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2035年春、ある農家の厨房にて。

疫病が世界をどんどん蝕んでいた2020年の春。少年はある工場を訪問しました。

そこには5人の大人たちが居ました。

厳しい環境の中でも今できることをしようと、みんな真剣に、でもちょっと楽しそうに会社経営のシミュレーションをやっていました。

ゲームが得意な少年はその会社経営シミュレーションは実は前から何回もやっていました。一緒に参加させてもらって楽しみ、大人たちに教えてあげたりもしました。

シミュレーションに四苦八苦している大人たちを尻目に自分の課題をさっさと終えた少年は、工場の新聞取材記事に見入っていました。

「お、面白いこと書いてるか?」

ある大人が声をかけました。

「売上が何億円とか、社員さんが何十人とか、大きい会社なんだなぁ。」

そんな感想を聞いて大人は提案しました。

「じゃあ、ここの会社の研究開発室を見せてもらったら?面白いよ! どう?社長。」

「おお、全然ええよ!」

少年は目を輝かせてマスクをし、社長と一緒に研究開発室を見に行きました。

「すごいなー、あんな子にうちの会社を経営してもらいたいよねー。」

明日の希望を見た大人たちは、この日一番の笑顔を見せていました。


。。。


それから、世の中は大きく変わりました。

たくさんの人が亡くなり、世界の経済は停滞し、人々は生き方を変えざるを得ませんでした。

人類は大きな苦しみを味わいました。

でも、いいことも起こりました。

空気も水も綺麗になりました。余計な仕事をせず、余計なものをつくらないようになりました。

大きな課題を前に、人は助け合うようになりました。

戦争すらなくなりました。

「人間は、自然にとってウィルスだったのかも知れないね。」

振り返ってそんな表現をする人も居ました。


。。。


2035年の春。

自然豊かな田舎にある農家の厨房で、あの時の大人たちと少年が一緒に料理をしていました。

少年は、大人になっていました。

みんなは畑から自然栽培の野菜をとってきて、庭の鳥たちが産んだ卵を使ってピザを作りました。自然栽培のお米も炊いています。

豊富な果物でジュースを作りました。地元特産の小麦を使ってビールも作っていました。

「15年経って、人間本来の暮らしをしている感じがするね。」
「そうだね。自然に沿った暮らしだね。」

「君は明日の農家学校の先生をするんだって?」

大人たちは少年だった青年に語りかけました。

「はい、明日は農業経営の講義と味噌作りの実習です。」
「いやー、もう経営の実績あるもんな。説得力あるわ。」

「終わったら海外からネット会議での講演依頼受けてるから、それもやります。」
「すごいね、そんなにたくさんやって大丈夫? 何でそんなに熱心にできるんだろうね?」

「それは、あの時があったからですよ。」
「あの時って?」

「研究開発室を見学したあの工場です。あの時、皆さん必死だった。そんな中で、小学生だった自分にも新しい体験をする機会を作ってくれた。だから、自分も次の人達にお伝えしたいと思うんです。」

「そうか〜。」

大人たちは感慨深げに顔を見合わせました。

「今こうやって、君と一緒にお酒を飲めて良かったよ。」

話しているうちに、近所の人たちが一人、また一人と食べ物を持ち寄って来ました。楽器を持つ人も集まって来ました。

いつのまにか賑やかになった農家の集まりは、夜遅くまで楽しく続きました。


     ☆     ☆     ☆


最近身の回りで起こっていたことと、これからどんな生活がいいんだろうっていう思いと、いろいろ混ぜ合わせていたらこんな物語になりました。

次世代に希望がある楽しい世の中ができるといいな。

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