
Photo by junmae
夫婦で語る、全裸サバイバル人生講座
私「あのさあ」
夫「ん?」
私「最近、お互いの主張がぶつかり合ってどっちも一歩もゆずらない、みたいな現象をいろんなところでよく見るんだよね」
夫「ふうん。それって、どっちも折れないの?」
私「うーん、片方が非を認めて少し折れることもあるけど、その程度の折れ具合で許されると思うなよ!って感じになって、結局平行線のままだったり」
夫「なるほど」
私「その程度じゃ全然足りない、まだまだ許せないって思う側の気持ちもわかる。けど、許せない許せない言われ続ける側は、けっきょく反発心を募らせることになったりして。なんだかなーって思うの。でもそれをもし私が横から指摘したら『お前もあっち側か!』って言われちゃう。だから、ただ見てるしかなくなる」
夫「周りにいる人を『許す・許せない』とか『あっち側・こっち側』とかで区切ると、どんどん孤立しちゃう気がするけど」
私「そうなんだよねえ。100%考えが同じ人しか認めないって姿勢になったら、先はないよね」
夫「…いま、全裸サバイバルっていう海外のドキュメンタリー番組をよく見てるんだけど」
私「全裸サバイバル?」
夫「男女が二人で全裸でサバイバル生活をする」
私「…面白そうだけど、やるのは絶対イヤなやつだ」
夫「途中で仲が悪くなったり病気になったりでリタイヤすることもあるんだけど、21日間の最後までやり遂げるカップルには共通点があって」
私「なになに?」
夫「ちゃんと対話をしてるんだよね」
私「ほほう」
夫「対話がうまくできないカップルはこんな感じ。『(野太い声で)アイツ、俺が必死にこの大きい丸太を運んできてやったのに、礼のひとつも言わねえ、クソッ!』」
私「カメラクルーに愚痴ってる(笑)」
夫「うん、もう全然話さなくなっちゃって、やる気もなくなって、お互い離れた場所でダラーってただ寝てるだけになるの」
私「つらい…。対話ができるカップルは?」
夫「(YouTubeのサムネイルを指して)たとえばこの回は、女の人がベジタリアンなんだけど」
私「…無理な感じしかしない!」
夫「男の人が魚とか苦労してうりゃーーって獲って『ほらよ、これ食えよ!』って差し出すんだけど、女の人は『ううん、私ベジタリアンだから』って断り続けるの。で、男の人は『そうか、わかったよ』って」
私「え、じゃあ彼女はなに食べるの?」
夫「植物ばっかり。『これ、食べられる花なの。10キロカロリーくらいかな?』って、花とか食べてる」
私「うう…体がもたないよ!」
夫「うん、だからどんどんぐったりして来ちゃって。男の人はちっちゃいトカゲをがんばって捕まえて、そのちっちゃな尻尾の部分を差し出して『ほら、これだけでも食ってみろよ!うまいぞ〜』って説得するの。女の人はしばらく抵抗してたけど、最終的にそれを食べて『お、おいしい…!』って、元気になった」
私「すごい!乗り越えたんだ」
夫「そういう信条とか、あとは宗教かな。極限状態の中で、違いを克服しなければならないわけ」
私「うわー。しんどい」
夫「夜になってすごく寒くなって、裸で密着して温め合いながら寝ないと無理、みたいな状況で、女の人は『もう仕方ないから抱き合いましょうよ』って言ってるのに『すまない、俺には妻がいるから…(ブルブル震えながら)』って断ったり」
私「そもそも来るなよ、この企画に!」
夫「自然保護活動家の女の人が」
私「その情報だけでもう期待感がすごい」
夫「なんにもない砂漠みたいなところを歩いてて。男の人が鳥の巣を見つけて『これは火をつけるのに使えるぞ!』って取ろうとするんだけど、女の人は『ダメよ、これは鳥にとっては大切なものなのよ』って。男の人は『ああ、そうだね』って取るのをやめた」
私「うう」
夫「そのあと、洞窟で夜明かしすることになったんだけど、洞窟の下の方にはクモの卵がびっしりあって、除去しないと子グモがたくさん出てきちゃうかもしれないわけ。だから男の人が『火を投げ入れて退治しよう』って提案するんだけど…」
私「『ダメよ!』」
夫「そう、『このクモたちは私たちが来る前からここで暮らしてるのよ!』『そうだな…』って。だからそのまま退治せずに寝てみたんだけど、やっぱりクモがワーッと出てきちゃって。ギャーーッてなって」
私「うーー!」
夫「そしたら女の人がそこで急にふっきれて、『やってやるぅーー!!』みたいな感じで火を投げ入れて、グワーッてクモ燃やした」
私「極端!」
夫「そのあとはもう、ノリノリで『私があの獲物を取ってやるわよー!』『うおりゃあーっ!』って、自然保護も何もない感じにサバイバルしてた」
私「しぶしぶ変えたわけじゃなくて、自分でふっきれたってところがいいね!」
夫「なかなか食料が確保できなくて大変な時なのに、神に祈りを捧げる時間は絶対に確保する男の人と、それでも『彼は敬虔な教徒だから…』って見守ってる女の人の話とか」
私「ふつうなら、んなことしてる場合かよ!って言いそうな場面だね」
夫「デンキウナギの話も良かったな。何日も食べ物が見つからなかったけど、男の人がやっとの思いでデンキウナギを見つけて。空腹でテンションが普通じゃなくなってるから『ぜっっってぇぶっ殺してやるぞこのデンキウナギ野郎!見てろよゴルァ』みたいに口汚くなっちゃってるの。そこで女の人が『そんなふうに言ったらダメッ。私たちはデンキウナギの命をいただくんだから、もっと尊敬と感謝の念をこめないと』とか言い出して」
私「そんな時まで!信条めんどう!」
夫「男の人もヤケクソで。『チッ、わかったよ!親愛なるデンキウナギ様ー!あなたのステキな命をいただきますよぉ〜!ってこれでいいだろ?』『もう、ふざけないで!』」
私「すごい伝わる、吹き替えのノリ」
夫「で、無事にデンキウナギを獲って食べる時も女の人は『ねえ…このデンキウナギは私たちに命を捧げてくれたのよ。感謝して食べましょ』って。男の人は『そうだな』って」
私「めんどくせえなって思ってたとしても、ちゃんと同意は示すんだね」
夫「そんなふうに違いを認め合って、なんとかやっていくことって大事なんだなって。」
私「許す・許さないとか、どっちが正しいかとかじゃなくて、対立しないでいられる接し方を探るほうがいいし、そのためには対話して理解を深め合うことが必要、ってことなのかもね」
夫「そうだね。あ、『全裸サバイバル』ちょっと最初だけ見てみる?」
動画再生。男女別々のボートで無人島に到着。お互い離れた場所から上陸。
私「うお、服脱いだ!ほんとに全裸で上陸した!靴もない!無理!」
夫「そう、裸足だからみんな最初は痛い痛いって言いながら歩く(笑)」
全裸の男女がお互いを認識し、近付く。全裸で「ハーイ」と挨拶し合い、出身地を尋ねたりふつうに会話を始める。全裸で。
私「えっすごい、これ日本人にできる気がしない」
夫「すごいよね。ちなみに80%くらいのカップルが、この出会いのシーンの時に交わす言葉があるんだけど、なんだと思う?」
私「ええっ?全然わかんない」
夫「それはね…『(カジュアルな笑顔で)調子はどう?』」
私「あーーーー!!(爆笑)」
夫「『調子はどう?』『うふふ、悪くないわ』ってね。」
コメント6件