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岩政アントラーズはどういうチームなのか

ルヴァンカップの大分トリニータ戦からレネ・ヴァイラー監督がベンチ入りして指揮を執るとのことなので、それまでの岩政大樹コーチが監督代行として率いていた時の鹿島アントラーズがどんなチームなのか、言語化してみようと思います。

スタメン

明治安田生命J1 第1節 G大阪戦
明治安田生命J1 第2節 川崎F戦
ルヴァン杯 GS 第1節 C大阪戦
明治安田生命J1 第3節 柏戦
明治安田生命J1 第4節 神戸戦

チームコンセプト

先に結論から言うと、今季の鹿島は昨季の相馬直樹監督が率いていた時のチームとそこまで劇的に変化している訳ではない。ただ、今季のチームが昨季と違うのは以下の点が根強く意識されているということだ。

・相手を見ながら攻め筋と守り方は決めていく
・攻め筋と守り方は自分たちの起用している選手が最大限活きる形にする
・攻め筋と守り方はチームで統一して準備して、それを試合で表現する
・相手の振る舞いに変化が見られれば、それに応じてこちらの振る舞いもプレー原則に則って変えていく

攻撃

組み立て(ビルドアップ)

まずは攻撃の第1フェーズである組み立ての部分、自陣からどのようにセンターラインあたりの相手陣内に侵入していくか、について見ていく。

ここでの鹿島のプレーの優先順位としては以下の通りとなる。

①とにかく不用意なボールロストは避ける
→可能性の低いロングボールでボールを放棄する方が、無理に繋いで引っ掛けるよりマシ
②組み立ての目的はボールを運びながら、相手を押し込むこと
③中盤の中央にいる選手にクリーンな状態でボールを届けられるのが理想

上記を踏まえて見ていく。鹿島の組み立ての中心を担うのはセンターバックの2人、ここにボランチか(主に)右サイドバックがサポートとして加わる。右サイドバックが加わるのは、広瀬陸斗が起用された時。組み立てに長ける彼が起用されると、ボランチがサポートに降りてくることは少なくなるが、常本佳吾が起用された時や、また左サイドバックの安西幸輝に関しては、彼らに高いポジションでプレーしてもらいため、ボランチの一枚が降りてくることになる(ボランチは樋口雄太が降りることが多い)。キーパーはあまり組み立てに積極的に参加せず、キーパーを使うのはロングボールを使って相手のプレスを回避する時くらいだ。

中盤やサイドバックがサポートに降りてくる時は、相手のプレスの枚数とこちらのセンターバックの2枚が噛み合ってしまう時で、数的優位を作って確実にボールを前進させるために降りてくる。逆に言えば、センターバックだけで数的優位が作れる時は、サポートは降りてこない。このあたりはプレー原則として落とし込まれている最中のようで、この部分の判断をミスると川崎F戦の1失点目のような現象が起きてしまう。

理想としてはおそらく中盤の樋口、ディエゴ・ピトゥカ、荒木遼太郎あたりにスペースと時間が供給された状態でボールを届けたいのだろうが、現状それが上手くいっているシーンは少ないし、またそこまでそのケースをどうしても再現したいとは思っていないのかもしれない。理由としては、2トップに適当に蹴っていても結構収めてくれるということ。彼らの個の力でボールを運べるならそれでいいじゃん、ということだ。

ただ、岩政コーチはセンターバックがボールを自らドリブルで運ばないことには不満のようで、彼らのところでもっとアタッカーへの貯金が作り出せると考えているようだ。実際、組み立ての時には無駄な横パスを嫌っているし、「もっと(ボールを)運べよ!」という声がセンターバックに向けてよく飛んでいる。

相手ゴール前に運ぶまで(ポジショナルな攻撃)

まず、鹿島の選手が中盤あたりでボールを持った時に見るのは、前線の2トップ。彼らにシンプルにボールを預け、手数を掛けずにゴールへと迫ってもらう。実際、上田綺世も鈴木優磨もJリーグの守備陣相手なら大概質的優位に立てるため、その破壊力だけで殴るというある種理不尽な攻撃が十分に成立してしまう。G大阪戦の1点目、神戸戦の2点目はその真骨頂とも言えるゴールだ。

また、それでなくても彼らがボールを収めてくれることで相手を押し込むことが出来る。上田と鈴木のポストプレーは今季の鹿島がリズムを作るために、重要なプレーとなっている。

一方、2トップを経由しない形の攻撃はかなり流動的だ。一応、以下のように担当レーンは決められているようだが、ポジションも崩しの形としても大きく縛られてはいないようで、かなり自由に動いているため、特に決まってこの形を狙っているというのはあまりない。

左サイドの大外レーン:安西
右サイドの大外レーン:土居
中央レーン〜ハーフスペース:荒木、樋口、ピトゥカ

ただ、相手によってどこを中心に狙っていくかというのは定められているようで、それが布陣の変化に表れている。例えば、相手がアンカーのいる布陣を採用して、必然的にアンカーの脇にスペースが生まれやすい場合は、そのスペースが大好物である荒木をトップ下に起用した4-2-3-1を採用する、といったように、守備面も含めてだが相手のウィークポイントに的確にこちらの強みをぶつけられるような配置がなされており、同じ面々でも試合によってその立ち位置は異なってくる。G大阪戦では相手の布陣変更に合わせて、後半開始直後に布陣を変え、それが結果的に3点目のゴールに結びついている。

ボールを失った時(ネガトラ)

ボールを失った時、今季の鹿島は即時奪回の意識がかなり強くなっている。ボールを失った時は得てして陣形が整っていないことが多いので、その状況でプレッシングを仕掛けるのは外された時のリスクも大きいのだが、相手の陣形も整っていないのでボールを奪えれば、高い位置で再度攻撃を仕掛けることが出来る。そうした狙いから、今季の鹿島はボールを失うとその周辺にいる選手がプレスを仕掛け、ボールを奪い返そうとしている。

一旦引いて陣形を整えるのは、リードした試合終盤の消耗している時か、3〜5秒くらいプレスを掛けても相手からボールを奪えずに外されてしまった時だ。

守備

プレッシング

今季の鹿島のプレッシングは攻撃的プレッシング〜守備的プレッシングの中間くらいだろう。自らも相手も休むことなくひたすらにボールを追いかけ続けるまではしないが、単に構えてミドルプレスだけではなくなっている。

プレスのスイッチを入れるのは基本的に前線の2トップであり、ここに関しては鈴木の復帰が大きい。海外移籍前よりプレーの幅が広がり、また元来プレスを仕掛けるのが上手い彼が最前線に入ることで、確実に鹿島のプレスは機能性を増すようになった。

前線の選手たちは基本的に相手のセンターバックにはボールを持たせてもOKの意識が強い。そこからボールを奪うフェーズに切り替わるのは、相手がゴールに背を向けてプレーした時、相手が横パスやバックパスを選択した時だ。いずれもそのプレーを選択した時は、そこからゴールに直線的に迫ることが出来ない。相手がゴールから遠ざかった時にボールを奪いにいくスイッチが入る訳だ。G大阪戦の2点目はその狙いがピタリとハマった形と言える。

課題としては、後述するが最終ラインの押し上げが不十分なことと、強度の高い時間を継続できないことだ。後者に関しては、元々攻守において強度高く走り回れる人材が今の主力にはいないという側面が大きく、そうした要求に応えられそうなファン・アラーノ、和泉竜司、仲間隼斗あたりをいかに組み込んでいくかという話にも繋がっていく。

組織的守備

構えて守る時は基本的に4-4-2のブロック守備を敷く鹿島。この場合においては、特に最終ラインの選手たちはマンツーマンの意識が強く、対人に強い選手が起用されやすい傾向にある。目の前にいるマーカーに仕事させなきゃいいんでしょ?というある意味シンプルな思考である。

最終ラインの選手が対人に強いし、キーパーのクォン・スンテが安定しているためこの形でも結構安定して守れていることは多いのだが、今の鹿島の組織的守備の課題は、一度押し込まれるとズルズルと下がってしまい、最後尾ではね返すことしか出来なくなること。そのため、一旦相手にペースが渡ってしまうと、そこから中々主導権を取り戻すことが出来ないのだ。

この辺りはキーパーのスンテはともかく、フィールドプレイヤーに味方を動かして、リーダーシップを取って押し上げられる人材がいないことが原因となっている。この辺りを鹿島では元来センターバックの選手が務めてきたのだが、今の鹿島のセンターバックにそうした人材はおらず、目の前の攻撃を止めるだけで手一杯になっているのが現状だ。

センターバックが最後尾からラインを押し上げられないと、相手にいつまでも押し込まれたままになってしまうし、プレスを掛けようにも間延びしてしまい機能性は低下してしまう。この辺りが改善されていかないと、この先キツくなっていくことは間違いないため、この辺りは今のセンターバック陣の奮起に期待したい部分である。

ボールを奪った時(ポジトラ)

ボールを奪った時の鹿島はあまりポゼッションでボールを落ち着いて保持することはしない。失うリスクを覚悟しながらも一気に縦に速い攻撃を仕掛けて、手数を掛けずにゴールへと迫ろうとする。この辺りはここ10年以上変わっていない部分であり、この部分の強力さが鹿島を上位に押し上げる大きな要因の一つとなっている。ましてや、今季は2トップが強力かつ独力でゴールまで迫れるセットであり、ボランチの軸となるピトゥカもそうした縦に速い展開を好んでいるだけに、その縦に速い攻撃に拍車がかかっている部分はある。

@kashima.antlers

3/6 鹿島 1-0 柏。関川選手のナイスディフェンス!からの惜しいスルーパス!#鹿島アントラーズ #antlers #関川郁万 Jリーグ

♬ Patto Saite Chitte Haini - Creepy Nuts

セットプレー

直接FK:荒木、上田
ロングFK:荒木、樋口、ピトゥカ
左CK:樋口、荒木、ピトゥカ
右CK:ピトゥカ、樋口、荒木
セットプレー守備:マンツーマン

セットプレーの担当はこんな感じ。攻撃に関してはキッカーがある程度定まっているものの、特に明確に決まっている訳ではなさそう。川崎F戦はノリで広瀬が蹴っていたし。ターゲットはセンターバックと2トップがほとんど。ここまで5試合でセットプレーから奪ったゴールは1つ。まだ整備の余地がありそうだ。

守備は昨季までのゾーンからマンツーマンに変更。マーカーは相手の強い順にミンテ(ブエノ)、関川、三竿、ピトゥカ、常本、安西、樋口と担当していく。ストーンはニアサイドに上田と鈴木が立つ。川崎F戦ではセットプレーからミンテが競り負け失点したものの、シンプルにエアバトルの強い面々が揃っているため、このやり方で現状マズいところはなさそうだ。

スローインは両サイドバックが担当しているが、多いのは足元で受けるようなスローで、あまり相手の裏を狙った陣地回復のようなスローは多くない。困ったら2トップが降りて収めてくれるので機能性がめちゃくちゃ悪い訳ではないが、あまり効果的に前進できているケースが多い訳でもないので、改善が必要か。

ゴールキックの際はまず両センターバックが両脇に開くため、彼らに預けてショートパスで組み立てていくのが一番優先順位が高い。ただ、相手が前から来るようならそこにはこだわらず、サイドに流れた2トップ目掛けてロングボールを選択して、そのセカンドボールを拾って押し込んでいくことを狙っている。

まとめ

質の高い選手が揃っているため、彼らの力を最大限に活かすのが一番効果的であり、そのためには彼らにある程度自由にプレーさせた方が良い、という考え方はこれまでとそこまで変わっていない。ただ、変わりつつあるのはどこまでは自由にやってもらってよくて、どこからは統一した原則でプレーしてもらうのか、という線引きがハッキリしつつあること。なんでもかんでも自由にやらせてカオスになるのは避けよう、という思惑が強く感じられる。

個人的にもこの流れが今の鹿島は自然で合っているのだろうと思う。厳密にプレー原則をしっかり定義してしまうと、それをするのが目的になってしまい、何のためにそのプレーを選択しているのかという理由の部分が落とし込まれなくなってしまう現象がザーゴ監督の時には表面化しており、そこを噛み砕いてチームに落とし込んでいる時間は今のところないことを考えると、徐々にチームをブラッシュアップしつつ、短期的な結果を求めていくには一番現実的なプロセスなのだろう。

その代償と言うべきか、たしかにチームは変わりつつある一方で、まだプレー原則の落とし込みが充分にされていない部分や、チームや個人として適切なプレー判断がなされていない部分も見受けられており、そこで自らを苦しくしてしまっているのは否めない。最も、それはここ数年の鹿島がずっと個人に依存して蔑ろにしてきた部分であり、そのツケが巡り巡って今降り掛かっているのが大きく、それを今の指導陣に全て解決を委ねるのはかなり理不尽とも言えるし、今後もそうした部分での葛藤は続いていくだろう。だが、結果と共にこうした部分での変革が成功しない限り、鹿島に未来はないことはここ数年の結果が何よりも物語っている。難しいミッションではあるが、今の指導陣には是非とも成し遂げてもらいたい。

岩政コーチによって今季戦えるだけの最低限のベースは整った。結果としてもかなり理想的な形でレネ・ヴァイラー監督へのバトンタッチに成功している。ここから監督がどうチームの成長度合いを加速していくか、注目していきたい。

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遠征費とスタグル代に充てるので、恵んでください