ウクライナ侵攻から4か月が経過し、今後の展開を研究者はどう見ているのか?

安全保障問題で世界的に有名なシンクタンクに戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Studies, CSIS)という研究組織があり、今年2022年の6月16日にウクライナにおけるロシアの戦争を主題とするフォーラムが開催されました。

司会は対反乱戦が専門の政治学者のセス・ジョーンズ(Seth Jones)であり、オバマ政権の国防長官官房で情報担当国防次官を務めたマイク・ヴィッカース(Mike Vickers)、ジョンズ・ホプキンズ大学高等ポール・H・ニッツェ国際関係大学院のエリオット・コーエン(Eliot Cohen)、CSISの上級研究員エミリー・ハーディング(Emily Harding)が出席しています。

このフォーラムの内容は全文公開されており(Assessing Russia’s War in Ukraine, June 16, 2022)、ロシアのウクライナ侵攻の現状を理解し、今後どのような展開になるのかを考察するにあたり参考になる内容でした。4か月が経過したことも踏まえ、特に興味深い点を紹介してみようと思います。

ロシアの戦争目的は変化したのか?

このフォーラムで司会のジョーンズが真っ先に取り上げたのはロシアの意図、つまり戦争目的です。

ウクライナにおけるロシア軍の部隊は東部戦線に集中されるようになったので、軍事目標が変更されていることが分かりますが、それによってプーチン大統領の政治的目的が変化したのか、変化したとすれば、それはどのように変化したのかが問われました。この問いに対して出席者のコーエンはプーチンの政治的目的はずっと変化していないと判断しています。

「彼(プーチン)は基本的にロシア帝国を再び確立したいと考えています。ソ連の再建に興味があるというわけではありません。つまり、彼が望んでいることは、独立国家としてのウクライナを消滅させることであり、他の国々のことも考慮すると、さらにその先の目標があると私は考えています。
 ただし、ご存知の通り今はっきりとしているのは、(ロシアの)軍事目標が後退したということです。軍事目標は、それ以前は政治目的と完璧に一致していたのだと思います。それは数日以内にウクライナを圧倒し、間接統治が可能な政権を樹立し、それを通じてウクライナの支配を始めるというものでした。
 この目標達成に失敗し、つまりキーウ占領にも、ハルキウ占領にも失敗した後で、軍事目標はより限定的なものになったように思えます。基本的にロシアはドンバスを確保しようとしていますが、真剣にウクライナ軍を打ちのめし、撃滅しようともしています。
 しかし、ここで理解しておかなければならない最も重要なことは、そのような軍事目標があくまでも中間的なものでしかないということです。(プーチンの)政治目的は以前とまったく同じです。ただし、彼は軍事的な手段を調整しています」

もちろん、コーエンはプーチンが頑なに政治目的を変えないからといって、アメリカや西欧諸国の軍事援助や経済制裁に意味がないと述べているわけではありません。もしウクライナを支援することで戦況を変化させることができれば、ロシアはどれほど政治目的を堅持したくても、軍事行動を再び調整せざるを得なくなるかもしれません。そのような状態に追い込むことが、今の対ロシア戦略の課題ですが、ハーディングは次のようにその難しさを説明しています。

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