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『LANDMARK』山地まりetc.-磯部昭子(2018)|グラビア写真の考察

『サイゾー』の表紙

『LANDMARK』は磯部昭子(※)が2016年から2017年にかけて月刊誌『サイゾー』の表紙と巻頭グラビアをつとめていた時期の写真を集めた作品である。被写体は、山地まり(※)、今野杏南、平嶋夏海、長澤茉里奈、筧美和子ら。全員グラビアアイドル、もしくはグラビアアイドルだった者たちだ。『サイゾー』の表紙と言えば、かつてのジャージ姿に身を包んだ女性タレントのシリーズを記憶している諸兄もおられるだろうが、近年は磯部の他、大辻隆広、神藤剛など広告、ファッションの分野を中心に活動している写真家がフィーチャーされている。他週刊誌においては、いわゆる「グラビアカメラマン」による仕事が多い中、グラビア“外”の写真家によるグラビア写真を撮影をおこなう『サイゾー』の試みは、『月刊シリーズ』(※)や『ちんかめ』(※)などのアプローチに近いとも言えるだろう。

さて、『LANDMARK』、ないし磯部が表紙撮影をおこなっていた時期の『サイゾー』の表紙、巻頭グラビアは、非常にポップな世界に彩られている。スタジオの中に用意された大量の小道具と、原色のカラーホリゾントの背景、デコラティブなヘアメイクを施されたモデルの写真は時にコピーアンドペーストされ、複数人になったり、撮影したものを印刷し、スティルライフ化して再度撮影をおこなっていたり、非常に手の込んだ作りになっている。

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『LANDMARK』の特徴

平嶋夏海の回を見てみよう。徹底したローアングルの撮影でハムストリングとふくらはぎの湾曲、臀部の膨らみが否が応でも目に飛び込んでくるが、そこにはいやらしさは伴わない。普段見ないアングルから見える脚の湾曲は、単なるカタチとして認識される。本郷杏奈の回では、ビニールのような素材のスカートを履き屈み込んだ尻の上に赤いゼリーを乗せており、それはまるでダイナーのオシャレなテーブルのようである。

ページをめくっていくと気づくことが、本作は全編を通して「アメリカと日本の意匠」が綯い交ぜになっているということだ。モデルの衣装と小道具は強烈に1950年代のアメリカ的であり、コルセット風なものや、ポルカドット柄、フリンジにビニール素材にピンヒール。キャットアイ(※)のメイクやリーゼントヘア、ダイヤルフォンや優勝トロフィー……。そこに唐突に日本の意匠が突発的に混ざっている。木彫りの熊の置物に、ママチャリ。ただし、ポップさを奪っているわけでなく、その違和感が楽しい。

『LANDMARK』ではグラビアアイドルの大きな胸も、尻も、ゼリーも、木彫りの熊の置物も等価なモノへ変換している。グラビアアイドルたちは一点を見つめており、その瞳を追っても感情を追うことはできない。

金魚の復讐

磯部の作る過剰にポップな作品を考えるときに、参照したいのがアメリカの写真家、サンディ・スコグランド(※)だ。その作風は何ヶ月もかけて精緻なセットを作り、ワントーンで統一した環境にシュールなプロップを配置し、生活感の無い世界を作り上げるという異様なほどの集中力と、執念に下支えされたものだ。そんな彼女が1981年に発表した写真集『金魚の復讐』はインスパイラル・カーペッツ(※)のCDジャケットとなり、広く知られるきっかけとなった。その作品には、単色に塗られたキツネや猫、リスといった動物や植物が多数登場する。それに対し、小さく写る人間は周囲に気づいているのか気づいていないのか、現実と虚構の狭間で、黙々と日常生活を送っている。

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スイミングプール

『LANDMARK』の人も小道具もすべてをフラット撮影する姿勢は、スロヴァキアの作家、マリア・シュヴァルボヴァー(※)との共通点を見出すこともできる。スロバキアの作家である彼女は、公営プールでの撮影にこだわり続ける。シンメトリーに並んだ古風な女性たちの姿は、まさに「モノ」であり、さらに言えば模様のようでさえある。被写体の個性は極限にまで削ぎ落とされ、観葉植物やハシゴと同じくそれは単なるオブジェクトになっている。2014年頃から、公共空間に興味を持ち始めた彼女は、地元の、社会主義体制時代に建てられた築80年を超える公営プールで撮影を始めた。それは古い建物が残るスロヴァキアでも、自由や永遠を感じる場所だったからだと言う。

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アクリル細工のように

磯部は自身のInstagramにて頻繁に、私物のアクリル細工のおもちゃの写真をアップロードしている。ゼリーのようにカラフルなアクリル細工はラメや小さな気泡とともに凝固され、光にかざせばその度に違う反射を持って半永久的な美しさをとどめ続ける。

『LANDMARK』のモデルである、グラビアアイドル、もしくは元グラビアアイドル。彼女たちは週刊誌の最初のほうか、真ん中か、最後のほうを主戦場にし、一週間後にはまた違う女の子にとって変わられる存在である。わずか数日間、コンビニを通り過ぎる人々のために満面な笑みを浮かべ、やがて廃棄されていく、消費社会の化身のような抑圧された存在である。そんな彼女たちが『LANDMARK』の中では感情無く、時が止まったかのようにポーズを取り続けている。それはまるでアクリル細工に凝固された美しい世界のようだと言ったらキザすぎるだろうか。

<了>

脚注

※磯部昭子|武蔵野美術大学造形学部映像学科在学中より創作活動を始め、広告やCDジャケットなどの分野で活動。おもな展覧会に『Dummy』(G/P gallery)、『集美X アルル国際写真フェスティバル Tokyo Woman New Real New Fiction』などがある。

※山地まり|グラビアアイドル。1994年生。『週刊プレイボーイ』巻頭グラビア「素人女子高生」でデビュー。2018年夏以降、芸能活動をおこなっていない模様。

※月刊シリーズ|新潮社で発行されていたグラビア写真シリーズ。『月刊◯◯』(○○はタレント名)というタイトルで発売していた。タレントは、永作博美、平子理沙、奥菜恵ら。真家は平間至、藤代冥砂、蜷川実花、新津保建秀、半沢健、新田圭一、沢渡朔らが参加。

※ちんかめ|宝島社の男性向けファッション雑誌「smart」内で1997年より連載されていた写真企画。写真家の内藤啓介によって作られた「おしゃれなグラビア」というコンセプトはのちの『Samurai ELO』、『妄撮』などに引き継がれていった。

※キャットアイ|目頭に向かってアイラインを跳ね上げたアイメイク。クレオパトラが始祖とされる。1950年代にオードリー・ヘップバーンが好んだとされ、『麗しのサブリナ』等の映画でその様子を見てとることができる。

※サンディ・スコグランド|写真家。1946年、マサチューセッツ州生まれ。ミス・カレッジで美術史とスタジオアートを学び、1967年にはパリに留学してソルボンヌ大学でも学んだ。幼いころポリオを患い、いまも左腕に軽い障害が残り、『金魚の復讐』の発表の際には母の死がインスピレーションの源泉にあったと語っている。

※インスパイラル・カーペッツ|ハッピー・マンデーズやザ・ストーン・ローゼズと並び、80年代末から90年代初頭のマンチェスター・シーンを代表するバンド。ノエル・ギャラガー(オアシス)が一時期、ローディーとして働いていたことも知られている。

※マリア・シュヴァルボヴァー|写真家。1988年生まれ。大学で文化財修復と考古学を学んだ後、写真表現をおこなうようになった。2018年には初写真集『Swimming Pool』が刊行された。Instagramも人気でフォロワー数は30万人を超えている。

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ライター。1988年生。グラビア写真に関する考察。『サイゾー』等に寄稿。

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