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⑤ ガールズバー「グッチ」

支店に異動させられてから三年が経った。

物流の効率化検証の為に支店に異動しろというは部長の言い訳だったとしか思えない。
何故なら、カルガモ運送のコストも正確性も配送時間も、中田運輸のパーフォマンスを凌駕していたが、「半年間では検証期間が短い。」と検証期間を一年に延ばし、二年に延ばし、三年に延ばして、今に至るからだ。
そして支店の連中も真剣に物流合理化の検証を進めたいようにも思えない。
オレは何の為に支店に来たんだろ。

そして、自宅では次男が生まれ「久富 祐太郎」(ひさとみ ゆうたろう)と名付けたが、なかなか自宅にしょっちゅうは戻れず、長男の大樹にも顔を忘れられそうだ。

美貴のお義母さんのスナック「たまにグチ」はすっかり模様替え、リニューアルして、ガールズバー「グッチ」になっていた。店内の全面リニューアルと殺菌消毒クリーニングをやったということで、美貴は再び昼間の時間からガールズバー「グッチ」でお義母さんと子育てしていた。

たまに帰っても美貴は子育てを理由に時間が無い、子どもたちはなつかない。なんならオレもガールズバー「グッチ」の客と変わらない扱いにアタマにきた。

「美貴、オレは家族の為に支店で社長命令の物流合理化をやってるんだよ。帰ってきた時ぐらい、優しくしてくれよ!」
「あら、、そう!ワタシは二人の幼児抱えて、育てるのに必死なんですけど!」
「美貴のお義母さんが手伝ってるじゃないか」
「そうね、久富クンは何も手伝ってくれてないもんね。なんで支店がそんなに長いのよ!」

オレはていの良い厄介払いされたかも、とは言えず
「だから検証してるんだよ!」
「三年も?!二重生活で生活も苦しいし、その間に、アタシ達がどんなに大変だったと思ってるの?アタシはスナックもガールズバーも手伝ってるのよ!」
「え?」
「久富クンの給料だけじゃ幼稚園も保育園もあるし、全然足りないんだよ!」
「美貴、そんなこと言ってなかったじゃないか」
「言ったら給料増えたの?!増えないでしょ!あなた居ないしバイトなんか出来ないし、お母さんのスナック今はガールズバーだけど、手伝うしか無いの!少しのバイト代にしかならないけど、お母さんだってお父さんが亡くなってからずーっと大変なんだよ!久富くん、何を見てきたの?」
「ご、ごめん」

大ゲンカした次の日、本社に顔を出すと部長に出くわした。部長は社長に気に入られて常務になっていた。
「お、久永、、じゃない、久富くん!どーだ!元気か!物流検証はどうなんだ?」
コイツわざとか?
「続けてます」
「久富くん、時間は限りあるから、しっかり結論出してくれよ!」
「結論は半年で出てます。コスト、正確性、配送時間ともにカルガモ運送が良いです。」
「久富くん!カルガモ運送の肩を持つね〜」
「部長、いや常務!純粋にメインの物流会社にすれば更に良い結果が出ます。中田運輸よりはずっとマシな会社です」
「久富クン、カルガモ運送から何か貰ってるんじゃないの?」
「ふざけんな!!!」オレは叫んでた。
「テメー!ふざけんな!!!どんな想いで支店で必死に検証結果を出して本社に送り続けてると思ってるんだ!!!」
「久富クン、今の発言は重大な服務規程違反、就業規則違反だ。沙汰は追って待て、ということになるな」
「なんだと!テメー!」掴みかかりそうになったオレを周りの社員が止めた。
「久富クン、今日はもう帰りなさい。自宅待機だ。」

アタマに来て会社を夕方前に早退したオレは自宅に帰る気もせず、当てもなく街をクルマで走り続けていた。
グルグルと。
コンビニ前、ショッピングモール、ガソリンスタンド、運転してるから酒は飲めないし。
グルグルと。

ふと、繁華街で見覚えのある、しかし久しぶりに見る満面の笑顔の美貴を見つけた。
救われた気がした。やっぱり、ケンカしたけど美貴にぜんぶ話そう。ていの良い厄介払いをされた事、物流検証は延ばし延ばしにされている酷い仕打ちの事。
話して仲直りしよう!

ふと、見ると美貴の隣に見慣れない三十代のイケメンが居る。

アレ?
手を繋いでる?

ドキドキした。

アレ?
繁華街を曲がって、ややこしい方に行った。

アレ?
美貴とイケメンはややこしい方のホテルに入って行った。

主任だったオレは、翌月からヒラ社員に降格処分となった。自暴自棄になったオレは会社に辞表を出した。

美貴とは離婚した。

(「⑥ 東京にセカンド北川が居る」に続く

https://note.mu/takigawa/n/n61e15ec5b600


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