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呪術、霊魂、生霊… 沖縄で巻き起こる異界を現地在住の著者が描いた人気シリーズ第5弾! 小原猛『琉球奇譚 イチジャマの飛び交う家』

沖縄の闇夜で巻き起こる、呪霊と人の恐ろしきせめぎ合いを現地在住の小原猛が爆筆!

「生霊は本当に恐ろしい…」
禁忌の呪術が人を蝕む! (「イチジャマの飛び交う家」より)

あらすじ・内容

沖縄在住の作家・小原猛が地元の怖い話を纏めた元祖・ご当地怪談シリーズ〈琉球奇譚〉第5弾!
・鬼に憑かれた男性の恐怖と苦悩…「ウニが来る
・遺骨収集のバイト中に出遭った死者の姿…「指差すひと
・真似厳禁!セクハラ上司からの悪念を秘密の術式で跳ね返す…「午後四時四分のイキマブイ
・家に現れるカナブンは恐ろしい呪術の手先!?…「イチジャマの飛び交う家
・不自然な死が多発する施設、その忌まわしき起源とは…絶対禁忌の忌話「自治会連絡掲示板(利用者は申請すること)
——ほか収録。

決して触れてはならぬ異界がすぐ隣に広がっている…

テスト

著者コメント

今回は生霊や呪いなどの話を多く集めてみました。
幽霊を信じない人でも、生霊は信じる、あるいは存在するような気がする、という方が結構いらっしゃるものです。人は単なる動物ではなく、他者を思い、愛し、そして憎む生き物です。
念というものが現実世界にどのくらい干渉できるのかは、古今の怪談を紐解けば、おのずと全体像がわかってくるような気がしています。
沖縄では生霊のことをイチジャマなどと呼びますが、多くの人々がその存在を信じ、恐れを抱いています。
ぜひ一読して、それを信じている人々の物語の中に入っていただきたく思います。

試し読み 1話

①集められたイチジャマ

「集められたイチジャマ」

 もともと何もない空き地だった。そこを安里さんの父親が全部買い取った。すでに安里家には大きな家があり、息子家族も娘家族も、それぞれ家を持っていた。なので家族全員、一体なぜ父親がそんな百坪もの土地を買うのか、まったく意味がわからなかった。
「ここはすぐに必要になる」と父親は言った。
 父親はその土地を購入すると、まずコンクリートブロックで壁だけ作り、外から中が見えないようにした。そして土地の真ん中に、高さ四十センチくらいの指先の形をした琉球石灰岩を一つ置いた。
「これはなんのため?」と息子である安里さんが尋ねると、父親は答えた。
「イチジャマをここに集める」
「どうやって?」
「この石は霊石で、首里の戦争で燃えた寺にあったものだ。お前はこれから会社経営をして忙しくなる。他者からフツ(口の意味)で念を飛ばされることもあるだろう。だから父親からのせめてもの贈り物だ。五年経ったら家を建てるといい。それまでお前以外、誰もここに入らないようにしなさい。特に霊石は絶対に動かさないように」
 そんなことを安里さんは父親から言われたのを覚えている。
 だからその後五年間、ほとんどこの土地には立ち入らなかった。一年に一度だけ、草刈機を担いで土地の雑草を刈った以外、本当に人が足を踏み込まない土地であった。
 やがて四年目で安里さんの父は亡くなり、五年目で安里さんの会社は大きく発展した。安里さんは父の意志を受け継ごうと、その土地に家を建てることにした。
 久しぶりにその土地に入ると、雑草が人の背丈くらい茂っていた。
 その中をまっすぐ進み、霊石が置いてある場所までたどり着いた。それがよく見えるように雑草を手でかき分けてみて、安里さんは非常に驚いた。
 霊石は高さ四十センチくらいの琉球石灰岩であったが、設置した時は単なる指先のような形だった。
 それが明らかに人の顔の形になっていた。
 上を向き、悲痛なうめき声を上げている男性の顔だった。目も鼻も大きく開いた口もはっきりとわかった。

 そこに家を建てるつもりだったのだが、安里さんは今に至るまでそこをどうするか迷っている。なぜなら五年間は触るなと父親は言ったのだが、その霊石をどうするかについては、まったく教えてくれていなかったからである。
 霊石は次第に雨風に削られて、今ではまた違う、悲鳴を上げる女性のような顔つきになっているという。

🎬人気怪談師が収録話を朗読!

著者紹介

小原 猛 (こはら・たけし)

沖縄県在住。沖縄に語り継がれる怪談や民話、伝承の蒐集などをフィールドワークとして活動。著作に「琉球奇譚」シリーズ『キリキザワイの怪』『シマクサラシの夜』『ベーベークーの呪い』『マブイグミの呪文』、『琉球妖怪大図鑑』『琉球怪談作家、マジムン・パラダイスを行く』『いまでもグスクで踊っている』『コミック版琉球怪談〈ゴーヤーの巻〉〈マブイグミの巻〉〈キジムナーの巻〉』(画・太田基之)』「沖縄の怖い話」シリーズなど。共著に「瞬殺怪談」「怪談四十九夜」各シリーズ、『男たちの怪談百物語』『恐怖通信/鳥肌ゾーン』など。DVD『怪談新耳袋殴り込み・沖縄編』『琉球奇譚』『北野誠のおまえら行くな。沖縄最恐めんそ~れSP』など。

シリーズ好評既刊

マブイグミ

【カバー】琉球奇譚べーべークーの呪い

シマクサラシ

キリキザワイ