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『黄泉つなぎ百物語』実話怪談界を代表する49名が競筆!究極の百物語

「もっと怖い譚(はなし)はあるか?」
「ならこれはどうだ」

実話怪談の名手49名が恐怖の頂を求めて紡ぐ怪の数珠。
各々が持ち寄った「最恐話」でとこしえの闇を織る実話百物語!

ぱっと開けば、そこは奈落。
一分で読める空恐ろしい話、不思議な話が九十九話。
明けない夜はどこまでも深い闇に落ちていく……

内容・あらすじ

・第1夜「山にて」黒木あるじ
ひとり分け入った山中。夜、焚き火をしていると炎の中に知らない男の顔が…
・第3夜「暗がりに浮かぶ」夜馬裕
母屋から離れた便所に浮かぶ男女の首。祖父母は死んだお前の両親だと言うが…
・第84夜「十分間」営業のK
一族の中でただ一人霊感のなかった男は、購入した中古住宅で初めて恐怖を知る…
・第96話「闇夜に跳ねる」郷内心瞳
深夜、農免道路から臨む田んぼの中でぼんぼん飛び跳ね続ける発光物体の正体は…
・第99話「朝がくる」平山夢明
寂れた山小屋で霊の調査をしていた若者たちを襲った戦慄の恐怖とは…

…ほか全99話収録。

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前口上

月の無い夜、怪しき譚を好む輩が「百物語に興じよう」と荒れ寺の本堂へ集まった。
 辺りはいちめんの闇。蝋燭の揺らぐ灯。
 ヒトではないものも混じっているかもしれないな──誰かがそう嘯いた刹那、ひとりの男が「では、私の譚から」と口を開いた。
 こうして──長い長い夜がはじまった。

試し読み1話

第1夜 「山にて」黒木あるじ

「若いころの話だよ」と前置きして、山形の老人がこんな出来事を教えてくれた。
 ある日、半ば思いつきで裏山へ足を向けたのだ──と彼は云う。
 日常からつかのま逃げだしたのか、独りで考える時間がほしかったのか。あるいは山に呼ばれ、なんとなく赴いたのか──理由については教えてくれなかったが、ともあれ彼は山へ入って枯れ枝をのろのろと集め、日が暮れるころに薪で火を起こし、暗がりのなか、じっと炎の前に座っていたのだそうだ。
 と、ぼんやり紅蓮を眺めているうち、ぱちぱち爆ぜる火中に妙なものが見えた。
 知らない男の顔が、一瞬だけあらわれては消える。何度も。何度も。
 男は、炎をまたいだ向こう側に這いつくばり、こちらを見上げるような姿勢であった。
 念のため確認したものの、もちろん自分のほかに人など居るはずもない。
 怖い──とは思わなかった。
 なにせ山なのだから、おまけに夜なのだから、こういうことも珍しくないのだろう。
 思うに自分は、妙なものを「見たような気」になっているだけなのだろう。
 男性はおのれをそのように納得させ、ごろりと横になった。
 翌朝、目を覚ました彼は下山の支度をはじめる。とはいえ荷物などほとんどないから、山火事など起きぬよう焚き火の跡をていねいに踏み消すだけである。
 ふいに──ぱき、と妙な感触が靴底に伝わった。
 首を傾げつつ焚き火跡を見てみれば、消し炭のなかに焦げた小動物の骨が混じっている。それも一匹や二匹ではない。ざっくり勘定しただけでも、ゆうに二十はくだらなかった。
 もしや、昨夜燃やしていたのは枯れ枝ではなく獣の骸だったのか。しかし何故、自分はそれに気づかなかったのか。無数の骨と昨日の男には繋がりがあるのか──なにもわからぬまま、男は山を下りた。
 帰ると、飼い犬が急死していた。家族によれば前の晩、なにかに怯えていたかと思うや、突然息絶えたのだという。
 愛犬は庭の隅に埋葬した。そこは、いまでも草が生えない。

(了)

🎬人気怪談師が収録話を朗読!

全著者名・五十音順

ぁみ・我妻俊樹・雨宮淳司・伊計翼・

壱夜・牛抱せん夏・営業のK・緒方あきら・

小田イ輔・籠三蔵・加藤一・神沼三平太・

川奈まり子・黒木あるじ・黒史郎・下駄華緒・

郷内心瞳・小原猛・糸柳寿昭・匠平・神薫・

朱雀門出・鈴木捧・住倉カオス・高田公太・

橘百花・つくね乱蔵・戸神重明・徳光正行・

内藤駆・鳴崎朝寝・ねこや堂・服部義史・

原田空・春南灯・久田樹生・菱井十拳・

響洋平・平山夢明・深澤夜・真白圭・

松村進吉・松本エムザ・丸山政也・三雲央・

夜馬裕・幽木武彦・吉田悠軌・渡部正和