【第2話】実地検証!北海道にも存在する、もうひとつの”おいらん淵”伝説とは!?【北海道の怖い話】by田辺青蛙
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【第2話】実地検証!北海道にも存在する、もうひとつの”おいらん淵”伝説とは!?【北海道の怖い話】by田辺青蛙

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『大阪怪談』『関西怪談』などを著した田辺青蛙が、北海道のご当地怪談を書きおろす実話怪談連載、第2話!

第2話 花魁淵

 今から十年くらい前に、とあるイベントで知り合った作家に初対面で「結婚しませんか?」と言われた。
 なんとなく、一人が寂しいなと思っていた時期だったので少し考えてから別にいいかと思いその人と一緒になることに決めた。
 相手方の親御さんにご挨拶をしに行こうということになり、その時初めて相手の生まれが北海道の札幌だということが分かった。

 初めて行った札幌は冬の二月で、どこを見ても雪があって白いなというのが最初の印象だった。
 千歳空港から電車に乗り、札幌で降りると眼鏡が途端に真っ白に曇った。
 外を歩く時、風が吹くと雪同士が擦れ合うような、パラパラという音がするということをその時知った。
 私は曇り空の下ビニル傘を差して、転ばないようにゆっくりペンギンのようによちよちと歩いた。
 大阪で知っていた雪と、北海道の雪は全く違っていて、片栗粉のような感触が足を踏み出す度にブーツの裏から伝わって来た。
 私が慎重に歩き過ぎたせいか、待ち合わせ場所についた時には顔合わせの予定の時間が過ぎてしまっていた。
 少し遅れて来たにも関わらず、相手の両親は息子が連れて来た着ぶくれした狸のような彼女を怪訝な目で見たりせず、寒かったでしょうと温かい紅茶を勧めてくれた。
 緊張してぎこちない挨拶をすると、夫となる予定の人は私のことをあまり説明していなかったのか、私自身のことを軽く聞かれた。
 私は夫の両親に大阪に住んでいることと、ホラーや怪談を書いていることを伝えた。
 すると、花魁淵おいらんぶちのことはご存じですか?と訊かれた。
 私は山梨県甲州市の国道沿いにある花魁淵のことだと思い、もちろん知っていますと答えた。
 山梨にある花魁淵にはこんな伝説が残っている。
 戦国武将・たけ勝頼かつよりの死後、黒川くろかわ金山――武田氏の隠し金山の場所の発覚を恐れて、口封じの為に金山奉行であった依田よだ氏が、金山の場所を知る鉱山労働者を一か所に集める計画として、藤蔓で吊った宴台を川の上に作り、周りに酒肴を並べた。
 これが恐ろしい口封じ計画とも知らず、藤蔓で吊られた演台に五十五名の遊女が呼ばれ、薄い花のような衣装を翻しながら鉱山労働者の前で舞を披露した。
 遊女の舞う姿を見ながら酒が鉱山労働者に勧められ、酔いが回った頃に一斉に藤蔓が切り落とされた。闇夜を引き裂くような悲鳴と共に、松明の灯りや演台ごと一緒に遊女も含めた炭鉱労働者全員が淵に沈められた。
 その夜から花魁淵では、急な流れの水の中に落とされて死んでいった人々の怨念が、数百年経った今もなお渦まいているそうだ。
 私が何故山梨の花魁淵のお話を?と聞き返すと、そこは違います、札幌の花魁淵の話ですよと言われた。
 私は札幌にも花魁淵があるとは知らず、驚いていると、相手の両親は微笑ほほえんでこう言ってくれた。
「これから車でその近くまで送ってあげましょう。いや、夜の方がいいのかな、昼間じゃ幽霊も現れてくれないでしょうから」
 そうして、夜まで待って四人で花魁淵の近くまでドライブで行った。
 車の中では、幽霊に出会えばまだ助かる余地がある気がするが、熊は全くそういう気がしないという話を聞いた。
「熊はねえ、体調は2mを超えで体重も2百キロ以上あるようなのが山に何匹もいるから。本州のツキノワグマとは大きさが比較にならないわけ。熊に出会ったら大声上げて逃げたりしちゃ絶対だめ、持続40キロ以上で走れるからね。目を見ながら後ずさると助かる人もいたっていうけど、いきなり爪や牙で攻撃される場合もあるから。そうなったら両手で首筋と顔をガードするといいよ。あいつら首や鼻から食べることがあるから。夏場だと薄着だから腹からやられることもあるけどね」
 幽霊の出る怪談よりも怖い北海道の人なら皆しっているという熊話を聞きゾッしてしまった。今は冬なので、熊が出る心配がないそうだが、冬に冬眠しなかった熊に襲われ、死者七名、負傷者三名を出したさんべつひぐま事件が頭によぎり、私は車から下りないことを決めた。
 正直熊と幽霊だったら、熊の方が怖い。熊にはお祓いも効かないし、たとえ銃を持っていたとしても私の方が殺されてしまうだろう。

 夜に訪れた花魁淵は静かな川のせせらぎが聞こえる場所で、近くに街灯は殆どなく真っ暗だった。
「ここで昔、身投げした花魁がいたそうです。北海道で花魁?と思われるでしょうが、吉原から身一つで逃げて来た女性らしくってね。白い雪を固めたような、色白の美女だったそうです。
 でも、逃げて来た北の先で彼女はどうすることも出来なくって、結局ススキノの遊郭で拾われることになって、そこで馴染みの客が出来た。で、その客に身請けされたものの美しさのあまり他の人の目に晒すのが惜しくなったとか、それとも他の客と駆け落ちの約束をしていたとかで、彼女は男が手作りで家の中に拵えた座敷牢に閉じ込められてしまった。でも、かんざしで掘った穴から抜け出して雪の降りすさぶ中赤い帯をひるがえし逃げて、そして……何を思ったのか豊平とよひら川に身を投げたそうです。それからここを花魁淵と呼ぶようになったとか」
「そうでしたか」
「それ以来、花魁姿の女性が淵で手招きするとか、花魁を探す男の声が聞こえるとか子供が川遊びなんかしていると、鮮やかな帯が水中から藻のように出て絡むとか色んな噂があるんですよ」

 それから四人で車の中でじっと待っていたが、幽霊は見れなかった。

「北海道はね、悲しい歴史が多いからか色んな伝説が残ってるんです。
 私は以前炭鉱の閉山に関わる仕事をしていましたから、色々と聞いている話がありまして……内地とは違う闇や影があると思うんですよ」
 そう言い、私の顔を見て結婚については二人の自由にして構わないということだった。
 そんなわけで、それから数日後に婚姻届けを出し私達は夫婦となった。


―了―

第1話 まえがき  |   第3話 シタキ

著者紹介

田辺青蛙 (たなべ・せいあ)

『生き屏風』で日本ホラー小説大賞短編賞を受賞。著書に『大阪怪談』『関西怪談』『魂追い』『皐月鬼』『あめだま 青蛙モノノケ語り』『モルテンおいしいです^q^』『人魚の石』など。共著に「瞬殺怪談」「怪談四十九夜」「てのひら怪談」「恐怖通信 鳥肌ゾーン」各シリーズ、『京都怪談 神隠し』『怪しき我が家』『怪談実話 FKB饗宴』『読書で離婚を考えた』など。

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