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関西のオバチャン

私は午前中のスーパーで買い物をするのが好きです。
好きな時間にスーパーで買い物ができるのは、在宅ワーカーの特権です。
開店直後は外した、お昼少し前くらい。
商品も沢山並んでて、混雑も少し落ち着くころ。
この時間帯に商品を選びながら、ゆっくりスーパーを歩く時間は良い気分転換になります。

そのはずなんですが、
昨日は自分のペースをすっかり乱されてしまいました。

お肉コーナーで、特売のとりもも肉をみていたら、

「ちょっと、ねーちゃん!ねーちゃん!」

という声と共に、誰かに突然二の腕をつかまれました。

(あ、私?)

てっきり誰かがスーパーの店員さんを呼んでるんだと思い、
関係ない私はちょうど良いグラム数のとりもも肉を見つけ、
カゴに入れようとした所。
急に冷たい手で二の腕をつかまれたので、
ちょっとびっくりした顔をしていたと思います。

そこには50代後半位、
髪の毛を明るく染めて、
うなじを短く刈り込んだオバチャンがいました。

(え?この人も、このとりもも肉が欲しかったの??)

トンチンカンな事に思いを巡らせていたら、

オバチャンは私の目の前にズイッと、
何やらお肉のパックを差し出してきました。
パックには

『豚バラ肉とニンニクの芽のピリ辛炒め』

と、書かれています。

「ねーちゃん、これ美味しいんかな?」

(……何故それを私に聞く??わたしゃここの店員でも、肉のスペシャリストでも何でもない…)

心は色々な考えを巡らせながらも

「さぁ、私は買った事ないから…」

と申し訳なさそうに答えました。
それでもオバチャンは

「味、濃いんやろか?
こう見えて、アタシもオトウチャンも塩分には気ぃ付けなあかんって言われてるねん。」

と矢継ぎ早に聞いてきます、

(だから何故、私にこの『豚バラ肉とニンニクの芽のピリ辛炒め』について聞く??
わたしゃオタクら夫婦の主治医でもないんだけど。)

頭の中はクエスチョンマークでいっぱいになりながら、
オバチャンの持つ『豚バラ肉とニンニクの芽のピリ辛炒め』の表示を確認してみます。

「塩分はちょっとよく分からないけど、ピリ辛炒めだから、ピリ辛だとは思います。
辛さが気になるなら、玉ねぎとかキャベツと一緒に炒めたらいいんじゃないですかね?」

(それ以上私にどんな答えをこのオバチャンは期待してるんだ?)

「ふーん、で、この緑のヤツは何やの?インゲンか??インゲンはスジがあるやろ?」

(……これ、『豚バラ肉とニンニクの芽のピリ辛炒め』!!
オバチャンもはや、何故コレにそんな興味を持った?!)

「…ニンニクの芽じゃないですかね…?」

「アカンわ、そんなんうち食べられへんわ。しらんけど!」

(でた!!しらんけど!!!)

オバチャンには残念だったけど、これ以上私にできる事も無いので、

「それじゃぁ私は…」

と、その場を離れようとしたら、

「普通の豚バラに自分で味付けしたらええのんか?」

(…オバチャン、そんなに豚バラ肉のピリ辛炒めが食べたいんか?)

「…そう、ですね。」
(ちょっと嫌な予感がする…)

「そんなん、アタシどないして作ったらええのん?
それになんなん、ニンニクの芽って!
ピーマンにしてくれたら、アタシもオトウチャンも食べれるのに!!」

(しらんがな。)

「…豚バラ肉とピーマンを買って、クックドゥで炒めたら、良いんじゃないですか?」

「あー、CMでやってるやつかぁ!それならアタシも作れるわ!
それで、どこにあるのん?それ。」

(だぁかぁらぁ、なぜ私に聞く??)

それでも乗りかかった船??
このオバチャンが満足のいく『豚バラ肉のピリ辛炒め』の材料を手に入れるまで、
とことん付き合おう!

そう思い直してオバチャンと一旦肉売り場を離れ、
中華調味料売り場に向かいます。

あった!クックドゥ!!

「これにお好きな野菜を足したら、さっきのパックと似たようなヤツ、出来るんじゃないですかね??」

「そうかぁ、ありがとう!」

その時、
私達がクックドゥを見つけて喜んでる隣で、
忙しそうに商品補充をしている店員さんを横目に、
オバチャンは私にだけ聞こえる声で、

「なんや、あの子らいつも忙しそうやろ?
一生懸命働いてるのに、アタシがその手を止めたらかわいそう思てな。」

と囁きました。

(…このオバチャンもちゃんとこのスーパーの人の事、考えてるんだ。
だから、のんびり買い物してる私に声かけたんだ。
…ん?)

なんか納得したような、オバチャンにツッコミたいような複雑な気持ち。
それでも、オバチャンの優しさも垣間見れて、ちょっとホッコリ。

爽やかな気持ちでオバチャンと別れようとしたその時、
オバチャンは視界の隅にある魚売り場で、何かを捕らえました。

「いやぁー!なにっ!?
今日、お刺身めっちゃ安いやないの!!
それやったら、お刺身買って、海鮮丼にしよ!
オトウチャンも喜ぶし!アタシも暑い中フライパン振らんでいいし!
うん!そないしよ!
もうだから、これえーわ!
ごめんなぁ、ねーちゃん。ありがとうやで!!」

そういうと、サッとクックドゥをもとの棚に戻して、オバチャンはお刺身売り場に走って行きました。

……えぇぇええ!!?
時間にしたら、5分もなかったと思うけど、どっかで隠れて「モニタリング」のロケでもしてるんですかぁ???

しばらく本気で、ある訳もない隠しカメラを探しました。

オバチャン、自由すぎる…

ちょっと放心したまま残りの買い物を済ませて、袋に詰めてたら、
さっきのオバチャンにまた声をかけられました。

「ねーちゃん、さっきはどうもありがとう!
なんなん、あんたお菓子好きなんかいな?
ほんならさっきのお礼にコレあげるわ!」

と、私のカゴに入ったポテチを見てなのか、よくわからないけど、
オバチャンは買ったばかりのマリービスケットの箱をバリバリ開けて、
私のカゴにそのうちの3袋を入れて、スタタターっと去っていきました。

最初から最後まで、すごいマイペースなオバチャンだったな。
けど、なんか憎めない、面白い位、典型的な関西のオバチャンでした。

でもこのオバチャンがお姑さんだったら、
絶対イヤだけどね(笑)

今度オバチャンに会えたら、お礼言おう。

昨日はゴーヤチャンプルー。

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