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【読了記録・ネタバレ抑えめ】『誰が勇者を殺したか』駄犬作

○はじめに

みなさん、こんにちは😆

今日は個人的「今年読了した本ランキング1位」を更新した駄犬作『誰が勇者を殺したか』の読了記録をゲームシナリオと比較して書ければなと思っています🎮📕


○『誰が勇者を殺したか』概要

この作品は著者がWEBサイト「小説家になろう」にて投稿した2作目。そこで高い評価を得て角川スニーカー文庫から2023年10月に発売された。

話の舞台・時期は、勇者・アレスが魔王を倒した後。山田鐘人原作・アベツカサ作画の少年サンデーの人気作品『葬送のフリーレン』と同じ雰囲気の作品かなと思い私は手に取った。

その魔王を倒したときから4年経ち、王女・アレクシアは勇者の功績を書物に残そうと編纂事業を立ち上げる。アレクシアはかつて勇者の仲間でありファルム学院の学友であった戦士・レオン、僧侶・マリア、魔術師・ソロンに話を伺いに行くところから話は始まる。

しかし、勇者の故郷・タリズ村でアレスの母親・シェラに話を聞くと3人から聴いた話と齟齬が生じる。一体誰が勇者を殺したか。アレクシアは真実を追求する。


⭐︎ゲームシナリオと小説の違い

①ゲームシナリオと小説の描き方の違い

あらすじを読んでいただいたとおり、このお話はエニックスの人気ゲーム『ドラゴンクエスト』のような中世ファンタジー作品。私はゲームも読書も好きなので、「ゲームシナリオと小説の違い」に着目しながら読んでいた

『ドラゴンクエスト』

そこで気づいたことは、「進行の仕方」だ。例えばゲームシナリオはAというイベントを描くとき人物aが人物bの悩みを聞く・介入する、その後Bのイベントで人物a・bが魔物cを倒すなどA→Bと因果的・理論的に進行することが多い。

しかし、この小説ではAというイベントで人物aは人物bをこう思っていた、逆に人物bは人物aをこう思っていたのように相互的に描くことで補完している。

ゲームシナリオのキャラストーリーの描き方は一方的に進むが、この小説はお互いにどう思っていたのか=関係性・間を描くことにより心の機微が際立っている。よくミステリーではヒントから謎を解き明かすことをパズルのピースで例えられると思う。だが、この小説の描き方はそれだけでなく、視点の変化がコインの裏表のようにピースごとではなく密接に関わりあう感触が得られる。私は小説がゲームや映画・アニメより良いと感じる部分はこの「関係性・心の機微の描き方」にあると考えている。

②「なぜ?」について説明している

本作では例えば「回復魔法や攻撃魔法がどういう経緯で習得することができるのか」、「魔法文化をどう受容されているのか」などゲームをすると当たり前にあるものについて「社会や文化を交えて」由来を説明している。魔術師・ソロンに至っては「勇者とは何か」というゲームでは当たり前の職業の意義をアレクシアに問うし、自身も考えている。

本作の世界では、回復魔法は神の恩寵で得られるものと考えられており、自然とすぐに身につくものではない。そのため、戦士・レオンや魔術師・ソロン、もちろん勇者・アレスも使うことはできなかった。

しかし、この世界では過去の勇者は「魔法も駆使しながら」魔王を倒したと伝わっている。ではなぜ剣・魔法両方とも会得している人物が現れなかったのか。それは、いつ会得できるか分からないもののために労力を割くことができないから。そのため、勇者養成学校・ファルム学園でも戦士・魔術師・僧侶はクラスは別で他の分野を学ぶことは勧められていない。

ゲームでも「社会や文化を交えて」説明しているものもある。例えばスクウェアのゲーム『ファイナルファンタジーVII』魔晄(まこう)という新エネルギーを発見し独占している神羅(しんら)という会社に翻弄された人たちが戦う話。魔晄から生み出されたマテリアによってこの世界では魔法を放つことができる。

日本ファルコムのゲーム『空の軌跡』から始まる『英雄伝説軌跡シリーズ』は同じ大陸の別の国をそれぞれ舞台にしていて、社会や文化、また大きな国ごとの対立・戦争を描く。ただどれも大作シリーズ作品ばかりである。

『FINAL FANTASY Ⅶ
英雄伝説空の軌跡

最近はゲームハードのハイスペック化によるゲームプレイや(アクション・FPSなど)、キャラクター重視で社会や文化・政治などマクロなものが描かれにくくなっている。任天堂の『スーパーマリオシリーズ』のマリオは「配管工である」ということはプレイしている人うちどれぐらいの人に知られているのだろうか。またマクロなものを描くとプレイ時間が長くなる・シリーズ作品の長期化に繋がり、開発の難航や忙しい現代では追いにくくなっている。

その社会・文化・政治などの世界観の描き方も交えて200ページほどに収まっているのは小説のいいところだと思う。

もし重厚な世界を描いているゲームを知っている読者がいれば、私もそういうゲームを欲しているのでコメントなどで教えていただきたい。


☆『誰が勇者を殺したか』の面白いポイント

①勇者の仲間全員プライドが高い

この勇者パーティの面白いところは戦士・レオン、僧侶・マリア、魔術師・ソロン全員がプライドが高いこと。レオンは貴族の生まれで剣聖と呼ばれていたため、周りに張り合える人や同じ立場で話せる人がいなかった。僧侶・マリアは小さい頃から神の存在を感じられることで周りから尊敬されることで歪み、周りの人に期待しなくなった。魔術師・ソロンも1歳の頃から文字が読め、父親が所持していた難しい魔法書も読んで幼いうちに魔法が使えるほどの天才だが、その影響で周りの子供の親が「近寄らない方がいい」と引き剥がしたりする影響で友達ができなかった。

そんな3人がファルム学園で平民の出で、剣は我流、魔法も使えないアレスに弟子にしてくれとせがまれたこと、アレスが努力して剣捌き・回復魔法・攻撃魔法を習得することで見直すとともに、自身の認識を改める機会になった。

この化学変化から勇者アレスパーティができたという過程だけでも面白い!ゲームで描かれるパーティの仲間で全員プライドが高いというのは見たことがない。仲間で居続けさせることが難しいからだろう。だから「そんな理由で仲間になるの!?」という加入シーンも多い。また仲間が裏切るというパターンもあるが、大体は衝突したのち退場する。そのような謎のノリについていけず日本のRPG作品が苦手という人もいる。「敵が味方か」の間を描いている作品は珍しいのではないだろうか。

②魔術師ソロン

先ほどマリアは周りを気にしなくなるほど達観するようになったが、ソロンはそこまでに至ることはなかった。そのため、マリアはうまく人間関係を気づくことができたが、ソロンは友達ができなかった

私も自我が強く、押し付けてしまって後で反省することが多いし、勝手に他人に期待してしまって絶望してしまう。そんな性格のためかソロンという人物に親近感が湧いた

そんなソロンがアレクと出会い化学変化で成長するところがたまらない。その極めつきはこの小説最後の「とあるスイーツ店にて」という章で描かれている。「そんなことを言えるようになったのか!」というソロン自身の成長は憧れてしまうほどだった

③後半の怒涛の展開

粗筋で書いたとおり、王女アレクシアは勇者の故郷タリズ村でアレスの母親シェラの元を訪れ、齟齬が生じたことに疑問を覚える。そこからアレクシアの章・預言者の章に続きとんでもない展開になる。ここに関しては読書自身が手に取って実感してほしい。


○おわりに

『誰が勇者を殺したか』という不穏なタイトルだが、読めばハッピーエンドに繋がるので、暗い話は苦手という人も安心して読むことができる

またジャンルはファンタジーミステリーだが、ここまで読めば思っていただけるだろうが、犯人は誰なのかを追求するというただのミステリーではない

ここまでなんとか言語化してきたが、うまく伝わった分からないところや、まだ言語化できていないところもあり、このラノベはぜひ文庫として出して有識者の解説が読みたいほどの作品だった。

気になった方はぜひ手に取ってほしいし、ゲーム好きな人が読んでゲームとの違いについて感じたこと・考えたことが知りたいです😆📕

この本を読んで改めて考えたことがあります。それは「自分にとって最高の作品の基準は何か」ということ。それは「その作品がなぜ面白いのか考えさせられる作品」だと思います。考えるということは頭の中でその作品のことを反芻するため自然と印象に残り続けます。また自分なりに言語化することでさらに居続けます。そんな作品に出会えたことが何より嬉しかったです。

長文最後まで読んでいただき、ありがとうございました🙇

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