矢田、俺はお前と話した15分後に美しくなったよって話。


2022年1月25日。

この日は毎月行っているスナックサークルラウンジクラブというライブだった。

俺、シティホテル3号室、そしてニコからネムレナイワニに改名し、このライブを期に「ギぎギ」というコンビ名に改名した3組と共に行っているライブである。


各コンビ新ネタを含むネタを3本ずつ行うライブで、ゲストを含めると計10本のネタ。そしてオープニングとエンディングは長めにトークといったライブである。

もう50回を超えただろうか。
全く人気のないライブである。いや本当に。

ライブ前、ギぎギの加納に「今日は何人来るのかねー」なんて言ったら
「4人は来るんじゃない?」と言って蓋を開けてみれば3人だった。

おいおい。電車は各線止まったのかい?
良くないけど慣れてしまった。


この日はヤダヤムクンという後輩の芸人がゲストで出演した。

元クルスパッチというコンビを組んでいて以前からライブの手伝いをしてくれる。
今回もライブの手伝いをお願いしたらR-1ぐらんぷりの2回戦に進んだので調整のためにネタをやらせてくれって。
勿論とOKすると当日、日程を間違えてて2回戦は既に終わったので普通にネタをやりますと。
まあ別にいいけど。

しっかり面白かった。
元々面白いネタをやってたから特別驚きはしなかった。
面白かったな。


ライブ後、矢田(こう呼んでる)を誘い地味に浮き足立たず飯を食いに行く。時期が時期なので。


飯を食っていると矢田と『鬼滅の刃』の話になった。

「タケイさんは鬼滅見ましたか?」

「ああ、勿論さ!僕はね、ちゃんと流行りなんかを追うのさ!皆が夢中になっているものをちゃんと自分に取り込むという柔軟性が僕にはあるのさ!」

「ハマりましたか?」

「んーん!全然!全然ハマらなかったよ!やっぱりこう際立って言うほどじゃないかなって思うわけだよ。ほら僕ってとても感性が豊かじゃん?豊かなのね?豊かなわけよ?そんな僕が理解できないってことはすなわちそこまでの作品じゃ…」

「僕もなんです!でも世間は面白いと言ってて社会現象になるほどじゃないですか!?僕は悔しいんです!面白さを見出せなかった自分が情けないです…!その感性が無いのが…!多くの人がハマるということは心を揺さぶる部分があるということです…僕にはそれが分かりませんでした…!悔しいです…!」

「本当そうだよね。僕も。僕もそう。全く矢田と同じ意見。その悔しさがいつかバネになるよ。バネと呼ばれてる僕がそう言うんだから間違いないさ。じゃ、お会計は4500円か。俺デカいのしか持ってないから3000円で良いよ、俺より少し多めに食ったよね」


俺はそそくさと矢田と別れ人混みを避けるように裏道から帰った。

夜風を全身に浴びながら俺は思った。

嗚呼、俺はなんだ!なぜ理解出来ないものを理解出来ないままそれが当然なんだと生きているのだ!矢田の言う通りではないか!

人が心を揺さぶられたと言うことはちゃんとそこに理由があるのだ!
それに気付かないことを誇っているようでは成長などないのだ!

嗚呼。俺は矢田に気付かされた。

そうだよ矢田。お前の感想が正しい。理解出来ない自分が悔しい。それこそが正しいのだ。

俺もこれからそうやって慎ましく生きて行くよ。
自分が正しいなどと思わずに自分が理解出来ないと言うことは理解しようとしていないのと同義だ、と。
せめて理解出来ないにしても理解する努力はしようじゃないか。
悪いことがあってもそれ以外で良いところを見つけれればそれはそれは豊かな人生を送れるじゃないか。
そうだろ矢田。そうだよな。

矢田、俺は今成長したよ。
ありがとう。お前がそう言ってくれなかったら俺はずっと矮小な人間だったよ。

矢田、今俺は15分前のお前の目の前にいた時の俺よりも立派だ。
くだらねぇと呟いて冷めた面して歩いてたさっきまでの俺は、もう今宵の月のように美しいんだぜ。さあ頑張ろうぜ。

これからは嫌なことや理解出来ないことがあってもまずは良いところを見つける努力をしよう。
そうだろ矢田?矢田そうだろ?
お前の先輩は今とても更に劇的に美しくなったよ。
俺という千年パズルの最後のピースは矢田、お前だったんだな。
否、俺に足りない最後のピースを探してきてくれた矢田こそが城之内だったのかもな。
否、俺が海馬でお前が木馬だ。




それにしてもさっきの店不味かったな。
焼き鳥のタレも変に甘過ぎるし、マグロの色も悪かったな。店員の接客も全然だったし。
客の質も悪かったんじゃない?
皿の上におしぼり乗せて持ってきたのはマジで理解出来なかったし。
全然良い店じゃないし2度と行かねぇな。マジ無駄金使ったわ。あーあ。





この記事が参加している募集

夢の一つに自分の書く文章でお金を稼げたら、 自分の書く文章がお金になったらというのがあります。