【過去問】 子の調理師学費と妻のピアノ演奏料
1.問題
2.出題趣旨
3.採点実感等
4.解答例
設問1⑴について
1.まず、CがAから受け取った学資金名目の金員(以下「本件学資金」という)の所得区分を検討する。
この点、Cは、毎日夕方の開店から閉店までの間、Aの調理を手伝っており、その労務の対価として給与を受け取っている。つまり、AとCとの間には、雇用契約が成立しており、その対価として給与所得(所得税法28条1項)を受け取っている。
そして、本件学資金は、調理を手伝っているCに資格を取得させて、Aの飲食店で調理師として働いてもらうためのものである。また、Cは受け取った金員を調理師学校の授業料に充てている。
したがって、前述の雇用契約に係る労務の対価に関連した給付として、給与所得に区分されるべきである。
2.ところで、学資に充てるため給付される金員は、非課税とされている(同法9条1項15号)。本件学資金は、通常の給与に加算してAからCに給付されているため、同号ハとニにあたり、非課税とならないか問題となる。
まず、AとCとが生計を一にしているため同号ハには該当しない(同号ハのかっこ書き)。また、同様に、AとCは生計を一にする親族であるから同号ニにも該当しない(同号ニのふたつめのかっこ書き)。
さらに、本件学資金は、AのCに対する扶養義務の履行として給付されるものではないと考える(同号柱書後段)。
したがって、本件学資金は同号により非課税とならない。
3.Aは飲食店事業について青色申告をしている。そして、Cは、毎日夕方の開店から閉店までの間、Aのために調理の手伝いをしており、「専ら」Aの飲食店事業に従事している。したがって、Aが同法57条2項の要件を満たしているときは、Cは青色事業専従者にあたり、本件学資金は、Cの給与所得として課税上取り扱われる(同法57条1項)。
また、本件学費金の支払いは客観的に、Aの飲食店事業に直接関連し、かつ、その業務遂行上必要である(同法37条1項後段、ロータリークラブ会費事件判決参照)。このため、本件学資金はAの事業所得の必要経費(同法27条2項)として控除することができる。
設問1⑵について
1.Bは、ピアノの演奏と教授を業としている。問題文からは、その具体的態様は明らかではないが、Bの計算と危険において営利を目的として継続的に行う経済活動であると考える。このため、BがAから受け取った演奏料は、Bの事業所得(同法27条1項)に区分される。
2.そして、AからBへの支払は、週末等時間に余裕があるときにAの飲食店での演奏の対価であり、Aの飲食店事業の「対価」(同法56条)にあたるものと考える。
この点、生計を一にするAは飲食店事業、Bはピアノ演奏等事業と別々の事業を営んでおり、その場合、同条は適用されないとの考え方もあるが、法文上、除外されておらず、そのような場合も適用されると考える(弁護士夫婦事件判決)。
3.このため、AのBへの演奏料の支払は、客観的に、飲食店事業に直接関連し、かつ、その業務遂行上必要と認められ、必要経費(同法37条1項)にあたるが、Aの事業所得の計算上、必要経費として控除できない(同法56条1文)。また、Bが受け取った演奏料は、Bのピアノ演奏等事業の所得計算上、なかったものとみなされる(同条2文)。
5.ケースブック租税法〔第6版〕との関係
設問1⑴については、「§234.02 所得税法56条の適用範囲」の「2.所得税法56条、57条の適用関係」(ケースブック租税法〔第6版〕310頁)における具体例の検討をもとに、検討を加えた。初見では、非課税所得の検討を丸々と落としてしまった。反省すべきところである。また、所得税法57条にふれるとき、原則を定めた56条とその趣旨に触れた方がよいように感じたが、どのように触れるべきか定まらなかった。今後、検討のうえ、修正したい。
設問1⑵については、「§234.02 所得税法56条の適用範囲」の「1.事案の検討」において、弁護士夫婦事件判決のふたつのポイントを問われた際、回答した内容を踏まえて、記述した。それ以外は、前述した具体例の検討を通じて学んだことを踏まえた記述である。平成26年第1問の出題趣旨を読むと、弁護士夫婦事件判決については、反対説(56条適用否定説)を踏まえた記述が望ましいようにも思えるが、そこまで詳しく述べた文献をみつけることができなかったので、とりあえず、あっさりと書いてある。今後、検討のうえ、修正したい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?