【第4話】日本でここだけ!? 史上初の幽霊の銅像が苫小牧にある!【北海道の怖い話】by田辺青蛙
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【第4話】日本でここだけ!? 史上初の幽霊の銅像が苫小牧にある!【北海道の怖い話】by田辺青蛙

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『大阪怪談』『関西怪談』などを著した田辺青蛙が、北海道のご当地怪談を書きおろす実話怪談連載、第4話!

第4話 幽霊の銅像

 物凄い地吹雪がごおっと窓の外に吹き荒れているのが家の中にいても分かる。
 手負いの大きな獣が唸り声をあげているようだなと思いながら、両手で抱えるようにカップを持ちすっかりぬるくなった茶を飲んでいると、この家の主のKさんがぽつりとこんな事を言い始めた。
「幽霊の銅像のことをご存じでしょうか?」
 Kさんは遠縁の親戚にあたる人で、市役所に勤めていた経験からか様々な地元に伝わる話を知っている。
「いや、知らないです。どこにあるんです?」

「そうですか、昔私が役場に勤めていた時に聞いた話でね、同僚がこういう雪の日になると必ず思い出すって言うんです。銅像になった幽霊の話を。
 苫小牧とまこまい市の勇払ゆうふつに出た幽霊で、夜泣き梅女うめじょと呼ばれているそうです。
 徳川幕府は寛政十二年(1800年)に北方の開発と調査を行う為に、多磨郡八王子の住人等八十名を蝦夷地へ派遣することにしたんです。
 当時はお上の決めることは絶対だったわけでしょう。
 だから全く知らない土地に、彼らはどんな気持ちで行ったんでしょうねえ。
 その八十人の中に一人だけ和人の女性がいて、名前をお梅さんと言ったそうです。
 おそらく、記録の中では入植者として初めて蝦夷に入った和人女性だそうで。
 お梅さんを含む八十名がやっとの思いで辿り着いた先が勇払だったのですが、当時土地の開墾かいこんを行う作業は困難を極めました。
 火山灰の土は故郷から持って来たどの種を植えても芽吹かず、夏も寒く海から吹き付ける風は冷たく厳しかった。そんな状態だったから、食べる物がなくて直ぐにみんな幽鬼のように痩せこけてしまいました。
 骨と皮だけの体になっても精一杯働いて、ボロ板を立てかけただけのような掘っ建て小屋の中で歯を食いしばって、仲間同士励まし合って一日、一日を乗り越えていったそうです。
 でも、飢えによる栄養失調や病で一人、また一人と倒れてしまい、一年目にして隊士の三割以上が亡くなってしまいました。
 凍った大地を粗末なすきくわで耕し、食べられる草を探し、雪の中で僅かに捕れた獣を分け合って食べ、時には木の皮までいで噛んで飢えをしのぎ、やがて何度目かの短い春と夏を迎えた頃、お梅さんは赤子を身ごもっていることを知りました。
 当然産婆もいないような土地だし、女手もいない。
 しかも、お梅さんの夫は幕府直轄役人の組頭の役割を任命されていて、開拓の記録や指導を行う立場でもあったそうだから、とても忙しくしていました。
 だからたった一人でお梅さんは子供を産み、赤子の面倒を見るしかなかった。
 そんな中、折角授かった命の為にと体を絞るようにして赤子に愛情を注いでいたお梅さんでしたが、食べ物も無く過酷な労働のせいか、乳がやがて出なくなってしまいました。
「お乳を……お乳を……」と、涙を流しながら自分の乳から一滴でも、少しでもいいから出てくれとお梅さんは毎日念じ続けたのですが、乳は出ることは無く、赤ん坊も痩せていきました。
 それからしばらくして、心労や産後の肥立ちのせいもあってか、出ない乳を口に含み吸う力すらない痩せた赤子の姿を見ながら「お乳よ……お乳よ…」と言いながらお梅さんは倒れてしまい、それから数日後に亡くなってしまいました。
 まだ二十四歳の若さでした。
 それが、こんな風に雪風の厳しい日だったそうで、それ以来その集落では「この子にお乳を……」と言うお梅さんの姿を見かけるようになりました。
 残された隊士達は「お梅さんは死んでからも、あの赤ん坊が心配で仕方なくてこの地にとどまっているのだろう」と噂しあったそうです。
 今でも雪の日や雨の日に戸を叩く音がして開けると、ボロボロの衣をまとった若い女性が立っていて「赤ん坊のお乳を……」と言葉を発して消えるのを見る人がいると聞いています。

 お梅さんが亡くなった翌年、同心隊は箱館奉行所仕えになり、あれだけ苦労して切り開いた開拓地は結局放棄されてしまいました。
 夫の祐助も勇払を撤収した後に箱館に移動になったのですが、妻を失った悲嘆の影響もあってか箱館に移動後まもなく亡くなってしまったそうです。
 お梅さんの墓は伊達市有珠うすの善光寺にあって、建てたのは夫の祐助と梅の遺児だったといわれています。

 その後、苫小牧市は開拓に尽力した同心隊士像と共に亡霊のお梅さんの銅像を建てました。
 今もこの像は北海道苫小牧の市民会館横に建っていますよ。幽霊の銅像は世界的に見ても珍しいと思いますよ。しかもどこの誰かということまでハッキリと分かっていますからね。一度、私もその銅像の話を聞いて気になったから直接見に行ったんですよ。そしたら、見知らにご婦人にね、この赤ちゃんを抱いた女性の銅像から時々すすり泣きが聞こえるんですよという話をされました。
 もし、興味があったら見に行かれるといいですよ」

 Kさんは白く塗りつぶされたような雪が吹き荒れる窓の外を見ながらそう言い、マッチをシュッと擦って煙草に火を付けた。
 ふうっとKさんが煙草を吸って息を吐くと、白い煙がすうっと細長く天井まで線香の煙のように上がっていった。

―了―

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著者紹介

田辺青蛙 (たなべ・せいあ)

『生き屏風』で日本ホラー小説大賞短編賞を受賞。著書に『大阪怪談』『関西怪談』『魂追い』『皐月鬼』『あめだま 青蛙モノノケ語り』『モルテンおいしいです^q^』『人魚の石』など。共著に「瞬殺怪談」「怪談四十九夜」「てのひら怪談」「恐怖通信 鳥肌ゾーン」各シリーズ、『京都怪談 神隠し』『怪しき我が家』『怪談実話 FKB饗宴』『読書で離婚を考えた』など。

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