見出し画像

詩195 塩味の利いた思い出

お菓子の袋を開けて ぼくはひとつまみ
辻堂を過ぎれば 引地川ひきじがわ
人々が入れ違う階段の隅っこは 水たまりになっている

3年前の汗を 集めてぜんぶ飲み干せば
かいた恥もぜんぶ溶けて消えるらしい

塩味の利いた思い出を マスクの内側で噛み締めた

雨の雫がはじけ 窓の向こうに降り落ちるころは
人々も 階段の踊り場に傘の屋根を つくっていることでしょう


この世にふたつとないお菓子の味は
破いた袋の隙間から 湿気って いつか
塩味が薄れてゆく

橋を渡った引地川の上から
川面に浮かんで見えるぼくの汗

立ち止まって見せる 時の隙のうちに
人々は傘を閉じ
思い出を一気に呑み込んだ夕映え

ここから先は

0字

¥ 130

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?