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LOBBY一周年を迎えて / それでもやっぱり飲食が好きだ。

4/28でLOBBYをOPENして一年が経った。

「1周年は1Fと2Fを繋げて、超盛大なパーティをやろう」と話していたのはほんの2ヶ月前のこと。

予期せぬ形で1年を迎えてしまったけど、その分LOBBYでのこれまでをゆっくりと振り返ることができた。

新しいことを初めて節目の一年、ということで、この一年間の飲食店経営の感想を書いてみたいと思う。

飲食との出会いと、挫折

僕が飲食店をやろうと思ったのは12年前、20歳のとき。
当時はカフェブームで、夜お酒を飲みにカフェに行くのが流行っていた。
駒沢公園のバワリー・キッチンや、中目黒のオーガニックカフェなんかの影響を受けて、一気にカフェ業態が増えたカフェブーム第二期くらいのときだったと思う。

渋谷のザリガニカフェとか、attic roomとか、よく行ってたなあ。

当時大学生で、カフェカルチャーのど真ん中にいた僕は、「自分も将来カフェをやる!」と言い続けて、毎日いろんなカフェを回っていた。

そんな時に、当時中目黒にあったgiggle cafeのキッチンスタッフの求人を見つけて、鼻息荒く応募、ついに念願のカフェで働き始めた。

BAR014という最高のバーを経営し、LOBBYのお酒を監修してくれていている健介さんは、giggle cafeで一緒に働いてた先輩だ。

giggleはカフェ好きの中では有名な店だったので、バーガーマニアの駿介さんも、サンカントサンクランタンを経営するシェルシュの丸山さんも、当時のgiggleに来てたらしい。

そこからしばらくの間、昼は大学、夜から朝までgiggleで働くという生活をしていた。

僕はgiggleで働くために、千葉の実家から1時間かけて通ったり、学芸大学に16人が住むオンボロシェアハウスに3畳の部屋を借りてたり、結構身を削っていた。
時給850円だったから、シェアハウスの家賃(60,000円)を払うと数万円しか残らなくてお金は全く無かった。大学とお店の往復で友達と遊ぶこともなかったけど、毎日とにかく楽しかったのを覚えている。

料理が好きだったのはもちろん、当時20歳の僕にとっては、かっこいい大人のお客さん達と交流することが刺激的だったし、何よりお店が好きだった。
学生バイトの身だったけど、「お店に貢献したい」と本気で思っていた。

そんなgiggleは、僕が入った2年後、2010年4月に閉店してしまった。
有名店だったのに、閉店間際は本当に数組しかお客さんが来なくなってしまっていた。

お客さんが減る日々の渦中で、僕なりに「なぜこうなったのか」を考えていた。

僕が思う一番の致命傷は、街に合わせて変われなかったことだ。

僕がいた2年間の中でも、中目黒の街は劇的に変化していた。
昔の中目黒は、駅ビルも高いビルもなく、目黒川を中心に個人店が並ぶローカルタウン。
それが、超高層マンションの建設計画が始まり、サイゼリアやドン・キホーテといった巨大チェーンが入り、街の様相が変わっていった。

街が変わると、住んでる人ももちろん変わる。
飲食店は、そこに合わせて提供する価値を変える必要がある。

だけど、僕達は変わることができなかったし、変える方法がわからなかった。そもそも、何がどう変わったのか。これから変わっていくのか。自分達なりの予想も立てられていなかった。

良くも悪くも、カフェブームに乗り最盛期を迎えたお店だったから、誰一人経営やマーケティング能力に秀でていなかった。

あんなには流行っていたお店が、殆どお客さんが来ないお店に。閉店をオーナーから告げられた時に、驚きは無かった。

身を投じていたお店の閉店はもちろんショックだったし、何より、何も出来ずに見ていることしか出来なかった自分の将来に危機感を覚えた。

このまま何の知識も無く飲食店を始めても、長く続くお店は作れない。

どうしたら良いかわからなくなった僕は、一度企業で働くことにした。
正直に言うと、自信が無くて逃げた感じに近い。

だから、ずっと飲食一本で流行る店を作っている人達、職人でありながら経営能力も備えている人達のことを、めちゃくちゃ尊敬している。

飲食に戻ってくるまで

それから僕は、新卒でYahoo! JAPANに入った。
Yahoo!を選んだ理由は、インターネットのトップ企業の一つだったから。
インターネット業界を希望した理由は、インターネットなら、資本力が無い個人店にすぐに貢献できると思ったからだ。

中目黒の街の変化を見ていて、大規模チェーンの参入は、街をつまらなくすると感じた。
大規模チェーンは、個人では高くて手が出せない良い立地に入り、圧倒的な低価格でサービスを提供する。
必然的に、資本力と規模の経済に成す術がない個人店は潰れることになる。

個人店が無くなると、どの街も同じ風景になり、街がつまらなくなる。
一時期から、中目黒がつまらない街になってしまったのが悲しかった。

街を「刺激的で楽しく」するためには、個人店が必要だ。
だから僕は、「個人店を守るために働こう」と決めた。

それからずっと「スモールビジネスに貢献する」という軸に基づいて職場・職種を選んできた。

Yahoo!で3年半働いてから、Googleへ転職。Googleでは、より中小企業に向き合うチームに。デジタルマーケティングを通して、200社くらいの中小企業の戦略立案に関わった。

企業とは別に、もっと手触り感ある自分の活動がしたくて、チョークレタリングを始めた。
制作でフィーを頂けるようになり、制作業としても実績が出来た。

色々なビジネスを経験して、自分なりに自信が持てたタイミングで独立し、高校、大学からの仲間とLOBBYを始めた。

そんな風に飲食に戻ってきて、一年が経った。
様々なビジネスモデルを見てきた上で、飲食に戻ってきた僕なりに、感想をまとめてみる。

飲食は、一言でいうと、手のかかる子供だ。

お金はかかるし、儲からないし。体力も削られる。でも、めちゃくちゃ楽しい。めちゃくちゃかわいい。(子供いないけど笑)

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感想① 飲食は、ハイリスク

まず、飲食は、リスクが高い。

特別な資格等も必要ないため、開業ハードルは非常に低い。
その分、イニシャルコストが大きい。
リアルな場を作るために初期投資が必要だし、ロゴやメニュー、SNSなどのデザインへの投資も重要になる。

僕達の場合は1,700万円のイニシャルコストだったけど、開業には少なく見積もっても800万円以上はかかるだろう。
「いきなり800万のロスを計上して始めるビジネス」と考えると、今の時代、あまり合理的な感じはしない。

場所を借り続けるためのランニングコストもかなり負担になる。
今の時期のように、お店が営業できなくてもコストがかかる。
環境変化の煽りをまっ先に受けることも、リスクが高いビジネスと言えるだろう。

感想② 飲食は、ローリターン

そして、やっぱり儲からない。
儲からない理由は3つある。

①まずはじめに、日本の飲食店は安い。安すぎる!

海外に行く人は知っていると思うが、アメリカや欧州の経済都市の平均飲食単価は、東京の2倍くらい高い。

ニューヨークやロンドン、パリ、シドニーで、ランチでコーヒーを付けたら、20〜25ドル(ユーロ)くらい普通にかかる。日本円で2,000円は安いくらいだ。
カクテルも、LOBBYは800円から用意しているが、欧米では大体20ドル前後。
更に、国によってはチップもあるから、飲食店で働く人々の待遇は日本よりずっと恵まれている。

シドニーでは、バリスタやバーテンダーも、年収600万円以上稼いだりするそうだ。

確かに、東京は海外主要都市に比べて家賃は安いのは事実だが、それを考慮しても飲食単価は相当安いと言えるだろう。

②競合(飲食店)が多すぎる。

じゃあなんで安いのか。
理由として、日本には飲食店がやたら多い事があると思う。

この前、ニューヨークで複数店舗を経営する友人の話を聞いて納得した。
ニューヨークですら、2Fに位置する飲食店はほぼない。大体が路面店だそうだ。

一方、日本では、居酒屋ビルのように、1階〜6階まで全部飲食店というビルがたくさんある。東京だけじゃなくて、地方都市にも。
これはアメリカ人からしたら驚愕らしい。

更に驚くべきことは、どのお店も美味しい
不味いお店に当たるほうが難しいレベルだ。

美味しいのは当たり前。
スタンダードのレベルが高いから、単純に料理やお酒が美味しいという提供価値だけだと戦えないのが日本の飲食業界。

提供物のクオリティに加えて、綿密な戦略を要する難しいビジネスカテゴリだと言える。

③箱の制限で、時間あたりの利益上限が決まっている

飲食はいわゆる箱ビジネスだ。
空間を持つのにやたらお金がかかるのに、場所の制限があるので、利益天井がある!
(超当たり前なんだけど、ネット業界出身だと非合理に感じる)

めちゃめちゃ流行ってても入れる人数が決まってるし、ピークタイムに来店が被ってしまうこともあるから、売上を逃すことも多い。
悪天候の影響もモロに受ける。

個人的には、空間で限定される利益上限を、いかに拡張するかというのをテーマにおいて運営していた。

デリバリー、ECやレシピ等ナレッジシェアでの利益創出、スタジオ貸しなど空間の時間帯別活用転換等、飲食店を社会とのタッチポイントとして設置し、他ビジネスモデルで利益を伸ばす戦略は、コロナで加速される考え方だと思う。

▲LOBBYのECページ。デザインプロダクトを販売している。


そんなこんなで、飲食は儲からない。

1日3人で8時間働いたって、利益が数万円という日もある。もちろん、赤字の日もある。
こんなに頑張ったのに、利益これだけ!?という日々だ。

いろいろな事業を並行している僕達にとって、全ての事業を並べて見ると、飲食の利益率は顕著に低い。
でも、僕達の会社では、LOBBYに一番時間と労力をかけている。
事業効率は圧倒的に低いから、もしも株主がいたらやめろと言われるかもしれない。

でもこれは、リターンを「利益」というお金だけで見た話

そんな飲食業を、こんなに多くの人が続けるのは、また別のリターンがあるからだと思う。

感想③ 飲食は、日々小さな感動に出会える

ハイリスクローリターンなビジネスモデルなのに、こんなに多くの人が飲食店を続けるのは、お金以外のリターンがあるからに違いない。

10年振りに飲食業に戻ってきて、感じたこと。
それは、「飲食は、とにかく楽しい。」

まず、何かを作ることが楽しい。
カクテルを作ることや、料理自体が楽しい。
今、在宅が増えて料理にハマる人が増えているが、その根源に作ることが楽しいという感覚があるはずだ。

絵を描くことにも似た感覚があるが、「何かを作る」というのは、幼い頃から自分の意思で楽しんできた、人間の根源欲求なんだと思う。

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そして、人との関わりが楽しい。
人が喜んでいる顔を直に見ることが出来ることは、やっぱりやりがいになる。
場を通して、人と人が繋がり、何かが生まれる場面に立ち会えるのも感動的だ。

お店を始めてから、本当に日々、感動している。

ずっとデジタル広告を主戦場にしていた僕にとって、自分の仕事の反応が直に帰ってくることはとても新鮮。
デジタルに張り付いていたからこそ、人間的な感動を渇望していたのかもしれない。

何かで読んだ野村友里さんのインタビューでみた、「飲食店は、社会との接点だ。」という言葉が記憶に残っている。

自分達が良いと思う物事を提供している空間で、人々が気持ちよく時間を過ごしている姿を見ると、自分達の思想や行動が、社会に少しでも貢献していると実感することが出来る。

デジタル広告をやってた時は全く感じられなかった感覚だ。

こんなにやりがいがあり、楽しく充実した時間を過ごせるなら、少しくらい利益率が低くたって良い。
そう思ってる人が沢山いるんだと思う。

そして、日常の中で感動を求めて飲食店に集まるのは、客側としても同じ。
リアルな場だからこそ感じる温かみ、人間的な感動を求めて、僕らは飲食店に行くのだろう。

それでも、飲食店は無くならない。

今、新型コロナの影響で、多くの飲食店が苦境に立たされている。
飲食店は、言うまでもなく、店を営業できなければ赤字が積み上がっていく仕組みだ。
たった一月営業ができないだけで、本当に、死活問題になる。

利益率が低いから、これまでの利益を内部留保できているお店なんて、ほとんど無いだろう。

このタイミングで、少なくない飲食店が閉業になると思うし、僕達のLOBBYも予断を許さない状況にある。

更に、あらゆる物事のオンライン化が一気に進み、ZOOM飲みなんて言葉も聞かれるようになった。
オンラインの便利さに多くの人が気づき、人々の生活スタイルも一新されていく。食事やお酒の飲み方も変わるだろう。

「それでも、飲食店は無くならない。」

オンラインから、アナログな世界に戻ってきた自分だからこそ、そう言い切れる。

それはやっぱり、飲食店は感動に溢れているからだ。
造り手の想いが詰め込まれた空間で、人が作った料理を食べ、人と触れ合う。
飲食店には、人間的な楽しみが詰まっている。

そんな飲食の魅力に、この一年で改めて、どっぷり浸かった。

正直、「作るのにあんなにお金かかって、しかも利益ほとんど無いのに、今度はどうしようもない理由で閉店危機かよ!」という感じだが、それでもやめる気はない。

僕は、LOBBYを長く続けることに最大限の努力を続けるし、仮に今お店が閉店してしまっても、もう一度再起して飲食店をやりたい。
同じように考えている人は多いと思う。

今後、僕達がオンラインの世界に慣れればなれるほど、リアルな飲食店の価値は高まっていくはずだ。
みんなまた、飲食店に行きたくなる。
その時のために、みんなで協力して、できるだけ多くの飲食店を残しておこう。

お金がかかるのに儲からないし、体力も削られる。時代の煽りを受けて閉店危機に追い込まれる。

それでもやっぱり、飲食が好きだ。


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