【第3話】余市の海から死霊が呼ぶ声が聞こえてくる…戦慄の体験談!【北海道の怖い話】by田辺青蛙
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【第3話】余市の海から死霊が呼ぶ声が聞こえてくる…戦慄の体験談!【北海道の怖い話】by田辺青蛙

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『大阪怪談』『関西怪談』などを著した田辺青蛙が、北海道のご当地怪談を書きおろす実話怪談連載、第3話!

第3話 シタキ

 札幌でバーテンダーを営むGさんから聞いた話。

 寒い寒いと手を擦り合わせながら歩いている最中に温かそうなオレンジ色の灯りが目に入り、ふらりと店の中に入るとずらりと並んだ酒瓶の前でバーテンダーが一人、フルーツの皮をいていた。
「今開けたところなんです。外、今日もかなり寒かったですか」
 背筋のピンとした声に張りのあるバーテンダーだった 。年齢は私より、少し上くらいだろうか。私は何か温かい物を頼みますと手袋を脱ぎながら伝え、コートを壁際のハンガーにかけた。苦手な物やアレルギーの有無を聞かれたので、特にないと答えるとバーテンダーは手際よく耐熱グラスを取り出し、さっと布で内側を拭いた。それから冷蔵庫から何かを取り出しナイフでココココっとテンポよくまな板の上で刻む音や、液体を注ぐ音が聞こえて来た。
 しばらくするとふあっと甘いミルクやチョコレートの香りが店内に漂いだした。
「ホットラム・チョコレートでございます」
 飲むとチョコレートの甘さをまとったラムが口の中で広がり、そして少しだけ和風の何かを感じた。
 なんだろう?と首をかしげていると、バーテンダーが少し微笑み「少しだけアレンジとしてほうじ茶の香ばしさを付けてるんです。チョコレートを刻む時に卓上の燻製機で茶葉の煙をかけてます」と言った。
 温かいカクテルのおかげで、体の寒さは随分と抜けた。
 軽い世間話を交わした後、他にお客もいなかったこともあって、私は何か不思議な体験や話や怖い話を知りませんか? そういうのが好きで集めているんですとバーテンダーに聞いてみた。
 すると、相手は少し考えこんでから話してくれた。
「こういう寒い時に思い出してしまう話があります。
 わたしは、この辺りの生まれではなくって元々余市漁港の方の 出身なんです。
 静かな漁港です。観光名所というと、海の中にロウソク岩っていう形の変わった岩がありますね。他にも、ロウソク岩からちょっと離れた場所に、驚異的なバランスで、どうして倒れないんだろうって形をしている大黒岩とえびす岩っていう奇岩もあります。特に何があるわけじゃないですが、夏とかたまに帰省するといい場所だなって思いますね。
 もう相当前の話なんですが、それでも今も語り継がれている「シタキ」の話が、余市よいち漁港にあるんです。
「シタキ」っていうのは、突風を伴う大時化しけ、強風を伴う猛吹雪のことをそう呼ぶんです。
――大正6(1917)年1月の下旬。
 その日は冬には珍しい程澄んだ青空で、風もほぼ無風という好天だったのに、船が沖合に出るのを待っていたかのように急にシタキがやって来てしまったんです。
 海の上で波でもみくちゃに揉まれるようにして、船は揺れて沈んだそうで、シタキに襲われた、カレイ刺し網漁に出かけた豊浜町の住民41名、余市町全体では72名がたった一日のうちに亡くなりました。
「一瞬にして死の町となった」と称された程の悲惨な海難事故です。

 それ以来、誰も船を出していない日に、漁船の灯りを冬の寒い荒れた海上に見ることが報告されたり、「シタキだ、シタキだ」と海鳴りに混ざって冬の日に呼びかけられる人がいるらしいんです。
 わたしも、小さいころ冬場に犬を連れて海岸を歩いていた時に、海から吹き付ける風の音に交じって「シタキだ、シタキだ」という声を聞いたことがあります。
 海に消えた遺体は今も見つかっていないそうなので、海の中から陸にいる人に呼びかけ続けているのだろうと、自分で納得することにしました。
 その翌日、家の前に一掴みくらいの量の海藻が玄関先に落ちていて、それが冬場なのに今さっき置いたみたいに、凍ってもおらずぐっちょりと濡れていて、親父はわたしが置いたと思ったみたいでね。
 片付けておけっ!てどやされてしまったんです。
 さほどの量でもない単なる海藻だったんですけどね。
 何故か両手でも、腰を入れて気合入れないと持ち上がらないくらい重たくって、そのうえ海水の汁みたいなのがぼたぼたと滴り落ちて、それが血なまぐさかったんですよ。
 にしんの内臓みたいな臭いで、今も思い出すと食欲が少し無くなりますね。
 海藻をゴミ袋に入れて、庭の隅に置いといたんですが、そしたらその袋からね 、こんな声を聞いたんです。
「おまえもシタキで死ぬぞお」って。
 しわがれた潮風で焼かれた漁師の声だなって子供でも分かりました。

 だから、それ以来犬の散歩のコースは海は避けたし、冬場は海に行かないようにしましたし、大人になってからも冬場は帰省はしないって決めていて、したことないですね。
 札幌は海から遠いし、街中にいるんでシタキで死ぬ心配ないからいいんですけど、たまに海岸までドライブや釣りに行こうって冬でも誘う人がいて、あれは困るんですよ。

―了―

         ◀第2話 花魁淵    第4話 幽霊の銅像▶           

著者紹介

田辺青蛙 (たなべ・せいあ)

『生き屏風』で日本ホラー小説大賞短編賞を受賞。著書に『大阪怪談』『関西怪談』『魂追い』『皐月鬼』『あめだま 青蛙モノノケ語り』『モルテンおいしいです^q^』『人魚の石』など。共著に「瞬殺怪談」「怪談四十九夜」「てのひら怪談」「恐怖通信 鳥肌ゾーン」各シリーズ、『京都怪談 神隠し』『怪しき我が家』『怪談実話 FKB饗宴』『読書で離婚を考えた』など。

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