見出し画像

イボノイト

蕎麦は大好物なのだが、饂飩系はあまり好きではなかった。
素麺も例外ではない。

ところが、たまたま頂き物の揖保乃糸を食べてから、世界が180度変わってしまった。
さすがに、素麺といえば揖保乃糸と、世に広く喧伝されるだけのことはある。
味といい香りといい食感といい、同じ素麺とは思えなかった。

それからしばらくは、揖保乃糸に絡め捕られていた。
最初は週に5、6食、その後も週に3、4回は食するようになった。

そんなさなかに気になったのは、イボノイトという名称だった。
なぜかというと、僕は昔からお尻によくおできができるからだ。
ちょうど尻っぺたの、椅子や床に接する箇所を狙ったようにできるので、ひどい時には、痛くて座ることもできなくなる。
厳密に言うと、おできとイボは別物らしいが、ぼくは自分でそれをケツイボと呼んでいた。
そんなことから、イボという名前が妙に引っ掛かったのだ。

揖保乃糸の「揖保」の由来は、「播磨国風土記」によると、こんなことになっている。
播磨の国神「伊和(いわ)大神」と渡来神「天日槍(あめのひぼこ)」が国を争ったとき、伊和大神が大慌てに食事をしながら川を遡る途中、口から飯粒がこぼれた。
その地を「粒丘(いいほのおか)」と呼ぶようになり、転じて「揖保」となった。
わかったようでわからない説明だが、一応そういうことなのだろう。
この説によると、皮膚にできるイボとは、なんの関係も無さそうなのだが、形が飯粒に似ているところから、イボのことを飯粒と称し、イボと読ませることはあるそうだ。

久々にケツイボができた。
右の尻っぺただ。
椅子に座る時には、右のお尻を少し浮かすようにしなければならない。
段々ひどくなるが、ピークを過ぎれば2~3日で落ち着くだろう。

…と思っていたのだが、今回は違っていた。
痛みは募る一方だった。
それどころか、左側の尻っぺたにまでケツイボができて、普通の姿勢では、椅子に座れなくなってしまった。

それでもまだ、終わらない。
さらに両の足の裏にもできた。
踵の部分だ。
歩く時にはもちろん、立っている時にさえ、爪先立ちをするしかなかった。

このイボの救いは、刺激を与えなければ全く痛みも何も無いことだ。
しかるべき対応策が、必ず見つかるのだ。

イボは増え続ける。
背中にも、足の指のひとつひとつにも…。
もはや爪先立ちすらできない。
立つことも、座ることも、寝ることもできなかった。

仕方が無いので、クローゼットのステンレスパイプにぶら下がっていることにする。
腕と手が持たないので、時には手を放して下に降り、痛みをこらえつつ、手が回復するまで待たないなければならない。
この上さらに、掌にまでイボができたら、僕はどうすればよいのだろう。

イボはさらに増殖するのだろうか。
僕をどうしようというか。
イボの意図がわからない…

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?