好きなことして生きていなくても別にいいけど、嫌なことしながら死にたくはない
好きなことして生きていなくても別にいいけど、嫌なことしながら死にたくはない。
嫌なことを数えると、意外と日々多発していることが分かる。やりたくない仕事、行きたくない学校、口を聞きたくない家族は「三大嫌悪」ではないだろうか。
じゃあそんなもの捨てればいいじゃんと思えど捨てられない。その結果、「嫌なこと」に人生を消費している。
「好きなことして生きていく」なんて広告が新宿に張り出されていたけれど、僕はあんな高望みはしていない。
というより毎日好きなことをして生きなきゃいけないのもそれこそキツイ。
「好き」という信号は相対的なもので「好きじゃないもの」があるから「好き」という概念が存在している。毎日をlikeとloveで塗りつぶすと、これまで好きだったものの価値が下落してより一層むなしくなるはすだ。
「嫌いなことをしたくない」が良いのは、「嫌い」には個人差が無いことだ。「好きなこと」は人間の数だけある。
一様に「音楽が好き」と言っても、クラシックなのかハードコアなのかロックなのかで全然違う。むしろなまじっか音楽が好きな人間のほうが、そうでないひとよりも他ジャンルを嫌う傾向がある。
だから「好き」をベースに暮らしているとわりと死にたくなる。二極化してしまう。好きか嫌いかという論法に至りやすい。
逆に「嫌い」をベースにすれば良いことばかりだ。「嫌いじゃない」というモノサシで物事を判断する。嫌いじゃなければそれで良くなる。
「中庸の無いひとは自殺しやすいんよ」とアル中病院の医者が言っていたが、その通りだと思う。そして自分は完全にそれだ。僕には中庸が無い。
妥協が大事だと思ってはいるのだが、胸中ではいっさい妥協をしていないし、自分を取り巻くすべてに対して減点をしているおぞましさがある。
自殺念慮が湧いてくる日は考え方が極端になる。もっと雑でいいと思うし、弱く紐づいていてもいいとはわかっているのだが、我慢ならない。
その怒りが他人に向かわないのが僕の長所なのだが、短所は自分に向かっていくことだ。
踏切を見るたび一瞬飛び込みたくなるし、ドアノブを見ると「尾崎はこれで死んだらしいが本当かな?」という疑問が湧いてくる(実際、試したことはあるが、極まり方が悪かったのかシンプルにすやすや眠ってしまった)
結果、死んでいないということは、まだこの世に用があるのだろう(実際に死んでしまうひともいるのだから。そのひとたちはこの世に向いていなかったのだ)
だらだらと考えてしまうグズなところは、長所か短所か分からない。即断即決な性格ならとっくに死んでいるからだ。
自殺というものは要はフットワークだ。美人を見ると反射的に声をかける知り合いがいるが、自分にあの腰の軽さがあれば百回は死んでいる。
だからこそ自分を救うために「好きなことして生きていなくても別にいいけど、嫌なことしながら死にたくはない」という風に思うのだ。
嫌なことが続くと人間は死んでしまうけれど、好きなことができていないぐらいでは死なない。
似たような話だが、好きなものが同じひととはあまり仲良くなれない。
「音楽が好きだ」というひととはそれなりに揉める。好きな分、譲れないところがあるのだろう。
反対に嫌いなものが同じひととはけっこう仲良くなれる。タバコが嫌い。いじめが嫌い。初対面なのに肩を組んでくる金のネックレスをした男が嫌い。自分でサバサバしていると自供している女が嫌い。
こちらのほうが心が接近する。悪口だけで夜明けまでいける。
そうは言っても中庸していたい。好きなものが一緒のひとともうまくやりたい。できるかと言われればできない。どうにもうまくいかないし、ケジメを持って諦めてもいる。
すっかりいい大人なのに、他人ととうまくやる技術自体がいつまで経っても習得できていないのだ。その分、折り合いがつかない社会と自分をへし曲げて折り目をつけるテクニックが身に付いた。
「不出来な者」というとシンプルになるが、こんなのは自分だけではない。目を凝らして見ればそこら中に出来損ないが歩いている。
その多くは自分自身と対話するためにアルコールに走っている。
帰り道にストロング缶を飲んでいるひとを見ると、ひどくおだやかな気持ちになる。家まで自分を抑えきれないのだろう。
彼らに「アルコールが好きか?」と聞くと「大好き!」とは答えない。好きでも美味いのでもなく、ただ他者との隔たりから目を背けて独りで酔っ払っているだけに過ぎない。
アル中を見ると「けっ。このアル中が」という気にはなる。
僕は彼らを侮蔑してはいるが、話してみるとやはり仲良くなる。嫌いだから仲良くなるのだ。嫌いなものが同じだからだ。僕たちアル中は自分のことがそれなりに大嫌いなのだ。
本日は映画『さよなら、バンドアパート』新宿シネマート最終日。ありがとうございました。
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