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専門家が語るアントレプレナーシップ教育概論[2021年度版]

こんにちは、タクトピア代表の長井です。学習指導要領の改訂により、2022年度から高校にて「総合的な探究の時間」が開始されますね。ここ数年で学校教育に急速に広がりつつある「探究」の学びを実現するにあたり、私はアントレプレナーシップ教育が重要な一角を担うと思い、実践してきました。とはいえ一般的な認知度は依然として低く、「アントレプレナー?なにそれ?」「なんか胡散臭い」「生徒に金勘定を教えたいわけじゃない」「発音しづらくて嫌(?)」といったネガティブな声も多いのではないでしょうか?今回は何本かの記事に分けて、タクトピア視点での「アントレプレナーシップ教育とは何か」について描写していきたいと思います。「総合的な探究の時間」をどう実現していったらいいんだろうと奮闘している先生方、with/afterコロナ時代に向けてお子様をどう育てていけば良いのだろうと悩む保護者の皆さまにぜひ読んでいただけたらと思います。

■記事一覧(リンクから飛べます)

0. 私がアントレプレナーシップ教育を専門にするまで(本記事に掲載)
1. アントレプレナーシップ教育とは何か?
2. なぜ、アントレプレナーシップがすべての人に必要なのか?
3. どのようにアントレプレナーシップ教育を実現していくか?
4. 最新!中高でのアントレプレナーシッププログラム事例
5. その他の新しい学びとの接続

0.私がアントレプレナーシップ教育を専門にするまで

私自身はIBM社でコンサルタント職にあった際にリーマン・ショックの直撃を受けた経験から問題意識をもち、社団法人を含め教育分野で3社を起業しました。その後、東日本大震災の被災も経ながら事業を継続させて今年で11年目になりますが、私の問いは起業当時から変わっていません。それは「人が自身の人生のオーナーシップ=指揮棒(TAKT)を握るにはどうすれば良いか」 というものです(ちなみにタクトピアのロゴにも、多様な世界へ飛び出そうと指揮棒を掲げた挑戦者の姿が描かれています)。

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歴史を振り返れば、近代日本の教育は 「誰かに指揮されたときに最大の力を発揮する人をつくる」ように設計されてきました。富国強兵、戦後の復興、高度経済成長を成し遂げるためにはそれが最適解だったからです。国家やカリスマ的な企業のトップがリーダーとなり、その傘の下でがむしゃらに働くというハードワークの美徳が生まれたのもそこからです。
しかし時代は変わりました。特に新型コロナウィルス(covid-19)が世界を席巻して以降、政治経済面もますます変化が激しくなっており、政府も「自助」を唱え、企業もますます終身雇用から離れていく構えを見せています。一見厳しいように見える流れですが、視点を変えれば「一人ひとりが自分の人生の指揮をとり、自らの意志で幸せ(ウェルビーイング)を追求することができる」時代であるとも言えます。文部科学省が従来の知識偏重型から「探究」を中心とする学習指導要領の改訂に踏み切ったのも、そうした時代背景を捉えてのことと思われます。

アントレnote記事用

そんな背景をふまえているために、タクトピアの考える「アントレプレナーシップ教育」のゴールは「起業家育成」ではなく、あくまで「主体的に人生を生きていける人を増やす」ことであると定義しています。プログラムとしてアントレプレナーシップを学ぶことが、目的達成のための非常に強力な手段であると気づいた、という思考の順番です。

創業年である2015年から米国MIT(マサチューセッツ工科大学)のアントレプレナーシップ教育の思想をベースとしつつ、日本の実情に合わせて独自に日本の中高生向けメソッドを開発してきました。はじめはMIT(マサチューセッツ工科大学)をいわば聖地とする米国への海外研修を実現。次いで、世界の社会問題(SDGs)に触れ解決に挑むという東南アジアへの海外研修。今では、より身近な問題解決を自分事として実践する国内での定期講座型のプログラムをも実現しています。プログラム卒業生は約2.5万人(2021年8月時点)。中高生を中心にこの分野に特化したプログラムを提供してきた経験値としては、国内随一であろうと自負しています。

そんな背景からアントレプレナーシップ教育を専門としてきた私およびタクトピアですが、日本の中高教育文脈での「アントレプレナーシップ」はまだまだスタートを切ったばかりであり、業界のなかでも共通の理解が持てている状態でないと言えます。

参考:一般社団法人ベンチャーエンタープライズセンターがまとめている「ベンチャー白書2018」では、「起業に関する教育、研修」のセクションで、中高時代に教育を受けた率は1.6%との調査結果を出しています。実際に起業しているベンチャー企業を対象した調査ですらこの率なので、世の中一般ではほぼ無に等しい状況であろうと思われます。反面、2018年と比較するとはるかに中高でのアントレプレナーシップ教育に関する試みは多くなってきたとも感じており、まさにいま勃興しつつあるフェーズであるとも言えそうです。

そこで、2021年の日本におけるアントレプレナーシップ教育についてまとめておきたいと思い至りました。以下、いろいろな角度から説明を試みていきますので、皆さんの参考になれば幸いです。

前置きはこのくらいにして、次の記事では「つまりアントレプレナーシップ教育って何なんだよ」という疑問を晴らしていこうと思います!