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ただの学生だった僕が、社会人でも国際NGOを立ち上げる理由

「僕たちの授業を受けてくれていた女の子の一人が、湖のほとりで男に襲われたらしいんだ。彼女は自分がそういう被害にあった時どう対処するか、僕たちの授業を通じて学んでいたから、学校に報告して、今は警察がそれを事件として扱っているよ。あとは、犯人が裁かれるのを待つだけだ。」

僕の現地パートナーのケビンが誇らしそうに、オンラインのミーティングでそう伝えてくれました。そしてそれは、それまで悩み続けていた僕の心のモヤモヤに少しだけ晴れ間を差してくれたような気がしました。

本当に自分のやっていることに意味はあるのか。

いつ目標は達成できるのか。

これを続けたところで、島の生活は良くなるのか。

これは、そんなことをずっと心に抱えて打ち明けられなかった、ただの大学生だった僕が、ほんの少しだけ勇気を出して前に進むことを決心した話です。

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僕のnoteを読んでくれている人や、友達は知っていると思いますが、僕は大学4年生の時にケニアの農村部でクラウドファンディングを始めました。

内容は至ってシンプルで、「HIVの感染率(有病率)がケニア国内で二番目に高い地域で、感染予防のためのコンドーム使用などに関する授業を行う」というものでした。

この時、2020年1月。少なくともこの時の僕は、数ヶ月後に世界中が未知の感染症に襲われることも、2021年の3月まで、このクラウドファンディングに頭を悩ませていることも、何も知りませんでした。

思いつきで初めた、クラウドファンディング

クラウドファンディングを始めた時、僕はケニア・ビクトリア湖に浮かぶ島、ムファンガノ島にいました。

大学の学生団体で調査に行ったカンボジアの農村部がきっかけで、途上国の農村部に惹きつけられた僕。

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カンボジア・アンコールワットに自生する尻に浣腸をする熊谷

しかし、「アフリカ」という未知の言葉のひびきに魅了されて僕が向かったのは、カンボジアではなくケニアでした。

最初はただホームステイをしていましたが、生活していくにつれて、島の課題を目にすることも多くなりました。特に命に関わる問題。HIVが原因で両親を亡くした子どもや、原因不明の病で母親を亡くす女の子、怪我が治らないまま、足を引き摺って歩く男の子。

青臭い正義感に駆られた僕は、アメリカのNGOが設立した、HIVに関する問題を扱う保健センターに足を運び、「ここで働かせてください」と、千と千尋でしか聞いたことのない突撃就活を経て、しばらくその保健センターに厄介になりました。

そこで出会ったのが、今の現地パートナーのケビンです。

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巡回してHIV陽性者たちの心のケアをする活動をケビンがしていたところに、彼が僕についてくるように声をかけてくれたのがきっかけでした。

一緒に患者さんを回っている途中、僕たちは民家でご飯をご馳走になっていました。何気ない会話の中から、僕はケビンがプレステやパソコンのある小さい小屋で利用料をとってビジネスしていることを聞きました。そして、こう言ったのです。

「その施設を使うときにHIVのテストを受けてもらうようにすると、たくさんの人がHIVのテストを受けられるようになるかもね。」

本当に、思いつきで言った一言でした。けれど、この一言がなければ、僕はきっとクラウドファンディングを始めていませんでした。

「それ、やろう。お金はどうやってもってくる?」

何気ない一言に食いついたケビンの突然の反応に身がたじろいだ僕は、こう答えます。

「クラウドファンディングっていうのがあるんだ。それでお金を集められるよ。」

これが、長い長い苦労の日々の始まりでした。

お金が足りない

結果からいうと、クラウドファンディングは始めることができましたが、目標を達成することはできませんでした。150万円を目標にして、達成できたのは325,000円です。

クラウドファンディングには二つの形式があり、「目標額に達成しないとそもそも振り込まれない方式」「目標額に達しなくても振り込まれる方式」の二つがあります。無計画な僕は後者を選択しました。ケビンの前で言った手前、もう引き返せなかったというのも正直ありますが、、

明らかに予算が足りていませんでした。それでもやると言ったからにはやるしかありません。僕は少ない自分の手持ちのお金をちまちま寄付し続けました。

正直、ATMに向かうたび、振り込むのが嫌で嫌で仕方ありませんでした。自己責任なのをわかっていつつも、「この3万円で何ができたかな…欲しかったリュックが買えたかな…」などと下賤なことを考えてしまう自分が嫌だし、実際に振り込んでお金を失うことも、貧乏学生にとっては大きな痛手でした。

元々、ある程度の費用は現地で賄える予定でした。月5000円とかそのレベルですが、現地では結構大きな所得です。クラウドファンディングで調達したパソコンやプリンター、テレビを元手にネットカフェのようなビジネスを始める予定でした。

しかしここはアフリカ、思ったようにコトが運びません。突然の区画整備で大通りに面した建物が破壊されました。もちろん、僕たちのネットカフェも。

現状、新しく物件を借りて床屋を始めましたが、それほど大きな活動資金は得られていません。

本当に「意味のあること」なのか?

僕たちが始める予定だった事業のもう一つが、「HIV予防教育」です。例えば、コンドームの使い方を教えることで、性交渉時にHIVに感染する確率を低下させたり、強姦などの性被害に遭ったときに地域のどの機関を頼ればいいか、などを教えます。

ケビンは自信を持ってこの事業を「いいものだ」としきりに言っていましたが、僕は正直、これに対して懐疑的でした。

コンドームの使い方を教えても、手に入らなければ意味がない。いくら知識を提供しても、お金がないとできないことがある。そして、僕たちの事業では、住民にお金になるようなことを提供することができない。

本当に、こんなことやっていて意味があるのかな。

これを続けていて、いつか目標に届く日が来るのかな。

こんなことをして、誰かに批判されるんじゃないかな。

そんなことを何度も、何度も思い返しては、僕は意味のない活動をしています、とおおっぴらに宣言するのが怖くて、SNSも次第に使わないようになっていきました。

そして僕は、一人で抱え込みすぎて前に進めなくなってしまいました。続けることが、怖くなってしまいました。

だけれど、ケビンと連絡を取ることだけはやめられませんでした。なぜだかわからなかったけど、それをやめてしまったら、自分の中の大切な何かが壊れてしまうような気がして。

いいカッコするつもりは全くないので正直に書きますが、この時の僕にできたことといえば、かろうじて続けるために上にも書いた床屋を始めるために必要な椅子やら鏡やらを買うお金を送ることだったり、授業を始めるのに消毒液が必要だと言われてお金を送ることだったり。

前に向くことが辛くて、その場凌ぎのことしかできず、「やる」と言った約束のいくつかは果たせず、ケビンにはたくさん迷惑をかけました。彼に「作る」といって作りかけた団体のウェブサイトを公開するのが怖くて、何ヶ月もそのままにしておいたままでした。

続ける決心ができるまで

そんなこんなでも、事業はなんとか始まりました。僕が何回か口を出すこともありましたが、ほぼほぼケビンのおかげで始めることができたと言っても過言ではありません。気づけば一回目の事業の終了時期の3月になっていました。

そんな中のある時、たまたま国際協力のイベントの企画をすることになりました。PCMと呼ばれる国際協力の問題解決の手法を学ぶ会です。モデルケースとして、僕たちが活動してきたケニアの島を取り上げてもらい、日本の地方創生も絡めて魚の皮から製品を作っている方もお招きして、20人くらいの参加者でイベントを実施しました。

イベントの最後には参加者のみなさんで作った事業の計画をケビンにプレゼンし、現地とつなぐことを目的になんとか無事実施することができました。

結論から言うと、僕はこのイベントがきっかけで、ようやっと続ける決心ができました。

と言うのも、ケビンが日本の人と繋がれて嬉しいと言ってくれたこと、ここで繋がった20人の中でまた新しい繋がりが生まれて嬉しかったから。何よりも「これまで自分が一人で抱え込んでいたものを公にして、プラスの効果が生まれた」ことが大きかったです。

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実際の様子

こんな僕に対しても、「日本の人と繋がれて嬉しい。今日は知らなかったことをたくさん知れて、新しいアイデアも生まれた。」と言ってくれるケビン。このイベントの講師の方達で繋がって、新しく企画されるイベント。そして、そこでまた誰かが繋がって、きっと、また新しい何かが始まるかも知れません。

きっと、もしかしたら僕たちがやろうとしている「HIVをなくす」目標は遠すぎるのかも知れないけれど、小さく、身近な世界から変えていくことはできる。小さくたくさん変えていけたら、いつか大きく変えることができる。

意味が本当にあるかなんてまだまだ全然わからない。続けていくことは不安で仕方がない。「何をやってんだ」なんて言われるかも知れない。だけれど、一人で抱え込んでばかりいたら何も変わらない。

そう思って気持ちが前を向き始めた頃、ケビンがミーティングでこんなことを報告してくれました。

「僕たちの授業を受けてくれていた女の子の一人が、湖のほとりで男に襲われたらしいんだ。彼女は自分がそういう被害にあった時どう対処するか、僕たちの授業を通じて学んでいたから、学校に報告して、今は警察がそれを事件として扱っているよ。あとは、犯人が裁かれるのを待つだけだ。」

やめたいと何度も思った。でも…

僕はたぶん、そんなに意志の強い方ではないと思います。ここまで一歩踏み出すまでにとても時間がかかってしまったし、自分のやっていることには今も自信が持てないし、この方法のままで、HIVをなくせるとも思っていません。

だけれど、これをやることで救われた誰かがきっといるのだと思うと少しだけ勇気が湧いてきて、止めかけた一歩を踏み出すことができました。

顔も知らないけれど、僕たちがいなかったらずっと、泣き寝入りしたままだったかも知れない。誰にも言うことができず、不安な日々を過ごしていたかも知れない。

きっとこれからも続けていったら、また誰かを救えるかも知れない。また誰かと誰かが、繫がるかも知れない。続けていたら、きっとどこかで誰かが笑顔になれる。

「やっててよかった」と心から思える今を創るためには、「辛くて止めたい」今を乗り越え続けることしかできないのだと思います。

だから僕は、続けることにしました。これから会社員になって、両立が大変なことは100も承知だけれど。活動収入の見込みなんて微塵も立っていないけれど。専門知識も何もないけれど。きっとここで止めたら、続けていたら会えていたはずの人や経験を見逃すと思うと、一生後悔すると思って。

何より、ケビンが思い描く理想を創る支援をしたいから。それはきっと、曲がりなりにも大学生活5年間「国際協力」という実態のない言葉を追い続けて、見つけた自分なりの答えだと信じているから。

少しずつでも前に

とかカッコつけたようなことをざらざら書き綴りましたが、それでもいまだに続けていくことは怖いです。恐怖です。人間は竹じゃないので、迷いってそんなスパッと切れるものではないと思っています。

いまだに人に頼ることは苦手だし、仕事についていくので一杯一杯で続けていけるかどうか不安だけれど、確かに変わったなと思えることがいくつかあります。

まず、マンスリーファンディングの企画ができたこと。Syncableというクラウドファンディングサイトのファンドレイザーの方に伴走支援をいただいて、なんとかページ完成まで漕ぎ着けることができました。

実はこれ、公開4月頭とかだったのですが、仕事始めてから手が回らなくなり、延期という形になってしまいました。幸いにも今、活動に参加してくれる人が1人立候補してくれて、広報のための記事執筆だったりを手伝ってくれています。でもこうやって助けを求めることができるようになったこと自体、僕にとっては大きな進歩だと思っています。

もう一つは、イベントを個人で開催できたこと。コンフロントワールドというアフリカをはじめとした国で活動を行うNPOの代表、荒井さんにお話を聞く会を開催しました。

テーマは「副業と国際協力」。僕がまさに仕事始めたばかりで不安だったので、同じように副業で国際協力(しかもNPO代表)の荒井さんにお話をお伺いするという、イベントという名のお悩み相談会でした。

人来るか心配だったのですが、荒井さんのカリスマもあり20人近く来ていただけました。本当に感謝です。イベント終了後には「私も副業で国際協力がしたくて…」とか、イベント中の質問でも副業で国際協力したい!という声が聞けたのが個人的には嬉しく、荒井さんのアドバイスも含めて大いに励まされた会となりました。

まだまだこれから。

こんな感じで亀のようにノロい歩みをのそのそと進めてなんとかここまでやってこれました。ただ、ここまでやってこれたと言っても、まだまだすぎるのです。

安定的な活動資金とか、日本側の組織体制どうするだとか、ケニア側も組織体制整えていかないといけないよねとか、会計いい加減しっかりしないととか、活動計画はWBSちゃんと作ろうねとか、新しい別の方面からもアプローチしないとHIVって解決できないよねとか、考えすぎると止めたくなる要素が押し寄せてきます。

だけれど、どれをとってももう、それは僕にとって辞める理由にはなり得ないのです。

一個ずつ潰していこうと思います。いつか、心からやっててよかったと思える未来を創るために。

それが、ただの学生だった僕が、国際NGOを立ち上げる理由です。

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マンスリーサポーター募集中!

長々と書きましたが、Syncableで月額寄付型のクラウドファンディングを実施しています。開催期間は5/6~6/10まで!活動継続のための教科書や、現地講師への給与などの調達、そして一緒に前に進んでいただける方々を募るためのキャンペーンです。

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