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何も失うものはない

こないだ娘と一緒に札幌駅行きのJRを待つ列に並んでたら、先頭に立ってる女の人がめっちゃ可愛いトートバッグを持ってた。生成りのトートにGUCCIやマクドナルドやLL Beanなんかのロゴとか人の顔がモコモコと刺繍してあるの。うおお、と思いながらスマホの検索窓に速攻「GUCCI ロゴ 刺繍 トート」「札幌 ハンドメイド 刺繍トート」などと打ち込む。我ながら悲しい性(さが)だと思う。でもどんな時だってまずはググるのだ。それが私だ。JRがホームに滑り込み、私と娘はトートの持ち主の斜め向かいに座った。引き続き検索を続ける。既製品とハンドメイドの両面から捜査するも、全然ヒットしない。彼女はリュックを膝に置き、体とリュックの間にトートをすっぽり収納してしまった。これではトートが見えなくてノーヒントだ。詰んだ。だがここで諦めるわけにはいかない。私は娘にこっそり耳打ちした。「お母さんね、あの人に話しかけて、そのトートバッグどこで買ったんですかって聞こうと思ってるんだ。」娘は顔を曇らせた。「うーん、それはよくないと思う。」「どうして?」「だって、変な人だと思われたら…」「お母さん、あの人に変な人だと思われても、何も失うものはないよ。」「でも…」「知らない人に話しかけてはいけないなんてルールはないよ。こういうの日本以外ではわりと普通だよ。」「うーん…」「大丈夫、こういうことはたいていうまくいく。」なんかいいこと言ってる感じだけど、単にトートバッグが気になるだけのことである。やーいやーいお前の母ちゃん物欲大魔神。さて、サクッと決着をつけるか。私は立ち上がり、女性に声をかけた。「すみません、そのトートバッグすごく可愛くて気になってるんですが、どこで買ったんですか?」私よりいくつか年下に見える彼女は、いきなり話しかけてきた女の顔を見て一瞬戸惑いの色を見せた。でもすぐに状況を理解して感じのいい笑顔を浮かべながらこう言った。「これ、自分で刺繍したんです。」「えー!!」「友達が刺繍してるのを見て、自分もやりたくなっちゃって。」「めっちゃ可愛いです!もし売られてたら絶対買います!」「えへへ、ありがとうございます。」「こちらこそ、ありがとうございます。」そんな短い会話を交わし、私は席に戻った。そして、いたたまれなくて仕方ない、といった表情を浮かべた娘に向かって「ほらね、大丈夫だったでしょ」と言わんばかりににやりと笑ってみせた。あのトートバッグほんとに可愛かったなあ。

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たらば蟹お待ちッ!こいつの身は締まってるよッ!
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漫画を描いたりエッセイ書いたり。noteでは『毎日、いい気分。自分の機嫌を自分でとるためのカンタンTips』「ショッキング・ブルーデイ』販売中。

コメント3件

娘さんの気持ちもわかるけれど、気になる気持ちもわかる。
http://rster.blog.jp/archives/3847719.html 無料なので良かったらどうぞ
私も絶対話しかけてると思います!笑
刺繍大好き人間なので😘
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