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家族の写真

家族の写真というのは離れられないテーマだ。深くそして自身の人生にも関わるからこそなかなか収拾がつかない。そして書くことに二の足を踏むのだけれど、youtubeで観た番組から、勢いで少し書いていきたいと思う。



トモ・コスガさんの「写真集を読む」。深夜、自分の作品を作りつつBGM代わりに聴き始めたが面白かった。

深瀬はパリで知った。一時写真を教えていたフランス人の女性がカラスの写真集を持っていて、こんな写真集があると教えてくれたことがきっかけだった。それくらい私にとっては接点のない写真家であり、どこかしらアンタッチャブルな存在だった。この再刊行された「家族」という写真集も、パリフォト期間中にいろいろ読む機会はあったが、このyoutube番組がなかったら心に響くのはまた先のことになっていただろう。

家族写真。そこに入る遺影。私も初めて写真を展示する経験をしたグループ展。多摩美の写真部の渋谷ルデコでの展示だから確か2006年か07年。本当に初めての展示という機会で祖父の遺影を持った自身のセルフポートレイトを出したなと思い出す。なぜそうしたのかは全く覚えていないが、それが自身にとって一番「発表に値するもの」だったのは確かだった。


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そんな私にとって、「家族」という言葉で私がまず連想する作品は実は写真ではない。私がまず思い至るのは、エゴンシーレの「家族」という作品。これはエゴンシーレの紛れもない家族の肖像だ。しかしここに描かれているのは存在しなかった家族。何故なら、真ん中に描かれた妻エディットはシーレとの子を妊娠中、病にかかり出産することなく亡くなってしまったからだ。

「重なり合う」が「触れることはない」それぞれの身体。決して悲観的ではないが父、母、子の交わらない視点。彼らはもちろんこの世界にいた。しかし、存在し得なかった交わりが絵画の中で再構成され、この存在得なかった家族のポートレイトは永遠を獲得していく。初めてこの作品を観たのは2008年くらい。学生時代の貧乏旅でヴェルヴェデーレ宮殿を訪れ、この作品を見た時の衝撃が後に触れる私自身の家族写真から生まれた作品にいくらかは影響を与えている。

存在しない家族にビジュアルを与える。これは深瀬の家族写真シリーズに底通する。登場人物の配置を変えたり、家族とは関係のない人を配置するのはまさにそこだ。しかし、深瀬の場合はそのフェイクが時間軸を持った連続した流れで家族の変化、衰退、消滅というファクトに連続しているところであり、そこは写真表現だからこそできる領域だと思う。


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私にとっても家族写真は一生離れ難いものだ。私の場合は祖父がそのキーワードになっている。写真集「空に泳ぐ」に入る一枚。この写真は私の家族のポートレイト。写っているのは祖父、祖母、父、二人の兄だ。この時、私はこの写真を写しているであろう母の腹のなかにいたはずだ。

祖父の顔に光が透るのは、彼が呉の駅のプラットフォームから観た原爆のオマージュであり、また彼の存在を「想像する存在」にすることで、私の家族でありながら他者の家族にもなりうるもの(卑近な例を出せば観光地にある顔ハメ看板のようなもの)にしたかったからだ。

右に映る祖母も亡くなり、光が透っている二人と現実がリンクしているが、写真が変わらない一方で現実の家族は日々変わっていっている。そのことをいずれは反映させる日が来るのだと思う。

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現在私はプリントされた紙にカッターで切れ込みを入れる作品を作っているが、祖父はそこでもメインの登場人物だ。彼を作品化することで、ある意味もう世界に殆ど覚えている人がいない「長尾義信」という人物に永遠とは行かないまでももう少し長い命を設定したい。孫としてはそんなことも思いながらカッターで切れ込みを入れている。


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最後にもう一枚だけ紹介しておこう。先のスリットの作品とこれは2作目の写真集「指と星」に収めたものだ。これは父と母の新婚旅行の写真。右に映る母の服装から時代が感じられる。左には父が写っているのだが、スリット(切れ込み)の反射がその姿をほぼ見えなくしている。

反射がまるで波のようでもあり、水の中に沈む彼らの姿を垣間見るような、そんな感覚を味わう。新婚旅行の写真は「家族写真」のはじまりのものと言って良いのだろう。そこに当時存在しなかった私が入れるスリットが光を介して存在し、新たな世界を作っていく。この写真に映るのは、父と母だけだけではない。スリットを通して私も入り、現実と想像と光の中で新しい家族写真を出現させていく。


今回取り上げた深瀬昌久の新装版「家族」はこちらで購入可能。

写真集「空に泳ぐ」と「指と星」は出版社であるLibroArteさんで購入いただけます。



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