見出し画像

親の墓の墓じまい(後半)

*前半のおおまかなできごと
父の葬儀が終わり、埋葬も終わったあとで市役所管理の墓の使用について問題発生、にっちもさっちもいかなくなったよ。というところに救いの手が。お寺さんと新しくご縁ができました。


さて。
墓じまい後半戦です。途中経過と後見制度、細かな情報をはさみます。

父の死去ののち、母に成年後見人がつくことになりました。
後見人は弁護士。裁判所による人選です。後見人制度についていろいろ思うところはありますが、ともあれ、母に弁護士を会わせないといけません。
面談前に、母の状態をかいつまんで後見人弁護士に説明しました。
施設で暮らしている母は認知症が進み、記憶の保持は十五分程度。かろうじて娘である私のことは顔、名前とも認知できる。
母は父とは別の施設にいましたが、母の言葉から察するに「施設内で夫と一緒に暮らしている」と思い込んでいるようでした。平和で幸せなせん妄ですから、そこを否定しないでください、それと父の死のことは母に言わないでください。と、後見人弁護士にお願いし、面談開始。
母は後見人弁護士を私の友人と思ったらしく、わりとリラックスした状態で面談はすすみ、無事に終了。ということでクエスト6クリア。

その後、父と母がかつて住んでいた家へ後見人を案内し、無人の家の見学です。
続けて弁護士事務所で細かいところを打ち合わせ。業務内容の説明があります。
私からは墓問題と、家の周囲、庭の大量のゴミの処分(危険物、可燃物があったため、火事その他が気がかり。早く解決したかった)について相談しました。

成年後見人ですから、市役所墓所課(仮表現)がどう認識しているとしても、墓所(霊園)に関する契約解除は可能のはずです……が、
後見人「とりあえず相続協議のほうをさきに片づけましょう」
私「10か月以内ですよね。よろしくお願いします」

母の資産と父の資産についてすべての資料はもう渡してあったので、あとは後見人が書類を作って裁判所に提出するだけ。という状態になってました。でも相続協議が始まったのは翌年でした(笑。
その間、墓問題は宙に浮いたまま。

後見人就任から10か月ほど経過。相続協議が始まりました。
十日足らずで相続協議は終わりまして、相続手続き開始。これも十日ほどで全クリア。

さあ。いざ。お墓問題を解決して新しいお墓をゲットしよう。
そう思って後見人弁護士にあらためて話し合いをお願いしたところ…。

父の墓についてやるべきこととを時系列で並べてみるとですね。
a)ご縁のあったお寺さんと墓所使用に関する契約をする。
b)お墓の使用料をお寺さんにお支払いする。
c)父の遺骨が入った墓所を契約解除する。
d)父の遺骨を市役所の墓所からお寺さんへ移動する。
e)お寺さんで追善供養、納骨。
f)市役所墓所から墓石撤去、墓じまい。

こんな感じです。しかし出だしからコケました。
お寺さんにお墓の使用料を支払う、それに対して後見人弁護士がイエスとおっしゃらない。
母の資産を減らさない。というのが、後見人のおもな職務であり、守るべき命題(?)らしい。
加えて、父の墓っつうのはその時点での母の安全と健康、快適な暮らしなどに貢献しない。

後見人弁護士の答弁は以下の通り
「娘さんがご自分で出費して亡くなったお父様のお墓を購入し、お骨を移すというのでしたら、どうぞご自由に」
父の墓の代金を母の資産からは払わないという方針でした。

では家の庭のゴミ問題と危険物の始末はどうか。
「娘さんがご自分で処分代を支払い、片づけをされるのでしたらご自由にどうぞ。ただし娘さんがゴミと認識しているものが、お母様にとってゴミではない可能性もありますので、そこは廃棄前に報告してください」

そうか。母の後見人として、母自身にメリットのない出費についてはゴーサインを出さないと。
加えて、母の資産に関して、娘が要不要の判断を勝手にくだしてはならないと。
たとえそれが五年のあいだポリタンクに入ったまま雨ざらし放置された灯油タンクであっても。可燃物だし危険だから、早く処分したいと私が考えていたとしても、母にとって資産価値があるかもしれないのであれば捨ててはならない。
そういえば実家に火災保険をかけたいからと契約したとき、保険会社を紹介してくれたのは後見人弁護士だったけれど、その支払いは私がしたんだったっけな……。

それやこれやで話し合いをしているうちに、だんだんわかってきた。
後見人弁護士がついている限り、新規の墓購入とゴミ処分はほぼできない。

では市役所墓所課の管理する墓所使用の契約解除だけでもと、再度頼みましたところ、それについては「わかりました」と請け合ってくれました。
「わかりました」が「契約解除しました」になる日は来ませんでした。
まあ、お忙しかったんでしょう。あとで考えれば、こういうこともあるんだな。タイミングだよね。という感触です。

7)母旅立つ
そうこうするうちに母の容態が下り坂となり、年末。
施設からは、
「お母様の容態からみると、新しい年を迎えられないかもしれません」
と連絡が入りましたが、無事に年を越し、
「この春サクラは見られないかもと主治医が…」
と言われつつ5月が過ぎ、
「この夏を超えられないかもと主治医が…」
と言われながらも夏が過ぎてゆき…
(この世代の年寄りってなんかこう、すっごい丈夫だよね…)と親不孝な娘は思いましたとさ。
 秋のはしりのころ母は旅立ちました。
 父のときに世話になった同級生の葬儀業者XX君に連絡し、ご縁のできたお寺さんのお坊様においでいただいて簡素なお葬式(家族葬)、遺骨は四十九日までお寺さんに預かってもらうことになりました。

こじんまりとよいお葬式でした。
葬儀のあいだ、わたしが何を考えていたかというと。
「ミッションワン。母の四十九日までに父の遺骨を取り返す」
「ネクストミッション。父と母を同時に、一緒に、新墓所に埋葬する」
「ラストミッション。父の墓に関する残務を年内にすべて片づける」

葬儀を済ませた足でヘリポートへ行き、搭乗しました。
父と母が一緒に写った写真(二十年以上前に私が撮影した)を持って空中遊覧です。
母の生まれ育った町、母が父とともに暮らした家のあるあたり、母が入院通院を繰り返した病院。墓所課の管理している霊園、そして新しくご縁のあったお寺さんの上空を飛んだのでした。
十五分ほどでヘリはポートへ。、私は車を運転して帰宅しました。
母の葬儀無事終了。クエスト7クリア。


8)対市役所・攻防戦
母の初七日。
墓参と初七日の読経をお願いしたあとで、市役所墓所課へ行きました。
「墓所の契約解除をお願いします」
窓口の職員さんは前回とは違う人。役所は人事異動が多いんですね、たぶん。
墓所課「新規墓所と契約を済ませてから再度おいでください」
お骨の移動は、移動先が明確でないと許可が降りません。
ということで、とって返してお寺さんへ。お坊さんご不在。少し離れた別院でお勤めなさっていらっしゃるとのこと。
父の葬儀で世話になった同級生葬儀業者のXX君に連絡して、たまたま身体が空いているというので、ちょっと来てもらい、別院へ案内をしてもらいました。
お坊さんの署名捺印をいただいてまた市役所へ。
XX君も同行してくれて心強い。

こうして父のお骨の受け入れ先が決まり、このあと市役所の管理する墓所を相続する人がいないこと、また一子の私が市役所の管理する墓所を使用する可能性も(未来永劫、絶対に)ない。ということが証明できたので、これで契約解除の岸辺まではたどり着けたわけで。

墓所課「では……まず、墓石の撤去を行う業者を決めてください」
XX君が知り合いの石材店さんに電話して即決。
私「決まりました。□□石材さんです」
墓所課「石材店の署名捺印が要ります。これは後日郵送していただいてもけっこうです」
というので、この書類は後日、XX君と一緒に石材店さんが作業されている現場まで行き、署名捺印してもらいました。

墓所課「次に、もとの契約者(父)の子全員の了承と署名捺印」
私「わたしだけです。一人っ子ですから」
墓所課「一人っ子であるという証明が必要です。墓所契約者と、その子であるあなたの関係を示す戸籍謄本、ならびにあなたがあなた本人であるという証明になるものを提出してください」
諸手続きに必要なため、私は常に複数枚の戸籍関係あれこれを持ち歩いていたので、鞄から当該戸籍簿とわたしの運転免許のコピーを即出し。あまりの速さに墓所課の苦笑い。

墓所はいったん、私が相続し、相続者として契約解除する、という形になります。契約者でなければ解約できないという規約があるので、こういう回りくどい手順になるものらしい。

墓所課「手続き上、使用料の支払いは月の中途で解約できませんので、今期末(来年の3月)までのぶんを支払ってもらったあとで、月割で返金します」
私「了解です」
墓所課「あとは……」
*墓所から遺骨を取り出したら墓所課に連絡。
*墓石撤去のスケジュールが決まったら墓所課に連絡。
*墓石撤去が終了したら墓所課に連絡。
*墓石撤去が完全かどうか墓所課が確認するために現地に行くのでそのとき同行すべし。

墓所課「あとは……」
(まだあるのかーい!)
「以上です。こちらの書類にお名前ご住所、電話番号と墓所番号を記入して提出してください」
よっし。先が見えてきたぞ。

私「ところで、ちょっとお尋ねしていいですか」
墓所課「なんでしょうか」
私「前回、わたしがここに来たとき、成年後見人は墓所の契約解除ができないとおっしゃっていたひとがいたんですが」
墓所課「はあ」
私「法律上、成年後見人は被後見人と同等の権利を持っています。ですから契約解除はできるはずです。でも前回断られているので、何故そういうお返事だったのか理由をお聞きしたい」
墓所課「えーと。後見人……はい、できると思いますよ、契約解除」
私「じっさい、一度断られているので}
墓所課「うちの者がそんなこと言うかなー。それ、誰だったか名前わかります?」
私「名前はわかりません。これこれこういう風貌のひとでした」
墓所課「あー……」(思い当たるふしがおありの由……)

私「それと、相続人が祭祀を行う等、契約書のここに書かれていますが」
墓所課「はい」
私「この一文を読んで、認知症高齢者は祭祀を行えない、墓所の権利を相続できない、家族を墓所に埋葬することができない、いったん埋葬した遺骨を別の埋葬地へ移すことも、契約を解除することなども、全部できない、それはわたしのような家族であっても、代行含めてすべてできない、ということまで察するひとはいないと思います」
墓所課「えーと……すいません、そちらさんはどういうお仕事のかたですか?」
私「無職です」(嘘は言ってない)(汗)
墓所課(こいつクレーマーとかだったらどうしよう、と困ってる感じの目をなさりつつ、契約書の文面に目をやってしばし読むご様子)
墓所課「そう、ですね。まあ、将来的には契約書の文章も検討……ということで」
私(頼みます。これから増えると思うから、そういう家族)「いろいろとありがとうございました。遺骨の取り出しの予定が決まったら電話します」
ということで退出しました。
墓所の契約解除、完了してクエスト8クリア。

帰路、お寺さんに寄り、市役所が遺骨の移送と、墓石の撤去に許可を出しましたと報告。さああと少し。頑張れ自分。

9)いざ墓じまい!!
数日後に父の遺骨を市役所の墓所から取り出すことになりました。
お骨は石の下にあるため、わたしの力では動かせない。ので、石材店さんに来てもらい、動かしていただくわけです。
お寺からお坊さんが来てくださり、墓を終える式をしました。
まずご挨拶、お墓に向かって、これからお骨を出しますよとお伝えする式。
その後、石の移動、お骨壺の取り出し、お骨壺を新しい箱に納める、お線香、読経、清めの清酒や塩、花を供える、と一連の式。

式を始めたときには小雨模様だったのに、お坊さんが読経を始めた直後に雨があがり、曇天から見る間に晴れ間へ、数分で日の光がさんさんと墓所を照らしはじめたので、ちょっと驚きました。
父のお骨は無事に移動して、お寺さんの本堂へ。母のお骨の隣に並びました。やれ良かった。お骨でデートだ。えい花も飾ってやれ。どうだ嬉しいか父ちゃん。みたいな。

かくてお骨奪還成功せり、クエスト9クリア。

10)
次は墓石の撤去。
これは石材店さんが「XX君の知り合いだもんね。ちょっとだけ値引きね」と、配慮してくれました。撤去完了して、お墓は更地に。また次のどなたかをこの墓所にお迎えするんだろうな。そのひとの家族がお墓で苦労しませんように。

あとは市役所の墓所課の人が撤去の確認に来るので、それを待って管理事務所近くでうろうろ。墓所課のひとがなかなか来ない。役所が仕事を終える時刻になっても来ない。
かなり遅れてお見えになり、もう一度墓所まで移動(広いから車で行くんです)(迷路みたいになってるし、霊園墓地って目印になるような特徴がないからすぐ迷子)
数分後、墓所課のひとによる墓石撤去確認完了。
お墓じまいまで終わってクエスト10クリア。

11)埋葬完了
秋の終わりごろ、母の四十九日をおこない、父の追善供養を同時におこない、その後埋葬へと、いろいろなことが進みました。
お寺さんですからね。戒名いただきました。卒塔婆とかはなしで。支度と準備はXX君が全面的に受けてくれたので、助かりました。
お寺さんの配慮で、共同の墓碑に父と母の戒名を並べて刻んでくださって、一緒だよ、よかったね。って、父と母の戒名の前で呟いたり。

これで全部片付いたなあ、お墓関係。
もしもわたしがここへ来られなくなる日が来ても、父と母は納骨室の中に並んでいるし、お寺さんがお世話してくださるし、一安心。
埋葬順調に終わって、クエストクリア、感無量。

……のはずでしたが、あにはからんや。

12)市役所から連絡あり
翌年、墓所課から手紙が届きました。
お墓の後処理が完全に済んでいるという書類が提出されていないから、墓石を処理した業者さんと、手配をした葬儀業者さんと一緒に、市役所へ来なさい。という内容でした。

はい? 完全に片付いたということを、片づけた日に市役所のひとが来て、見て確認していったじゃないですか。電話して尋ねてみると、
墓所課「墓所課による目視確認はそのとおりですが、その他に、施工主と石材店による署名捺印の書類を提出していただきます」

しかたがないので、XX君と石材店さんに連絡し、また三人揃って市役所へ行きました。
名前を書いて印鑑を押して、提出。
私「もうこれで、全部ですよね。もうないですよね?」
墓所課「これで全部です」
ここへ来るために往復一時間、かかるんですよ。もう本当に、あとから何か出せとか、勘弁してね。
帰路、石材店さんが、
「大丈夫ですか。いろいろ終わったあとに疲れが出たりするから。何かあったら相談に乗りますからね。無理しないで」
ありがたくて泣きそう。
私「これで全部と言ってたし、きっとこれで最後だと思います。何度も何度も、ホントにすみません。ありがとうございました」
深く頭を下げてから、帰りました。

でもまだあったんだぜこれが!(爆!

13)お役所勤勉のこと
3月末ごろ、たぶん期末の締めのころの確認なんだろうなあと思います。
墓所課「去年、墓所の契約解除された○○さんの遺族の◎◎さんのお宅ですか。お墓の始末は全部終わっていますか』
私「はーい全部終わってまーす。現地の写真撮ってありますからメールでお送りしましょうかぁ?」
墓所課『メールは受け付けていません。写真も不要です』
私「えー残念」
墓所課『終わっているならけっこうです、確認だけですから。失礼します』
「はいはーい」

さらに年度が替わって4月を過ぎたころ、もう一回くらい電話がかかってきましたけれど内容はメモ取ってないから記録なし、記憶もなし(笑

そしてそれが本当に最後の最後となりました。

Bye-byeお墓問題。クエストオールクリア。

総括)
振り返ってみるといろいろありましたけれども、それ以上に救いの手も四方から伸びてきてずいぶん助かったなあ、というのが正直な所感です。

今回、母の実家のお寺さんが母を締めだしたことがきっかけで、(いろいろあったけれど)最後には全部が良い方向へ進んですっぽりおさまったから、むしろ最初のお寺さんには感謝です。

それと、市役所管理のお墓のことについてもうひとこと。全国にあると思われる役所斡旋の墓所や霊園が、全部ここに書いたのと同じような契約内容とは限りません。お墓については地方の習慣や風習で大きな差が出ると思います。
また、当コラム内での役所の手続きが繁多で不統一で確認過多だったのは、こと墓について「万が一にも不手際があってはならない」という予防線だったのだと思います。役人としての皆さんの対応は(個人差はあれど)そう間違ってはいなかったのではないか(?)と思われます。

あと、お墓で手こずったせいで新しい発見、面白い展開、思いがけない出逢いと気づきもいただいたので、結果としては大団円、楽しい経験ができて良かった(こらッ物書き!)。

最後に。
お墓のことで駆け回っていたあいだ、ずっと感じていたのは、少し前の時代まで続いてきた、
「墓を守る子孫がかならず存在する」前提で守られてきた墓守意識が、これからは通用しない、
その分岐点にきている、ということです。

これからの時代、墓を自分で用意し、墓に入ったらそこで完了。墓前で故人をしのぶひとはいない、むしろ墓参ゼロが当たり前、というようなことが普通になっていくかもしれません。
それを過剰に否定しない、寂しいとか不人情とか思わない墓支度を、大葬儀時代になる前に、ひとりひとりが考える……ことが大事になるかもしれませんね。


というわけで、ダブル介護からのダブル葬儀、最後にお墓。三点セットの体験談、ここまでです。
最後までお読みくださりありがとうございました。


ヘリコプターから。海と空。

画像1




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?