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本当に建築家の設計料は安いのか-時代に分野を合わせるという思考-


「建築家(特にアトリエ系建築家)の設計料が安い」

この言葉は建築に携わっていない人には分かりにくいことだとは思いますが、建築業界では結構話題になる話です。


僕が社会で設計というお仕事に携わった時、設計料に関してまず知った言葉が「住宅であれば工事費の約10%」という決まりのような事実でした。

家を建てられたことのある人は分かると思いますが、例えば工事費3000万円であれば約300万円が設計料として建築家に支払われる計算になります。

この300万円の中からスタッフの人件費や他の経費を支払います。

事務所を借りている建築家は賃料や交通費など全てです。


当たり前ですが年間で一棟の新築仕事だけでは食べていけません。二軒設計できれば一年間は生きていける感覚かなと思います。


設計はやり方にもよりますが、依頼を受けてからクライアントと打ち合わせを重ね、多い時には10個くらいの建築模型と模型に合わせた図面を作ります。そしてデザインが決まったら詳細図面を書きます。

詳細図を元に工務店と打ち合わせをし、現場がスタートしたら、現場に合わせて現場図面を書いて竣工まで設計行為が続きます。

本当に物件にもよりますが半年以上はかかると思います。

引渡しが終わっても一年点検などもあり、本当に仕事が終わるまでに一年半はかかります。


半年間、同じ物件のためにほとんど休むことなく働いて300万円は安いと感じる人も多いと思います。

そして3物件以上1人で担当すると体が壊れる、と教えらたことがあります。僕は修行時代、7物件に関わった時は本当に体が壊れかけました。

だからその金銭面のしわ寄せの多くが、スタッフにいきます。

スタッフに月々20万円払っていたらそれだけで一棟分の設計料がなくなるからです。

しかもいつでも設計の仕事が保証されているわけではないので、建築家は常に貯蓄だって必要です。設計事務所にもよるとは思いますが、悪い時を想定してスタッフのお給料を決めなければならない現実があるのです。

やはり、建築家の設計料は安いのでしょうか。


あるオープンハウス(新築見学会)で耳にした体験


僕もずっと設計料は安いと考えていました。そんな思いを持っている時にこんな体験をしました。

20代半ばで初めて行った、あるオープンハウスと呼ばれる新築見学会に行った時の話。

クライアントの横で、あるオープンハウス参加者が建築家にこう言いました。

「今回の〇〇さん(建築家の名前)の作品は素晴らしいですね」

この言葉に対して建築家は「ありがとうございます」と答え、横にいたクライアントは僕にとっては意外な言葉を発しました。

「そうか、〇〇さん(建築家の名前)の作品なのか」


そうなのです。

クライアントからすれば「自分の家」、建築家からすれば「作品」なのです。

誤解を恐れずに言葉を変えると、建築家はクライアントにお金をもらって作品を作らせてもらっているとも取れるのです。


作品を通して本を出版する建築家もいます。展覧会をする建築家もいます。大学の先生になる建築家だっています。


建築家はもしかすると作品を通して「次」を想定しなければならない職業になったのでは


そう思うようになりました。

確かに設計だけを考えれば建築家の設計料は安いと思います。バブルの時のように、降って湧いたように建築仕事がある時はそれで良かったのかもしれません。

でも設計料はその時代からは大きく変わっていないと思います。

不景気になっても設計料だけは変わらないから「建築家の設計料が安い」という思考になるのだと考えるようになりました。


でもその事実から逃れることは不可能だと思います。

だから1つのお仕事をする時に「どんな建築物を設計するか」という問いと共に「この仕事をどのように次に繋げるか」を想定していれば、建築家の設計料は安いという思考ではなくなるのだと考えさせられました。

長いスパンを建築家が想定する。

建築家をアップグレードする時代が来たのだと思います。


最後に、今回の記事の主張は簡単なことではありません。僕も毎回失敗し、次こそはと考えて仕事をしています。

でも意識しているか、していないかでは未来は大きく変わると信じて、この記事を書きました。


竹鼻良文/TAKEHANAKE代表

TAKEHANAKE design studio HP

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