスタマーサポートとの協力が必要不可欠です。自身でマネジメントできない範囲が昇降格を決める目標に含まれるというのは納得感の形成が困難でした。一方で、プロダクト開発で完結するような「◯◯という機能を期日通りに開発する」という目標を立てると、実際にそれが事業成果に繋がっているかが不透明になってしまいます。

最終的に新しい制度では、成果の評価は個人ではなくチームで実施することにしました。成果を関連するチームで評価することで、必要なボールが落ちないよう、よりチーム横断で連携を取るようになると考えています。また、Begin with Sincerityは仲間に対するバリューという位置づけで、成果に関連するチームで一つの同じ目標を持つことは、お互いが誠実な態度で協力し合うことをより意識できるメリットもあります。

このように、方針・ポリシーとの一貫性を意識し、何をどのように評価して何へ反映させるかを決め、評価制度・等級制度・報酬制度の設計に入っていきます。


COMPASSの報酬制度

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上記がCOMPASSの給与テーブルです。等級制度に紐付いており、1から始まって6が最上位。6の上限は設けておらず青天井としています。グラフ上の表現としても年収1500万以上も想定したものにしています。

残念ながら教育業界は他の業界と比較して待遇が低くなる傾向があるようです。COMPASSでは教育業界のみならず他の業界と比較しても遜色ない待遇を社員に提示できるようにという想いからこの給与テーブルを設計しました。実績としても、等級5や6に該当するメンバーは何名もいますし、中には役員よりも高い年収を得ている社員もいます。

また、この給与テーブルとは別に、年に2回成果・業績に応じて賞与も支給することにしています。支給額はチーム全体での目標達成度合いと連動するようになっています。


COMPASSの等級制度

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こちらがCOMPASSの等級の共通定義です。社内では等級を戦闘力と呼び、上述の給与テーブルと連動しています。職能ごとにより詳細な定義を作る案もあったのですが、改定時に細かく定義を作り切るよりは、まずはシンプルなものからスタートし、運用しながら改善をしていく方が良いだろうと、ここまでの粒度に留めることにしました。

この粒度でチームや職能を横断して評価の甘辛を揃えることは簡単ではありませんが、仕事への取り組みを次のように捉えて全体の認識を揃えるようにしています。

・戦闘力1 ~ 2
タスクベースの仕事。課題を解決する為の一部を担っているが、大元の課題解決まではコミットしていない。

・戦闘力3 ~ 4
課題ベースの仕事。課題にコミットをすると不確実性が伴うが、逆算・仮定でタスクをブレイクダウンして業務を遂行していける。

・戦闘力5 ~ 6
課題発見ベースの仕事。取り扱うべき目標 / 課題を自ら見つけることができる。

タスクベースであれば、独力で遂行できるなら2、上長のサポートが必要であれば1。課題ベースであれば、取り扱う目標 / 課題の専門性が高まりステークホルダーの多いものでも責任を持つことができるならば4、とこのように考えています。

総じて、COMPASSではどの職能であっても課題を軸に仕事へ取り組める人が高い評価を得られるようになっています。


COMPASSの評価制度

評価制度

改めて評価の対象を図示するとこのようになっています。改題解決/職務遂行能力が戦闘力評価、行動・プロセスがバリュー評価、成果がMBO評価に紐付いています。

戦闘力評価は給与レーブルのレンジ、MBO評価は賞与の支給額と連動します。では、バリュー評価はどこへ連動するのでしょうか。ここが制度設計でこだわった点の一つなのですが、バリュー評価は給与レンジ内での昇降給と上位戦闘力への昇給の必要条件に利用しています。これはたとえ高い戦闘力を持っている人でもCOMPASSのバリューを蔑ろにする人は評価しない、バリューを大事にしてくれる人を評価するという会社の意志の現れです。

学習者の5段階指標

こちらはバリューの一つである Be a Learnerの評価指標です。このようにバリューを体現している状態の段階指標を作り、3以上であれば昇給・昇格の対象に、逆で1であれば降給の対象となります。

その他にBegin with Sincerity、Beyond the Bestというバリューがあり、それぞれに評価指標を作ってあります。より高いレベルでバリューが体現されるように、バリューを制度の中に組み込み、定期的にメンバーとファシリテーターでレビューが繰り返されています。


まとめ

以上、バリューと連動し、組織体制の変化に強い人事評価制度を苦労の末に設計した話でした。今回ご紹介したのはCOMPASSの人事評価制度の中心となる部分で、しっかりと運用していく為に「期中入社の時はどうなる?」のような例外時の決まりも定義してあります。そして、それらが時の流れとともに陳腐化しないように、今回改定したものがバージョン1.0.0だと思って継続的に改善を続けていくつもりです。実際、既にマイナーチェンジをいくつか行いました。

報酬制度や評価制度は仕事をする上でとても重要な一方で、転職時には質問しづらいと感じる人もいると思います。COMPASSではむしろ転職前にきちんと情報開示することでお互いの期待値調整をしていくことが大事であると考えていますので、どのような質問も大歓迎です。このnoteで人事評価制度の概要はお伝えできていると思いますが、他に気になることがあれば是非お気軽にご質問ください。

COMPASSでは引き続き採用活動を積極的に行っています。応募意志が明確でなくとも、カジュアル面談からスタートすることも可能ですので、少しでもご興味があればご連絡を頂けると嬉しいです!


参考図書

私が読んで良かった本です。専門性を持つ人事と議論する上で基礎的な内容を抑えておくと色々捗りました。


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