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【歴史本の山を崩せ#013】『治安維持法』中澤俊輔

《「稀代の悪法」の歴史を読み直す》

戦前の言論統制の象徴。
「稀代の悪法」と名高いのが治安維持法です。
この法律を作ったのが護憲三派と呼ばれた政党内閣である加藤高明内閣。
普通選挙法を成立させた内閣がなぜ、同時に政党政治を自縛しかねない法律を作ったのか。

学校の授業では「アメ(普通選挙法)とムチ(治安維持法)」と説明されたかもしれません。
確かにそういった面もありますが、それだけで説明できるほど単純ではないのが歴史というものです。

立場の違う憲政会と政友会という政党勢力。
そして、こちらもスタンスを異とする司法省と内務省という省庁。
これらがひとつの政権に集中することなくしては生まれなかった、もしくは成立がもっと遅れた可能性もあった。
政治力学から見たとき、護憲三派内閣は治安維持法を誕生させ得る要素を備えた内閣でもあったということは目からウロコです。
憲政会、政友会、司法省、内務省というアクターの相互関係から成立背景を描き出す試みはユニークで面白いです。

この時期はソ連との国交樹立を控えていました。
天皇を頂点に戴く国体と私有財産を脅かしかねない共産主義思想の流入が懸念される社会背景もまた、治安維持法の成立を促した。
そのため成立当初、治安維持法が想定していた取締の対象はこうした共産主義者の結社でした。
ところが時代を経ると、その適応範囲は徐々に拡大されていき、反体制勢力を弾圧する「稀代の悪法」となっていく。

自由民主主義の立場から見れば紛うことなき悪法ですが、イメージばかりが先行して、具体的にどのような経緯で生まれ、どのような過程を経て膨張していったのかは、あまり知られていないのではないでしょうか。

『治安維持法』
著者:中澤俊輔
出版:中央公論新社(中公新書)
初版:2012年
定価:860円

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