「教養」 vs 「リベラルアーツ」

今月(2021年5月)の連続4週間ZOOM単独講演会で頂いた質問の「『教養』と『リベラルアーツ』の相違とは」の小生なりの回答をまとめてみました。少しでも御参考になると幸甚です。

(歴史)
●リベラルアーツ(西洋)
紀元前8世紀 ギリシャ・ローマ時代(ルーツ)
11世紀末 オックスフォード大学・ケンブリッジ大学 (現在のWilliams Collegeの目玉コースは、オックスフォード大学の教授1人に対して学生2名以下のTutorial制)
17世紀 当時、まだ少人数で大学院がなかったハーバード大学を初めとして、主に米国東部に新たなリベラルアーツカレッジが輩出される。(ここまでは、訪米のエリートに「ノブレス オブリージュ」を刷り込むのが重要視されてたかと)
20世紀後半 アメリカの大学は、3つのカテゴリーに大別される様になってきた。①Harvard, Yale, Princeton大学などのアイビーリーグに代表されるNational University (教授は、大学院での研究が最優先のResearch University)と、②Williams, Amherst, Swarthmore, Middleburyなどの全寮制の小規模のLiberal Artsと、③Regional University(前者2つが広大な全米から優秀な学生が集まってくるのに対し、このカテゴリーは、同じ州の地元の学生中心の大学。学費が安い!)
2001年のエンロン・ショックや2008年末からのリーマンショックなどが引き金になり、「専門」/「職業」直結教育が見直され初め(特にMBAコース)、ハーバード大学も創立当初の初志に回帰し始め、大きな総合大学にも関わらず、改めて小クラスのリベラルアーツ教育に再注力され始めている。それに先駆け、自然とリベラルアーツ・カレッジが一層、見直されてきている今日この頃。
21世紀後半(予想) 技術革新により、オンライン化でできるメリット(リアルより便利な面)が社会的に認知され、特にコロナ禍でその傾向に拍車がかかっていている。何しろ教育費が高くなりすぎ、社会の教育格差の深刻な問題もその背景にあるかと。ミネルバ大学などはそれに対する注目すべき挑戦で、日本も含めて、それに似た学校が続々と増えてきている。しかし、一方、知識は「オンラインで」で、人との交流の重要性は、「リアルのリベラルアーツ教育で」となってきているやもしれない。
●教養 (日本)
明治から戦前までの旧制高校が西洋のリベラルアーツ教育に酷似している。(おそらく、この日本の旧制高校も、アメリカのリベラルアーツ・カレッジも、両方共、英国のチャーチルの出身校であるハロウ校やイートン校の様なパブリックスクール(イメージ的には、ハリーポッターの舞台)という高校をモデルにしているからでは?)全寮制で、都心からはずれており、少人数制で、先輩と後輩の関係が密で、哲学など全人教育中心の古典と文武両道が重視されたそう。帝大にほぼ直結していたのも特徴で、それゆえ、社会・世間的にも尊敬され、卒業生も、岸信介を初めとする数々の首相経験者や、石川一郎経団連初代会長、豊田章一郎トヨタ自動車名誉会長など日本を代表とする大企業や大手銀行のトップ等、文豪だと夏目漱石、正岡子規、安岡正篤など等、錚々たる骨太の泰斗を輩出した。
戦後 しかし、高度成長期に入ると、「パンキョー」と言われ、「つまらない・役に立たない」と専門教育より下に見られ、教授の給料も然りであった。バブル期が過ぎても、その傾向と世間のイメージはあまり変わらず、自ら経済/商学部や法学部などの職業訓練的な学校教育しか受けた事のない、イケイケゴーゴーの企業戦士による採用担当者と終身雇用制や4月一括採用制などにより、なかなか根深い。
2020年 しかし、昨今のコロナ禍や、東日本大震災や、前述のリーマンショックや停滞し続けている経済と減少が加速化してきている人口などの社会状況から、過去には起こった事のないピンチを、多方面的にアプローチし、チャンスに変えていくリベラルアーツ教育が見直され、従来の古き悪しき「教養」のイメージから脱皮すべき、片仮名の「リベラルアーツ」ブームが到来してきている。
(現在の日本の教養とグローバルなリベラルアーツ教育の相違)
● 戦後の教養は、諸学の寄せ集めに過ぎず、幹や根っこでコネクトせず、枝葉の「知識」の詰め込みが中心。
体育とかワークショップなどをあまり重視していない
上から下に知識を下げ渡す権威的なモノだある場合が多い(学生は受け身)
自由でない(自主的に学ぶ/気付く)のが少ない
主に過去を学ぶ
辛い
「教養課程」は終えたが、「リベラルアーツ」の本質の精神は余り身に付いていない。
日本式の「英語教育」は何年も勉強したが、「実際に使える英語」は自分のモノになっていない。⇐似ている!
● 現在のリベラルアーツ教育の目指している者は、東洋の陰陽図と似た、循環的に深化し、拡大していくのを目指す。
自由である (科目選択も、発想/発言も、師弟関係も、過去のとらわれない OUT OF BOX)
WIDE/BALANCE/ CONNECTED
少人数のクラスで対話型(アクティブ/能動的)
事後性である(事前に効果はわからない)がゆえに、未来志向でアウトプット重視
楽しい
⇒ 想定外の出来事に直面した際、あり合わせの知識(これまで人間が考えてきた全て)を組み合わせて、その都度、自分の頭で考え、適切に対処できる能力
☆ 「知識から知恵への修行自体が、『道』の修行になり、
『道』の修行自体が、知識から知恵を極めること」 ⇒ だから、「今でしょ!」

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