見出し画像

親の墓の墓じまい(前半)

これもう、書くか書くまいか、かなり迷いましたが…
お墓。
介護、葬儀、相続という一連の行事(?)のなかで避け得ない問題のひとつです。『墓わからん』という不安からの解放、そのヒントになれば…ということで、書いてみようと思います。

またまた経験からの事例となりますが。
おおまかな流れはというと。
1) 母が先祖から受け継いだ墓を没収される
2) 父が市役所管理の墓(霊園)抽選に応募する
3) 父、墓当選、墓所に墓を建造する
4) 父死去・埋葬
5) 母が認知症であることを理由に市役所が墓所の相続を許可しない
6) 娘(私)お寺さん探し
7) 母死去・葬儀・お寺さんに母の遺骨を預かっていただく
8) 市役所管理の墓の所有を解消するために市役所と交渉、手続き
9) 墓じまい。父の遺骨を市役所の霊園から引き取る
10) 市役所管理の墓を解体、墓石撤去
11)母の遺骨をお寺さんに埋葬
   父の遺骨も同時に埋葬(追善供養も
12)市役所より連絡あり書類不備・墓石業者さんと墓所へ  
13)墓じまいオールクリア+後日談

とまあ、筋書きみたいですがこんなかんじの顛末でした。
お墓問題クエストに挑戦してひとつずつクリアし、エンディングへ到達するまでのマップをよろしかったらご一緒に辿ってみてください。
では始めましょう。親の墓の墓じまい、です。

1)母が先祖から受け継いだ墓を没収される

母は独身のころ(戦前)嫡子で戸主でした。
戦前の嫡子で戸主っていうのは、今と違ってひとりで全財産を相続し、家土地資産家族のすべてを管理し、あらゆることに決定権を持つ、という立場ですね。
墓も相続してました。
が、平成も半ばのころになってこの墓のお寺のお坊さんが、
「結婚して名字が変わった女性を旧姓の刻まれたお墓に入れることはできない」
と言いだしたそうな。
母は70才を目前にして墓の権利を失いました。母の父親が亡くなってから70年近い年月、途切れることなく付け届け(盆暮れ正月彼岸法事)をしてきたのに、晩年になっていきなり墓を取り上げられてしまったわけです。

2)
そこで父が、市役所が斡旋する墓所(霊園)の抽選に応募しました。
運良く、当たりまして、墓所ゲットしました。クエスト1クリア。
近隣の石材店さんに依頼して、墓も建てました。クエスト2クリア。
墓のために使った資金250万円。
市役所には毎年、使用料を払います。これは比較的安価。年間で五千円ほどでしたかね。

4)
さていよいよ父が墓に入るときがきました。
生前の父から預かった書類のなかに墓の契約書がありましたので、それを使って申請。
埋葬許可、降りました。
埋葬、納骨。クエスト3クリア。

5)
ここで問題発生です。

父の葬儀後、市役所から電話があり、
「墓の権利を相続するひとは市役所へくるように」とのこと。
本当は父が亡くなったと同時に母が墓所の相続人となり、自動的に母が墓の使用権利を得るわけですが(わたしはそう考えていた)、母は施設にいて父の葬儀にはノータッチ。
以前、『成年後見のはじまりとおわり』でも書きましたが、わたしは母には父の死去を教えないと決めていました。

認知症であっても、夫の死を理解する能力はある。お父さん亡くなったよと教えれば母は悲しむ。そしてすぐ忘れる。さまざまな手続きを母にさせるとなれば、その都度父の死を告げ、母が悲しみ、そして忘れるという繰り返しになります。それは母を苦しめるだけだ……ということはわかっていました。克服することも、乗り越えることもできない苦しみなどもう要らない。母の晩年がとにかくおだやかであってほしい。わたしはそう考えていました。

なので、施設で母を世話してくださってる介護士さん、看護師さん、お医者さん、トレーナーさんと、市役所介護課の皆さん、母の親戚、後見人弁護士、裁判所のひとびと、その全員に対して「父の死のことは絶対に母に教えないでください」とお願いし、ことあるごとに念押ししていました。

以上のような理由で、父の葬儀と埋葬はすべて、私だけで行ったわけです。
市役所へは「母を市役所へ連れていくのは不可能です」と返事をしました。

市役所の言い分は
『認知症高齢者には墓所の相続を許可しない』
『相続できない状態での埋葬は契約違反』

えーと。
私「それって、今、墓のなかにある父の遺骨はどういう扱いになるんですか? 墓所の管理人さんの埋葬許可が出たから埋葬したんですけど?」

市役所『とにかく一度、市役所までおいでください』

6)
ハイそうですかでは。というので行きました市役所。
自治体によって呼称は違うと思うので、部署の正式な名前は伏せますね。
ここはわかりやすく、墓所課カッコ仮、とでもしましょうか。
細かいところはアレですが、おおむね以下のような会話でした。

墓所課「亡くなられたかたの妻は認知症で施設から出られないんですね。そういう高齢者は墓所の管理、祭祀ができないので、相続人とは認められません」
私「管理も祭祀も私が代行します。掃除と墓参りってことですよね」
墓所課「それは自由にしてもらっていいです。墓所課としては、お墓というのは権利ですから、相続するひとは認知症では許可できないってことです。それと、使用料も相続するひとに払ってもらわないといけないので」
私「ここ三年くらい、私が払ってますけど、引き落としですよね、これ(と、通帳の引き落としコピーを見せる)」

墓所課「墓所を相続していないのに払ってたんですか」
私「父も母も認知症でしたから、資産の管理はわたしが代行してました。両親が施設に入所してからの支払いは公共料金も含めて全部わたしの口座から出ています」
墓所課「……そういうの、認めていいのかな。ちょっと待っててください」

墓所課窓口さん、どこかへ行く。五分ほどで戻ってくる。

墓所課「とにかく、遺族が認知症ってことなら相続できませんね」
私「では、新たにお墓を探します。墓所の契約を解除したいので、手続きお願いします」
墓所課「相続者以外のひとが契約解除することはできません」
私「はい?」
墓所課「ただし、第三者が使用料を払うことについては問題ないということですから、使用料は墓を使用している限り払ってください」

えーと。こういうのを『詰んだ』って言うんだよね(笑

私「じつは今、母に成年後見人をつけるために申請してますんで、後見人が決まったら墓所解約の手続きにもう一度来ることにします」
墓所課「後見人ってなんですか」
私「成年後見人です。裁判所が認定するのを待ってるんですけど}
墓所課「こちらでは裁判所とか、関係ないです。後見人が来ても契約解除はできません」

あー。(成年後見人制度を知らないんだな……。)

私「ということは……これってどうしたら解決できるんでしょうか」
墓所課「ちょっとこちらではわかりません、そういうことは」
私「認知症の家族は墓所を相続できないって契約書には書かれていないですよね」
墓所課「相続者は祭祀をおこなう、と契約書にありますよ」
私「祭祀はわたしが代行します」
墓所課「相続者でないひとの掃除などは単なる清掃で、それを祭祀とは認められません。ここ、よく読んでください。祭祀というのは、相続するひとが行うものです」
私「今までにこうした事例ってなかったんですか? 高齢者夫婦ならあり得る問題ですよね」
墓所課「さあ?」
私「万が一、わたしが事故や病気で使用料払えなくなったら、お墓はどうなるんでしょう」
墓所課「あなたの家族に支払ってもらいます。家族、いますよね」

あかん。相手はお役所だ。このクエストをクリアするにはもうちょっと綿密な戦略が要る。
そしてじいちゃん。すまないがあんたが250万円もかけて作ったお墓、ただの石になってしまうと思うが、勘弁してくれ。と内心思いつつ、墓所課をあとにしました。

ここで問題を整理してみましょうか。
父の遺骨は取り出せない。
母はお墓に入れない。
お墓の解約はできない。
支払いだけは未来永劫続いていく。

そしていつか、それが何十年後になるのかはわからないが、さして遠くもない未来、父の墓には夏草がもっさりと覆いかぶさり、ひぐらしの鳴き渡る渓谷にただ夕暮れだけが訪れるのだろうか…………(こらッ……物書き!)
クエスト4 クリアならず。

6)
さきゆきどうなるかはわからないが、とにかく。
このままでは母が亡くなったときに入れる墓がない。
ので、ちょっと裏技を使いました。

じつはですね。このちょっと前、父が亡くなったときのことです。病院から、亡くなったあとに必要な手続き一覧表とか書類、近隣の葬儀場の一覧表をもらったんですね。
とくにこだわりもなかったんで、わたしの家と病院の中間あたりの葬儀場をひとつ選び、そこに電話して家族葬をと、お願いしました。
葬儀場の運転手のかたが父の遺体を迎えにきてくれて、わたしはそのあとから自分の車でついていきました。
外は気持ちよく晴れていました。葬儀場まで田んぼの中の、農道を(笑)(ま、田舎だからね)父の生まれた地にも近かったし、まあ、いい季節だったからいいかな父ちゃんにも。お葬式も無理はしないつもりで、わたしひとりで全部すませようと思いつつ葬儀場に着きました。

で、遺体は葬儀場の安置室へ。そのあと、葬儀場の経営者のかたが、契約している外部の葬儀業者さんを紹介してくれて、
「ご葬儀の進行など、実際のことはこの業者が相談にのりますので」ということで、名刺をもらったんですね。
ちょっと珍しいお名前の業者さんで、おや。と思った。
私「あれ? この名前と同じ名前のひとが中学の同級生にいたような気がします……けど、珍しいお名前ですよね、XXさん」
業者さん「えっ私、◇◇中学ですけど」
私「あ、同じ同じ」
業者さん「あっ……Lちゃんだ!」
私「やっぱり! XX君!  わーひっさしぶり、ありかーーー!」
君「いやーびっくりだよ、元気してた?」
私「元気だよ! 親死んだばっかりだし!」
(大笑い、握手、ちょっと騒いだあとで、同席していた葬儀場のかたの視線に気付き、我にかえる)

ということがあったわけで、同級生っていいよね。脱線ここまで。

前述の、市役所墓所課の対応に苦慮してたとき、この同級生に相談してみようかなと思ったわけです。なので、電話して、
私「じつはお墓のことでかくかくしかじか。わたしが通えるところでどこかに良いお寺さんないかな」
XX君「あるよ。○○寺」
私「わあああ」

そのお寺は二十年くらい前からずっと気になってたお寺さんで、わたしはときどき車で行って、中には入れないけど外うろうろしてお堂の背後の森の写真とか撮ったりしてた。とても古いお寺で、歴史のなかでどういう逸話を持っていたかとか、けっこう詳しく調べてもいたのでした。なんでだろう、そのお寺が、たたずまいというか、雰囲気も含めてすごく好きだった。だからなんか嬉しくて(不謹慎)。

XX君「執事さんに電話入れておく。見学する? つきあうよ」
私「頼む。助かる」
XX君「市役所の墓所課のほうは俺ちょっとよくわかんないんだけど、他の課に知り合いもいるからいざってときは話してみるよ」
私「うん。いざってときはお願いします」
XX君「市役所のほうの話が片づいたら、いずれお墓をしまうことになるだろうから、そのときは石屋さんに助けてもらうことになるかな。今ちょうどそのお寺さんに石のことで作業に入ってるから紹介してあげる」
私「助かる。頼む」
XX君「なんでも言って。できることならやるからさ」

というわけで同級生っていいよな(二度目)。

日を置かず、お寺さんに行き、お話を聞いてきました。
共同墓所になるけれど、わたしに万が一のことがあっても、もしも将来訪れるひとがいなくなっても、ずっと仏様のお世話をしますと言っていただき、ありがたく。

お寺の中も見せていただきました。
お寺の歴史、歴史のなかのさまざまな出来事に関わったもの、由来、史跡も拝見することができました。
市役所墓所課の対応がアレだったおかげでこちらとご縁ができた……と思うと、なんかありがたいような不思議なような。ありがとう墓所課。というのもおかしいか。でもそういう出逢いでしたね。

お寺さんとご縁がつながり、お墓について明るい道すじが見えてきたところでクエスト5クリア。

次回、市役所墓所課の攻略と墓じまい、しまったあとのさらに後始末などなどについて書いていきます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?