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論文紹介 NATOの拡大路線は、ヨーロッパの分断を不可避にした

北大西洋条約機構(North Atlantic Treaty Organization, 以下NATO)は1949年に設立された、アメリカをはじめとする北アメリカとヨーロッパ諸国の軍事同盟です。もともと冷戦時代にソ連の脅威に対抗する目的で形成された集団防衛同盟でしたが、1991年にソ連が解体されて以降も維持されています。

それどころか、冷戦後はソ連の影響下にあった東ヨーロッパ諸国が続々とNATOに加盟するようになり、NATOの地理的範囲が東方へ大きく拡大されました。一部の専門家や研究者の間では、これらの新規加盟が地域の安定化を損なう恐れがあるとの指摘があり、特にウクライナやジョージアの新規加盟は認めるべきではないという慎重論があります。

キングス・カレッジ・ロンドンでロシアの国防を専門にするTrancey German教授の論文もその一つであり、ロシアの脅威認識にもっと注意を払うべきだと主張しています。

Tracey German, NATO and the enlargement debate: enhancing Euro-Atlantic security or inciting confrontation?, International Affairs, Volume 93, Issue 2, 1 March 2017, Pages 291–308, https://doi.org/10.1093/ia/iix017

NATOの根拠法である北大西洋条約の第10条では、全会一致の合意があれば、新規加盟を受け入れることができると定められています。つまり、NATOはその当初から新規加盟を受け入れることを想定した集団防衛同盟でした。

1949年にNATOが設立された当初の加盟国数は12カ国でしたが、2017年のモンテネグロの加盟で29カ国になっています(ちなみに、論文発表後の2020年3月に北マケドニアが加盟したので、加盟国数は30カ国に増加しています)。著者は冷戦時代の新規加盟は別として、冷戦が終結して以降の新規加盟の多くは軍事的な必要に迫られたものではなく、政治的な意味合いが強かったと指摘しています。

懸念すべきは、地域の安全保障にとって不必要な新規加盟を認めてきたことで、自らの領土や勢力圏が脅かされていると感じたロシアがNATOに敵意を強めていることです。つまり、NATOが新規加盟を認めて、その地理的範囲を拡大したことが、ヨーロッパの安全保障に悪影響を及ぼしている可能性が高いと考えられるのです。

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