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小説『水泡』

 薄暗い部屋の隅に置かれた透明な水槽の中で生きている。白い砂利が敷かれた床を這うように歩く。水槽の中には水草と土管がある。それから、水槽内の水質や温度を調整する装置も備え付けられている。  暮らしやすいように管理された環境で、決まった時間に決まった量の餌を貰う生活は楽である。野生だった時代がない私はこのような環境しか知らないのだが、それでも心の奥底に宿る野生の本能のようなものが、この生活が普通ではないことを告げている。人間に飼育される生活では餌を安定して得られるものの自由がな

    • 小説『あたたかい孤独』

       その部屋に入ると、中に誰も人はいなかった。静かな空間を見つけて、私は安堵する。外では雪が降っていた。私は手早く何かをくすねようと、静まりかえった部屋の中をあちこち探し回る。 「あれ、どうしたのあなた」  突然、背後から何者かに話しかけられた。おかしい。気配を微塵も感じなかった。私は恐る恐る振り返る。後ろにいた人物は、私の目をじっと見ながら優しく語りかけた。 「ここには私しかいないよ。今、他の人たちは大浴場に行ってる」  その人の声は不思議な響きを持っていて、硬直していた私の

      • 小説『神様と君の隠し事』

         何も思い通りにいかない日々が続いている。憂鬱で目を灰色に曇らせた僕の存在など歯牙にも掛けないように、この蒼い星は一定のスピードで回り続け、季節は変わっていく。時の流れを恨めしく、そして恐ろしく思うようになったのはいつからだろう。このままでいてはいけないし、早くここから脱したいのだけれど、同時にずっとこのままで、誰からも審判を受けずに自由でいたい。一丁前のプライドと、子供じみた羞恥心から、僕は微睡みの中でモノクロに見える風景をなんとなく生きていた。 ◆  朝、下駄箱の前で

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