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【第24話】軽い遺体、重い遺体の違いとは!? そして元職員が語る、軽すぎる棺の哀しいヒミツ【下駄華緒の弔い人奇譚】


―第24話―

棺の重さはそれこそ10人十色です。棺自体の重さというより、その中の人の大きさもさることながら状態によっても大分左右されます。
仮に体重90キロの大柄な方が収まっている棺だと、4人で棺を運ぶのも一苦労です。棺に取っ手でも付いていれば話は別ですが、もちろんそんなものは付いてません。なので、火葬炉に運ぶために棺の四つ角を持って4人で運ぶのがいつものスタイルです。時々人手が足らず3人で運ぶこともありますがその場合は頭側に2人、足元側に1人というふうにして棺を持ちます。

当然、重い棺は大変です。特に火葬場ではどちらかというと年配の従事者が多いのでそれで腰を痛めたりすることも多々あるようです。
そういう意味では水死のご遺体は大変でした。なぜかというととにかく重いんです。当然です、遺体が水分をたくさん含んでいるのでかなりの重量になります。遺影に写る故人様の輪郭やなんとなく予想できる体格を遥かに超えて重たいことはよくあることです。そして火葬場職員も人ですから、人によってはその重さが理由で水死の遺体の納まった棺を運ぶのが好きじゃない、と公言する方も沢山いました。

ですが、ぼくが一番苦手な遺体は思い水死体ではなく、焼死体です。

焼死体はとても軽いです。なので運ぶという面では非常に体力的にはマシになります。ですが、それでもぼくは一番苦手でした。
なぜかというと、我々は火葬場職員なので火葬場に来た遺体を火葬するのが仕事なんです。
そうなんです、焼かれて亡くなった焼死体をもう一度焼かないといけないんです。これは個人的に精神的に辛かったです。なので、いつも焼死体を火葬する際は「ごめんなさい」と小さく呟いていました。

ある時、学生が焼死体で火葬場に来ました。体の殆どが焼けていたらしく、ぼくも含め棺を持った職員一同、持った瞬間に顔を見合わせたほどです。
運んでいる最中、父親が「私も棺を持っていいですか」ときいてこられました。正直、想像以上の軽さなので悩みましたが、父親の希望通り、一緒に棺を持って頂きました。無表情で涙を流す父親の姿が印象的でしたがその後、父親が怖いことを言いました。

それは、合間としては火葬中の出来事です。
お骨上げの時間まで時間があるということで、火葬場の休憩所に案内させて頂いて、そこでご夫婦2人でお待ち頂いてました。そのときに小さな声で
「ころす。ころす。殺す」
と確実に聞こえたその声は父親の声でした。小さくなんども

「殺す。殺す。殺す」

実はこの焼死体は娘さんで、しかも他の男数人と一緒に自殺をしようと集まっていたのです。そして娘さんは亡くなりました……が、その他の男は全員生きているのです。
娘さんだけが亡くなったのです。他の男達は途中で怖くなって逃げた…と。
おそらく父親の怒りはその男数人に向けられてのことでしょう。

なにも起きないことを祈りつつ、ぼくは軽く会釈をし、休憩室を後にしました。

著者紹介

下駄華緒 (げた・はなお)

2018年、バンド「ぼくたちのいるところ。」のベーシストとしてユニバーサルミュージックよりデビュー。前職の火葬場職員、葬儀屋の経験を生かし怪談師としても全国を駆け回る。怪談最恐戦2019怪談最恐位。

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