「技術的には可能です」問題
お客様がエンジニアに気軽に聞いた「こんなことできますかね?」という話に、「技術的には可能です」と答えることについてtwitterでつぶやいたら、プチバズってしまいました。
これだけ共感してくれる人がいるということは、同じ状況に立たされたことがある人がすごく多いんでしょうね。
いろいろなレスやリツイートがあったりして、ちゃんと意図を汲んでくれているなぁと思うこともあれば、そうでもないものがあったり。
そりゃそうですよね。こういう会話は質問者と回答者の関係性で成り立つもので、唯一解はないし、この発言が通じるのも自分の普段のキャラ設定の為せる技です。
なので、この発言の意図を真面目に解説するのはなんだかイケズな気がするのですが、こういう状況の真っ只中で困っている若いSEもいると思うのであえて書いてみることにしました。
(なんか長文になり過ぎました。すみません。)
1.「それじゃあ、見積りください」と言われたら負け
この受け答えの意図は、「見積お願いね!」と言わせないことにあります。
なぜかというと、この依頼をした方は技術的ハードルが全く分かっていなくて、かつ、それほどビジネス重要性もない案件で、単に気軽に情報収集している可能性があるからです。
それに対して真面目に「時間とコストがそれなりにかかって良いのであればできないことはないと思います」と答えてしまうと「じゃあ見積りお願いね。それみて判断するから。」という反応が返って来てしまい、受注可能性の無い話に工数を割くハメになります。
人は真面目な返しには真面目に反応してしまうものです。
ですから、初手はあえて不真面目に受け流して反応を見ているのです。
しかも、”技術的ハードルが高い=見積作成も難しい”ことが多いので、真面目に見積もってしまうと、お客様としては「なんだよお断り見積かよ!」と気分を害されてしまい、完全にLose-Loseなことになってしまうことになります。
そんなわけで、この発言の意図するところは「コストかかってもやる覚悟のある重要な案件なんですか?」「相当の覚悟がないのでなければ見積もできないレベルですよ」という意味なんです。
でも、「それ、高いですよ」という、一見無礼なセリフが言えるのも、普段は顧客の要望にド直球で向き合ってるから言えるのであって、「こいつがそういうのなら相当ヤバいんだな」と思ってもらえるからです。
普段ストレートしか投げないやつがいきなりナックル投げてきたよ。
「なんか、これは相当ヤバいのね。」と感じてもらえたらOKなわけです。
これで、分かってないエラい人の適当な要望だった場合は、見積りせずに避けられることも多かったです。
2.お断りありきの回答ではない
「あ、それならいいや」という反応が返ってくれば丸く収まります。
そうでなく「そうか、でもXXできたらYYということができそうなんだよな。。。」とビジネス上とても重要なことを明かされて、それがかなり真っ当な話であれば、こちらも腹をくくることになります。
「そうですか。。。ちょっとうちのエースを捕まえて相談するので、ちょっと見積に時間いただくと思います。」「しかし、XXを技術的に実現するのはかなり難しいので、まず技術検証を提案するか、いくつか代替案をご提案する形になると思います」と答え、この先のハードシングスを覚悟することになります。
でも、このケースは割合的に1〜3%くらいじゃないでしょうか?
私は現場SEだったときには、こんな話振ってもらえませんでした。
プロマネになった後か、いまのCSM(カスタマーサクセスマネージャー)という仕事をするようにになってからです。
こういう話を打ち明けてもらえるのは、それは幸せなことなので、突飛な話も「あー、分かってねぇなぁ〜」とか「やりたくないなぁ」とか邪険にするのではなく、正面から受け止めるのが吉だと思います。
3.それでもエンジニアが「技術的には可能です」と答えてしまうのはなぜか?
ビジネス上意味のあるケースは良いのですが、やっても意味のない話に「技術的には可能です」と答えてしまうと色々とトラブルになるわけです。
それでもエンジニアがそう答えてしまうのは、「出来ないというのが性に合わない」からとか「とにかく技術的に正確な答えをしたい」からとか、色々な説明がされていますが、自分の個人的な感覚では
「自分の責任は技術的な回答をすることで、それ以外は越権行為だから」
と思っている人が多いように思います。
工数、費用、期間はPMが回答し、顧客はそれをビジネス上の価値と比較してやるべきかどうか判断する。そんな理想的な役割分担が頭の中にあるように思います。
でもそんな理想的な分担がなされてることあります?
だいたいの現場はいつもお金も人も足りずに回ってないので、お客さんはビジネス上のやる意味とか考えずに上から言われたことを何も考えずに話を振ってるだけだったりしますし、PMのレスが遅いからちょっとSEに聞いとくわという感じだったりします。
そんな中でSEに放たれた質問は、会社のためにも自分の身を守るためにも、単なるイチSEとして技術面だけの回答してはいかんのです。
越権行為を避けるためなら、「PMかSEマネージャーと相談の上回答させていただきます」が正しいし、そんな杓子定規な回答が許されないなら、ちゃんと会社を代表した回答をするしかないのです。
いや、それで「それ、高いですよ」と回答して、「なんだその無礼な答えは!」と怒られても私は責任持てないんですけど、とにかくお客さんの意図を引き出して、お互いが幸せになれるためにどうしたら良いか知恵を絞った回答をするしかないと思うのです。
4.自分がこういう対応をするようになったのはなぜか?
もともとは直球に直球で返すだけの愚直なSEだった私が、対応を変えたのは、”相手から見た景色”を意識できるようになったからだと思います。
新卒で外資のシステムベンダーに入った自分にとって、発注者側の日本企業の非効率で非論理的(そしてときには非倫理的)に見える業務や意思決定は、全く理解不能なものでした。
しかし、大きな仕事をしようとすれば、顧客組織の中に入り込んで一緒に業務を進めざるを得ず、「自分が顧客企業のマネージャーだったらどうするだろう」を毎日考えました。
名著『人を動かす』や『一分間マネージャー』読んだりして、顧客企業の人たちにどうしたら自分の考えを理解してもらえるのかを考えたりしました。
ですが、最終的には「自分の考えや技術情報を正確に理解してもらおう」という考えを捨てました。
技術的に正しいことなど、顧客企業の中の人も他のベンダーの人も話しているはずです。それでも物事が前に進まないのは、それで顧客がどういう行動したら良いのか、スっと受け入れられる提案になってないからです。
顧客が欲しいのは技術的に正しい回答ではなく、「それでどうすれば良いのか?」「上にどう説明すれば良いのか?」だと、あるとき腑に落ちました。
そんなわけで、「お客さんのこの状況だとこうすると良いんじゃないですかね」という返しをすることに日々徹することにしました。
最初の「それ、高いですよ」は意訳するとこういうことです。
・「コストかかってもやる覚悟のある重要な案件なんですか?」
・「相当の覚悟がないのでなければ見積もできないレベルですよ」
・「とりあえず上にそう伝えてください」
お客さんとしては、「とりあえず上の人の優先度がどのくらいなのか確認してみるか」と行動しやすいアクションに落ちます。
こういう、自分がぼんやり考えていたことが言語化されている本『チャンスがやってくる15の習慣―Skill With People』に出会って、やっぱり仕事上の会話は”相手の考えと価値観を理解するための質問”と”相手目線の提案”に徹するべきだよねとあらためて思いました。
30分で読める短い本ですが、参考になったところを抜粋しておきます。
習慣① 人は自分にしか興味がない、と知っておく
習慣② 相手のことだけ話題にする
習慣③ 認められている、と相手に感じさせる
習慣⑤ 聞き役に徹する
習慣⑥ 相手の求めているものを見つける
習慣⑭ 5つのルールを守って話す
・話す内容をきちんと知っておく
・言いたいことを言ったら、すぐ終わる
・聞いている人の顔を見ながら話す
・聞き手が聞きたがってることを話す
・演説をしようとしない
習慣⑮ この習慣を実践する
1行ツイートの補足にこんな長文の返しを書いてしまうあたり、「お前まったく実践出来てねーじゃねーか!」というツッコミはあるでしょうが、いい本なので、興味もったら読んでみてください。
これにて、おしまいです。
他に挙げた本もとてもいい本なのでよければどうぞ。
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