【第5話】ソロキャンプ中に追いかけてきた異様なモノとは…【北海道の怖い話】by田辺青蛙
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【第5話】ソロキャンプ中に追いかけてきた異様なモノとは…【北海道の怖い話】by田辺青蛙

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『大阪怪談』『関西怪談』などを著した田辺青蛙が、北海道のご当地怪談を書きおろす実話怪談連載、第5話!

第5話 びちゃびちゃのちゃんちゃんこ

 江別えべつで家具職人をしている、松谷さんから聞いた話。

「親父の趣味がたき火だったんです。小さいころ山やら川の傍に行くと、かならずたき火でね。火を見ると心が落ち着くでしょ。夜の闇も寒い冬も、夏の最中に川から上がった時も、たき火があるだけで特別な感じがしたんです。
 そんな親父の影響でね、俺も週末になるたびにキャンプ場でたき火をやりに行ってますよ。最近はあちこち消防法とかがうるさくって自由にたき火出来ないからね、たき火の為だけにキャンプ場に行ってるような状態ですよ。
 たき火台も家に何台もあって、家族にはそんなにあってどうすんだって呆れられています。
 でもですねえ、軽さとか燃え広がり方も違うし、上に物を置けるタイプとか色々とあってつい買ってしまうんです。ほら普通にキャンプ場で牛乳飲んでも何とも思わないけど、ちょっとたき火台の上にチタンマグを置いて温めて蜂蜜でも垂らして飲んだら、ほら、何かいいじゃないですか? そう思いません?
 クッカーキャンプケトルで淹れた外で飲むコーヒーも美味いですよ。
 あれはまだこっちに来て二年目くらいの冬に、一人バイクでキャンプ道具積んであちこち気ままに走ってたんです。
 ちゃんとスノータイヤで後輪にチェーン巻いて走っていたんだけど、油断しちゃってね、途中雪道で大転倒しちゃって……あれは後続車がいたら今頃死んでただろうなあ。
 まだ日が高かったんだけど、打ち身の痛みもあったしなんだか転んだことでケチがついた気がして、近くに空き地があったからそこにテント張って休むことにしたんです。
 時効だろうから言っちゃいますが、そこでたき火台を置いてね、たき火を楽しんだんです。
 直火じゃないんで地面には焦げ跡一つ残さなかったけれど、やっぱりあの場所でたき火していいかどうか分かんない所でしちゃったのが未だに気になってて。
 したたかに打ち付けてしまった体を摩りながら、火を見てちょっとリュックに入ってるソーセージでも炙ろうかなって思って荷物をいじってたら、少し離れた場所にジャングルジムがあるのに気が付いたんです。
 緑と黄色のげた塗装のジャングルジムで、他の遊具は見当たらなかったですね。
 あれ? この辺り児童公園なのかな? 民家も全く見えない場所だけど、近くに観光牧場でもあるのかなって思いながら他は白や黒や灰色ばっかの風景だったから妙にそのジャングルジムだけが目立っていて、気になったもんだからしばらくの間、なんとなくそれを見てたんです。
 で、リュックからソーセージを取り出してたき火台にかざしながら、再びジャングルジムの方に目を向けたら、濡れた赤茶げた色のちゃんちゃんこがジャングルジムに干してあったんです。
 近くに誰か来て干して行ったのかな? このたき火のこと文句言われちゃうかなって思ってまた火を眺めながら体痛ぇなんて独り言を時々いいながら昼食を取ったんです。
 食後用に持って来た缶コーヒーのプルタブを開けてマグに注いで、火で温めていたら急にぶわっとドライヤーから吹くような冬とは思えない熱風を頬に感じて、ん?って周りをキョロキョロ見まわしたら、さっきジャングルジムにかけていたちゃんちゃんこが、私のいる場所から二メートル程離れた所に落ちていたんです。さっきの風にあおられて飛んだのかな? 元の場所にかけなおしてあげようかなって思って、ちゃんちゃんこを拾い上げてみたらびちゃびちゃに濡れていて、ずっしりと重たいんです。
 だから風で煽られて飛んできたわけじゃないって分かって、でも周りの雪の上には足跡なんて私の以外に一つも付いてなかったんです。
 だから、なんか怖くなってしまってね。
 そのまま手に持っていたびちゃびちゃにに濡れたちゃんちゃんこをその場に置いたんです。
 たき火台近くまで戻ってから後ろを振り返ってみると、雪の上のちゃんちゃんこはそのままで、よく見ると胸の辺りに白い糸で大きく名前の刺繍ししゅうがされていました。
 子供が書いた文字みたいな下手な刺繍でね、見ているうちになんか記憶に引っかかるものを感じたんです。
 どこかで見覚えのある名前だな、誰だろうってしばらく考えていたら一人思い当たる人がいたんです。
 それは過去に、山の遭難で亡くなった親戚と同じ名前だったんですよ。
 でも、偶然だろうと思って、ちゃちゃっと荷造りしてたき火の始末をしっかりしてからバイクにまたがったんです。
 エンジンを吹かして、後ろを振り返ってみたらさっきのちゃんちゃんこ……が消えてて、そこに無かったんです。
 嫌な気持ちに段々なってきたから、早くその場を離れたくなってね、再び転ばないように注意しながら運転していたら急に目の前にね、大の字にちゃんちゃんこが道の真ん中に広げられていたんです。
 避けたら事故りそうな嫌な場所で広げられていてね、さっき見たのと同じ刺繍の白い文字までハッキリ見えて……どうしようかなって一瞬迷ったけどそのままバイクで上を通ったんです。
 そしたら、ちゃんちゃんこがね「うぎぃわぁああうあああうあああ!」って叫んだんです。
 驚いたけど、ハンドル切り損ねずになんとか運転して、自分の頭がおかしくなったんじゃないか?とか何か幻覚剤を知らないうちに吸ってしまったりしたんだろうかとか色々と考えながら走り続けたんです。
 かなり動揺していたんでしょうね、家の場所とは反対の方向に進んでしまっていて夕方近くになって、あ!俺どこ進んでるんだって思って止まったんです。
 その日は、もうバイクに乗るのが嫌になってね、近くの駅まで仕方なく押して携帯電話から車両輸送を頼んだんですよ。

 で、家に帰ってあれは何だったんだろうと考えていた時に、警察署から電話が掛かって来たんです。
 それが、ちゃんちゃんこに刺繍されていた名前の亡くなった親戚の遺品が山で見つかったって連絡だったんです。なんでうちにって思っていたら、ボロボロのリュックの中に身分証明書とうちの連絡先のメモが入っていたからって聞いたんです。で、警察署に親戚と一緒に行ったら遺品が机の上に広げられていてね、そこに色褪せたハンカチがあって、それがあの時に見たちゃんちゃんこと柄が全く同じ布だったんです。
 そのハンカチ、何故かその親戚の名前じゃなくって俺の名前が刺繍されていたんですよ。
 お前の名前が書いてあるから、お前にあげるつもりだったんじゃないかって親戚に言われたけれど受け取れなかったですね。だって、何か不気味だしツーリング中のちゃんちゃんこと同じ柄なのも偶然じゃない気がして、嫌だったんですよ。受け取ったら何か俺の身に起こるんじゃないかって予感もあったし。
 そもそも、親戚っていっても特に親しい間柄じゃなかったですし……。
 今もバイク乗ってるとね、たまにあのちゃんちゃんこがどっかに居ないかってつい確かめてしまうんですよ。あの時以来見てはいないんですけどね。」

―了―

第4話 幽霊の銅像  |  第6話 割られた栗▶     

著者紹介

田辺青蛙 (たなべ・せいあ)

『生き屏風』で日本ホラー小説大賞短編賞を受賞。著書に『大阪怪談』『関西怪談』『魂追い』『皐月鬼』『あめだま 青蛙モノノケ語り』『モルテンおいしいです^q^』『人魚の石』など。共著に「瞬殺怪談」「怪談四十九夜」「てのひら怪談」「恐怖通信 鳥肌ゾーン」各シリーズ、『京都怪談 神隠し』『怪しき我が家』『怪談実話 FKB饗宴』『読書で離婚を考えた』など。

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