論文紹介 ロシアは原油価格が高騰するたびに攻撃的になるのか?

これまでにロシア政府は欧米諸国に対して攻撃的、非妥協的な対外政策を採用してきました。このような政策を選択する理由を説明する試みの一つとして、原油価格の変動に注目する研究があります。

Maria Snegovaya(2019)はロシアが世界有数の産油国であることに着目し、原油価格が高騰しているときに、ロシア大統領の発言がより反欧米的な内容に変化するのではないかと考えました。彼女の仮説によれば、原油の価格が市場で高騰し、より多くの収入を得ることが可能なとき、ロシアは国際社会において攻撃的に振舞うようになるはずです。

Snegovaya, M. (2019). What Factors Contribute to the Aggressive Foreign Policy of Russian Leaders? Problems of Post-Communism, 1–18. doi:10.1080/10758216.2018.1554408

この仮説を裏付けるために、著者は2000年から2016年までにロシア大統領が行った演説の文章をまとめたデータを入手し、機械学習の手法を使った言説分析を行いました。まず、著者が攻撃的な文章を選別し、それで機械学習モデルを訓練し、それからモデルが攻撃的だと判定した文章を特定しました。結果として、ロシア大統領が行った457件の演説を解析し、71,008件の文から12,428件の攻撃的な文を識別することができました。

次に、それぞれの演説の中で使われた攻撃的な文の数を、演説文を構成する全体の文の数で割ることで登場の頻度を求め、攻撃的な言説が登場する頻度が四半期ごとにどのように変化するかを調べました。そして、ロシアの中央銀行が発表している原油価格と輸出動向が、攻撃的な発言の頻度とどれほど緊密な関係性を有しているかを評価するため、最小二乗法という回帰分析の方法を用いました。これによって、二つのデータの間に見られる相関性を評価することができます。

分析を進めた結果、著者はロシア大統領の演説内容に含まれる攻撃的表現は、原油価格の変動と強い関係性があることを裏付ける証拠を得ることに成功しています。興味深いのは、ロシア大統領の演説に見られる攻撃性の増加は、北大西洋条約機構の拡大と関係がないことが指摘されていることです。北大西洋条約機構の加盟国は1999年、2004年、2009年に増加し、東欧に拡大してきましたが、その直後の発言内容を調べても、特に攻撃性が増しているとは認められませんでした。経済成長の停滞という課題から国民の目を外に逸らすために攻撃的な言動をしているという説も調べられていますが、やはり関係性が乏しいとされています。

原油価格が高騰し、エネルギー貿易で大きな収益が得られる時期にロシアが攻撃的になるという著者の主張は、対ロシア政策を考える上で参考になるかもしれません。

著者の分析結果を踏まえるならば、北大西洋条約機構の東方拡大を思いとどまる外交政策を採用しても、あるいはロシア経済を停滞させ、衰退させる経済制裁を実施しても、それだけではロシアの攻撃性を緩和することにはさほど寄与しないかもしれません。市場における原油価格の高騰を防ぐこと、そしてロシアがエネルギー貿易で利益を得ることを防ぐことが、ロシアの態度を変化させることに寄与する可能性が高いといえるかもしれません。

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