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【読書感想】吉田修一『キャンセルされた街の案内』

2020/05/13 読了。

吉田修一『キャンセルされた街の案内』

これといって印象に残らない作品が10編。特に落ちがあるわけでもなくいきなり終わったり、ゆるっと終わったりする。吉田修一の雑多な感じが好きだったなーと耽ったりした。

日常って続いていくものだから、落ちなんて求めるのは異常なのかもしれない。十の短編は、どれも平坦な日常の一瞬を切り取って文章にしている。決して明るくはない、なんなら暗い。惰性や諦念、そういった言葉が似合う物語ばかりだった。 

「数日間着続けている長袖の肌着、トレーナー、セーター、その上に厚いドカジャンまで重ねているが、冷気がその一枚一枚を剥がすように染みてくる。ちょうど里佳子がミルフィーユという菓子を大事そうに食うときみたいに。(『乳歯』より)」 

ミルフィーユの食べ方ひとつで、里佳子が貧者であることが分かる。そしてこの男が、里佳子をそんなに大切に想っていないことも透けて見える。この表現は凄いを通り越して、怖かった。

正直に告白すると、この短編集、初めて読んだと思っていたけど、二度目だった。読み終わってしばらくして気付いた。それほど記憶に残っていなかった。

今回も忘れてしまうと思う。でも、読んでいる最中のザワザワした気持ち。読み終わりたくて焦る感じ。この小説世界に長くいたら現実に支障が出そうな畏れ。この気持ち悪さだけはうっすら残ると思う。吉田修一さんの小説は怖いな、やっぱ。






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