見出し画像

麻雀放浪記2020

麻雀放浪記2020
1984年にも映画化された阿佐田哲也原作小説を大きくアレンジしての再映画化。
1945年の戦後日本で博打打ちとして生計を立てていた坊や哲(斎藤工)は、その役で上がると死ぬと言われている“九蓮宝燈”を揃えた直後、落雷に打たれ2020年の日本にタイムスリップしてしまう。
戦争によって東京オリンピックが中止となり、人口減少・マイナンバーによる過剰な管理社会・AI導入による労働環境破壊など様々な問題を抱えながらも、空前の麻雀ブームを迎えていた日本。
アイドル雀士・ドテ子(もも)や芸能事務社長のクソ丸(竹中直人)との出会いを経て、元の時代へ帰る術を模索していく坊や哲。
ふんどし姿の“昭和哲”としてブレイクしていく中、麻雀五輪世界大会に挑むことになるのだが…。
昭和からやってきた坊や哲の死闘を通し、進化の一途を辿り続ける世の中に警鐘を鳴らす作品です。

タイムスリップものとしての面白さ、俳優・斎藤工の存在感や魅力、麻雀という他では類を見ない題材、奇想天外なぶっ飛びストーリー、それだけでも十分楽しめるのだが、本作はそこで終わらない。
様々な想いが、今を生きるあなたやぼく達へのメッセージが、ギュウギュウに詰め込まれた作品であった。

ネット・スマホ・家電・フレキシブルな業務体系etc…、時代の進歩と共に、ありとあらゆることが便利且つ効率的になっていく。
人によっては外へ出ずとも満足いくだけの稼ぎを得られるし、不特定多数の他者とは関わらず、関わりたい人達とだけ関わる生活を謳歌することも可能だろう。
縁も所縁もない他人を平気で切り捨て、ついてこられない者は問答無用で排除。そんな世の中へと加速度を増して変容しつつある今日。
AIに社会を乗っ取られたら困るが、『ターミネーター』のような未来だって呼び込みかねない所にまで差し迫って来ていると思う。

もちろん技術の発展や進歩は、より良き未来や可能性だって作り出す。
昔では治せなかった病気を容易く治せるようになることで減らせる涙もあるし、義手義足義眼だったりの技術が向上していくことに反対する人なんて絶対いない。
ただ、どれだけ技術が発展していったところで、それを扱う人間の在り方までは変わらない。
DNAレベルでの変革が訪れない限り、人の心がより高い次元へと到達することは叶わない。
人間はどこまでいっても人間で、美しさも醜さも持ち合わせ、正しいことも誤ったこともしてしまう不完全な生き物のままである。

劇中世界は虚構の2020年でありつつも、空虚であるとまでは思えない。
ぼくらが生きる「今」の延長線上にあり得る一つの可能性に感じられ、息苦しいか息苦しくないかで言えば息苦しい。
そんな折、スマホもネットも炎上騒ぎも無縁の昭和の博打打ちが現れる。
そんな彼の存在こそ、今この時代において失われつつあるモノの集積体であった。

地方在住・出身の人なら分かると思うが、年々家やコンビニが増えていく一方で、畑や田んぼが減っている。
跡継ぎがいないから、人の手を使わずとも機械で効率良く品質の高いものを作れるシステムが確立されているから、それはそれで仕方がない。
だが、伝統工芸の類いはどうだろう。
跡継ぎが、継承者がいなければ完全に潰えてしまう。
他の何かで代用は効かず、一子相伝の知恵や技術は跡形もなく消え去ってしまう。
無くなったところで人は変わらず生きていけるが、文化や歴史を重んじる心であったり、目に見えぬモノに価値を抱く感覚は薄れていく。
その果てに潰えてしまうモノとは一体何だろう。
決して型には当てはめられず、データや機械などでは再現できないアナログで唯一無二のもの。
そう、人の心や善意である。

撮影機器の性能だって飛躍的に上昇してきている今この時代に、あえての全編iPhone撮影なのもそう。
ピエール瀧さんの事件がありながらも公開へと至った英断もそう。
普通のSEXでは満足できないドテ子の姿を描いていたのもそう。
効率や正確性や規律に囚われがちな現代において、麻雀におけるイカサマの技術を、その価値を描いていたのもそう。
不便で煩わしくて融通が利かなくて、時に理屈や論理すら跳ね除けてしまう人の想い。
それらを疎かにしてはならないことを、自身や他者を思い遣る気持ちがあってこそより良き未来を切り拓いていけるのだということを、この作品は示していた。

便利さを追い求めたり、より良きものを生み出そうとする探究心は、絶対に止められない。
そんな中で何に重きを置いてやっていくのか。
流行や周囲の空気を読むことも大事だけど、非効率であったり馴れ合いと化してしまうのも良くないけど、効率を重視しただけでは築けない信頼関係を、多くの失敗や後悔を糧にしてこそ歩みを進められる人の在り方を、人の心に重きを置いていてこそ訪れる明るい未来を、昭和からやってきた粋な漢・坊や哲が教えてくれる。

令和を迎えようとしている今この現代に、ぼく達日本人に、強烈な喝を入れてくれる作品です。
ぜひ劇場でご覧ください

青春★★★
恋 ★★
エロ★
サスペンス★★★
ファンタジー★★★
総合評価:B

#麻雀放浪記2020 #麻雀放浪記
#斎藤工 #もも #チャランポランタン #ベッキー #的場浩司 #岡崎体育 #ピエール瀧 #竹中直人 #小松政夫 #堀内正美 #音尾琢真 #村杉蝉之介 #伊武雅刀 #矢島健一 #吉澤健 #ヴァニラ
#白石和彌

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

3
WOWOWシネピック連載、映画boardにて記事執筆。映画サイトへの寄稿・ラジオ・web番組・イベントなどに出演。『GO』『ファイト・クラブ』『男はつらいよ』とウディ・アレン作品がバイブル。お仕事の依頼はこちらまでa.safety.pin.storm@gmail.com

この記事が入っているマガジン

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。