見出し画像

創作大賞2023「AIの瞳に恋してる」第4話

ドアを開けると、人形が一体、こちらを向いて座っていた。

片付けられもせず、床や部屋の方々に玩具が散らかりっぱなしになっている部屋を見渡すように学習机の椅子に座っている。

きっと、子供部屋として使われていたのだろう。
いったい持ち主はどこに行ってしまったのだろうか。

改めて人形に目をやると、
瞳の球体に透明な液体の膜が生じ、乱雑な部屋の様子が瞳に反射している。

―――人形が涙を流しているのか。

私は理由を考えるよりも先に、その美しさに目が奪われてしまっていた。

**
ブルーハーブの「未来世紀日本」のように、どこか懐かしいような、それでいて少し寂しい感じがする夢だった。

ベッドに横たわったまま、目じりの雫を人差し指で拭うと、吐き気とともに、ひどくこめかみの辺りが痛む。

頭がぼんやりとしていて、目を閉じるとゆっくり回っているような感じがする。久しぶりに飲み過ぎてしまったようだ。

数時間前の自分に少し後悔しながら、冷蔵後のミネラル・ウォーターに手を伸ばす。

砂漠に水を撒いたようにあっという間に空っぽになった容器をそのまま冷蔵庫の上に置き、又ベッドに横たわる。そして数時間前に時を戻そうと試みる。

細切れに脳内にいくつかの情景が一瞬、立ち昇っては消える。

その一つを正確に捉えようと集中する。が、こめかみの辺りの痛みが鋭くなって、上手くできない。
諦めて眠ろうとするも、ベッドの上にいる自分が数センチだけ浮かんで、ゆっくり回されているような感覚が襲ってきて上手く眠ることもできない。

しばらくすると、天井辺りから自身の酔いの感覚にも似た、遠くからシタールとタブラの演奏がうっすらと聞こえてくる。その音色は段々大きく、激しさを増して天井から部屋の壁を渦のように伝って近づいてくる。

―――部屋が揺れている?目を開けることができない。

ベッドの上にいる自分は空中で浮揚・回転しながら、シタールとタブラの演奏の渦に飲み込まれている。息が苦しくなっている。動悸が激しく、身体は冷や汗を搔いている。

演奏はどんどん激しくなり、音楽的頂点を迎えようとしている。

起こっている事態を把握しようと、身体を動かそうとするが、硬直して動かすこともできない。声を振り絞ろうとするが、喉から音がでない。

かろうじて薄目を開けることができたとき、長髪で白装束の女らしき何者かが、自分の首を絞めていた。その何者かは、何か叫んでいるように見えるが、演奏がうるさくて何も聞こえない。
自分の頬に冷たい感覚が生じる。

―――白装束の女が泣いているのか。

女が泣きながら自分の首を絞めていることが分かると、変な諦観が生まれ、急に抵抗することに飽きてしまった。

―――ああ、俺はここで死ぬのか。

そう思うと同時に、自身の死と共に、苦しみから解放されることに安堵したその瞬間、

喉からひゅっと、うめき声が出た。

途端、演奏はピークアウトしていき、何者かの手が緩む。身体の硬直が解け、起き上がることができたのだった。







この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?