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フリー朗読シナリオ『王たるペンギンはみそ煮込みうどんを所望する』

 朗読にご利用いただけるシナリオ『王たるペンギンはみそ煮込みうどんを所望する』を掲載します。よろしければ朗読にお使いください。

 ご利用のお願い事はシナリオのあとに記載しておりますので、ご覧ください。

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我(われ)は運命に選ばれた偉大なるペンギンである!
今より一族の王となり、皆に平和をもたらそう!
 
地面に刺さったつららを引き抜き、とてもかっこよく掲げた。
氷の大地に生まれし王の姿を見て「すごーい!」「かっこいいー!」と褒め称えるがよい。
 
わくわくしながら皆(みな)を見ると、全員海を眺め、くちばしをぱくぱくしていた。
誰も聞いてない……今からお昼ご飯を食べることしか考えていない。
おいそこ、よだれを拭くのだ!
 
やれやれ、先が思いやられる。
だが王として選ばれた以上、その責務を全(まっと)うしなければ……!
 
 
我(われ)が王たる資格を手に入れたのは、青天の霹靂(へきれき)だった。
地面でころころ転がって遊んでいたら、突然頭の中にたくさんの知識が流れ込んでくる。
それは人間の「王」と呼ばれた者の記憶。
人間の王は凛々(りり)しく勇敢で、仲間を大切にする。
 
どうして突然、人間の知識が降ってきたのか。
我はこう考える。
一族を守るため、神が我に与えた役割なのだと。
先頭に立ち、とても良くなった頭で、皆が安心して暮らせるようにする使命を授かったのだ。
 
だからご飯に負けても、くじけている場合じゃない。
王の務めを果たすのだ!
まずは統率力(とうそつりょく)を高めよう。
 
皆で輪になってお魚を食べているとき、我は十一匹の仲間たちそれぞれに名前を授けた。
名前があれば相手に愛着がわいて絆が深まる、そしていざというときに集団行動しやすい。
我らは誰かを犠牲にして生きるのではない、皆で協力して生きるのだ。
 
お昼ご飯を食べ終わったら、移動を始める。
さあ、我に続くがよい!
氷の上をよちよちしながら、我らいつもの場所へと向かった。
 
海からちょっとだけ離れた場所に、大きい箱みたいな家で暮らす人間の集団がいる。
 
我らが到着すると人間たちが出てきて、お魚をくれたり、一緒に遊んでくれるのだ。
だから食後の散歩がてら、みんなでここに来る。
今日も出てきたのはいつも見る人間に……新しい顔もいるな。
 
タイチョーと呼ばれる者が、仲間に仕事の説明を始めた。
そこで我は気がつく。
人間の言葉が理解できる……きっと人間の知識を得たおかげだろう。
 
我はお魚を食べながら、新人への説明に耳をぴょんと立てる。
この地にやってきた目的は、生態系の調査や観測。
生命の歴史を守るため、政府を動かすための情報をなんとかかんとか……難しくてよく分からない。
 
複雑な話をぺらぺらとしゃべるタイチョーには、集団をまとめる役割があるらしい。
王としての威厳は感じないが、我と似ているな。
 
我はタイチョーに興味と親近感を覚え、遊びに来るといつもそばで様子を見ていた。
優しくて、責任感が強く、皆に慕われているのが分かる。
あとは常に、小さなしゃべる箱を持ち歩いている。
 
箱がしゃべっているのは『ラクゴ』というものらしい。
タイチョーはラクゴをよく聴いていて、物まねするみたいに話すこともある。
 
そのなかでひとつ、興味深い話題があった。
タイチョーの故郷にある『みそ煮込みうどん』なる食べ物の話だ。
見た目の想像できないのだが……タイチョーはまるで目の前にあるかのように食べる真似をする。
 
ほふほふ、ずるずると旨そうな音を立て、もにもにと口を動かし、ごっくんした後にみせる満足そうな顔と言ったら……。
気づけば我の口の中は、よだれでじゅるじゅるだった。
 
食べてみたい……。
おい! 我はみそ煮込みうどんを所望(しょもう)する! 食べさせろ!
 
要求を込めてタイチョーの太ももをぺちぺちする。
ちがう! 頭をなでなでするな!
王に向かってその態度、不敬(ふけい)であるぞ!
 
 
話を聞いてから数日、我の頭はみそ煮込みうどんでいっぱいだ。
人間の言葉が分からない仲間たちは、もらったお魚に満足し、人間の住み家の近くでお昼寝を始めた。
我だけがじたばたしている。
 
タイチョーの故郷に連れて行ってほしい……しかし我には一族を守る使命がある……でも食べたい……ああ食べたいよぅ!
 
地面をばんばんしていたら風と雪が強くなり、あっという間に視界を遮(さえぎる)る吹雪になった。
駄々をこねていても、食えぬものは食えぬか……我も寝よう……。
 
大きなあくびをしたところで、人間たちが住み家から出てきた。
何か慌てているようだ。
我は何食わぬ顔で近づいて話を聞いた。
 
なになに……タイチョーが戻ってこない……このブリザードじゃ探すのも無理……。
 
なるほど。
人間に我らペンギンの優れた方向感覚は備わっていない、ということか。
そもそも群れを離れて一人で動くなど無謀(むぼう)すぎる。
タイチョーには気の毒だが、諦めるしかない。
 
……いや待つのだ!
みそ煮込みうどんを食べるという野望が潰(つい)えてしまう!
 
我は仲間に声をかけ、全員でタイチョーを探すことにした。
眠いとか面倒とか口にする者もいたが「いつもお魚をくれる人間がいなくなってもいいのか?」と質問したら素直に動き始めた。
お主らは食べ物のことしか頭にないのか……?
 
 
タイチョーを探してどれくらい経ったか。
吹雪は強くなる一方だ。
地理に優れた我々と言えどこの悪天候、目で見て探すのは難しい。
 
せめて何か手がかりがあれば……ん?
何か聞こえるな……これは……ラクゴ? 
 
耳をそばだて辺りを探すと、岩陰に座り込むタイチョーの姿を見つけた。
全身が雪に覆われて、地面と一体化しつつある。
手にはしゃべる箱が握られていた。
 
まったく、こんなところでお昼寝していたのか。
みなが心配しておるぞ。
ほら立て! 起きろ! 起きろ起きろおきろーっ!!
 
全力のぺちぺちがまるで効かない……どうしよう。
近くに吹雪をしのげる場所はないし、人間の住み家まで引っ張っていくか……いや、全員で力を合わせても無理だ。
 
我々は小さくて非力な一族。
あらゆる脅威に仲間たちが命を落とし、とうとう最後の十二匹となったのだ。
もっと強さがあれば、……今は己の弱さを嘆いている場合じゃない。
 
この場から動かせないとなれば、できることはひとつ。
 
皆の者、タイチョーの身体にくっつけ! 吹雪から守るのだ!
 
我の号令を聞いた仲間たちが、タイチョーの身体に覆いかぶさっていく。
 
よし、その調子で……違う同じ場所じゃなくて……もっとまんべんなく……ええい、じれったい!
名前を呼ぶから我の指示通りに動け!
ランスロットは右手を、ガウェインとパーシヴァルは胴体にくっつけ!
 
うむ、これだけくっつけば多少は寒さも和らぐだろう。
皆よくやった! 我は今からタイチョーの仲間を呼んでくる。
それまで頼んだぞ!
 
 
吹雪の中、人間の住み家を目指す。
単独行動になるが、呼びに行けるのは我しかいない。
 
危険に飛び込み、活路を開くのが王たる者の運命(さだめ)。
ここで臆(おく)していては、仲間を導くことなどできぬ!
 
あの箱みたいな住み家……見えてきたぞ……あと少し……。
 
そのとき、目の前に灰色の影が立ちふさがった。
お、お前は……!
 
細長い体に大きな口、鋭い牙……我々の宿敵、アザラシだ。
我を見てぺろっと舌なめずり。
あれは夜ご飯を見る目だ。
 
普段は海でちゃぷちゃぷしているくせに、どうして陸に……今は理由などいい、問題は現状だ。
 
一騎打ちで勝てる相手ではない。
走って逃げるか……無理だ。
我はすぐ疲れちゃうから、足の遅いアザラシでも追い付かれてガブリ、だろう。
 
じわじわ近づいてくるアザラシ。
我は一歩、二歩と後ろに下がる。
 
打開の手段はない……普通のペンギンならば。
しかし我は神に選ばれし、とっても頭のいいペンギン!
武力の差は知恵で補う!
 
我は手に持っていた、しゃべる箱のスイッチを押した。
とたんに大きな声でラクゴが流れる。
突然の大声にビックリしたアザラシは、目を丸くして海に引き上げていった。
 
どうだ驚いたか! 
ふぅ……怖かった……。
 
 
危険を退(しりぞ)けた我は、なんとか人間の住み家までやってきた。
くちばしで扉を叩き、出てきた人間にしゃべる箱を見せる。
最後は身振り手振りで「こっちにいるからついてこい」と伝えるしかなかったが……いつもタイチョーのそばにいたおかげか、何かを感じてついてきてくれた。
 
吹雪が収まったことも幸いし、タイチョーは発見・保護された。
 
 
元気になったタイチョーは、我々の前に姿を現すと、いつもよりたくさんお魚をくれた。
そして礼を述べ、頭を下げる。
 
よいよい、面(おもて)を上げよタイチョー。
今回の件はみそ煮込みうどんで水に流そうじゃないか。
 
寛大(かんだい)な言葉をかけるも、タイチョーは我の頭をなでなでするだけ。
もーまったく何回言えば理解するのだー!
 
不敬な態度の後ろで小さな箱がしゃべっている。
今日はラクゴと違う声だ。
 
 
……つづいてのニュースです。
南方(なんぽう)大陸調査団の報告内容を受け、政府は特例として絶滅危惧種のミミナガペンギン十二頭の保護を決定しました。
 
通常は群れで行動し、リーダーを作らない生態と思われていたペンギンですが、この種は単独行動やリーダーと思われる個体が確認されています。
専門家の話によると非常に興味深い特性で、ペンギンの生態研究に大きな進展が期待できるとのことです。
 
なおペンギンたちは専門の研究機関へ移動後、手厚く保護されることが約束されています。

リーダーが存在する十二頭のペンギン、まるでアーサー王と円卓の騎士を思い浮かべますね。

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作者:竹乃子椎武
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