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【1/3の成長と堪忍】明治安田生命J1 第7節 鹿島アントラーズ-FC東京 レビュー

戦前

前節は湘南ベルマーレを相手に決定機を仕留められず、逆にセットプレー一発で仕留められて敗れた鹿島アントラーズ。公式戦初勝利の良い流れを持続できなかっただけでなく、この試合でチーム得点王の上田綺世が負傷。だが、それでも試合はすぐにやってくる。若きストライカーを欠いた鹿島は中3日でのホームゲームに臨む。

迎え撃つ相手はFC東京。昨季2位の実力は本物で、今季もここまで3位と上位をキープ。前節はアウェイで北海道コンサドーレ札幌と対戦。先制点を許す苦しい展開だったが、終盤にレアンドロのスルーパスから途中出場の室屋成が決めて追いつき、ドロー。ただ、橋本拳人が海外移籍、東慶悟や田川亨介がケガなど、ここに来て離脱者が増えてきているのは気になるところだ。

スタメン

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鹿島は前節から5人変更。左サイドバックに永戸勝也、ボランチに三竿健斗が復帰。2列目はエヴェラウドとファン・アラーノのブラジル人コンビになり、前線は遠藤康と今季初先発の伊藤翔の組み合わせとなった。

FC東京は前節から6人変更。センターバックに森重真人、右サイドバックに室屋が戻り、ボランチで髙萩洋次郎と組むのはルーキー安部柊斗。2列目は中断明け後初先発の三田啓貴とJ1初先発の内田宅哉が起用され、前線には永井謙佑が置かれた。なお、鹿島から期限付き移籍中のレアンドロは契約上の関係で、この試合には出場できない。

様子見でFC東京の土俵へ

中3日の試合で、ムシムシとした環境。こんな状況で90分間走り続けるのは無理!という認識は両チームにあったようで、試合の入りはお互いにペース配分を気にした、省エネ寄りの入り方となった。積極的にプレスにはいかず、けん制しながら相手がミスしたら手数掛けずに一気に前に出る。鹿島もFC東京も最初の姿勢はそんなところだろう。こうなると、お互い守備ブロックが構築されている上に、フォーメーションも同じなので、それぞれのポジションでの1対1の構図が鮮明になっていった。

鹿島にとって問題だったのが、この流れがFC東京の土俵だったということだ。抜群のスピードを持つ永井とスピード、フィジカルを持つディエゴ・オリヴェイラの2トップはスペースに走り込んで起点を作ることが出来るし、そういったプレーはFC東京では日常茶飯事だ。また、この試合で差を作っていたのは室屋。エヴェラウドの守備がかなり怪しいのを尻目に、右サイドで優位に立ってそこからどんどん押し込んでいった。エヴェラウドのフォローが不十分な以上、永戸勝也は一人で三田と室屋の相手をするという切ない環境に放り込まれていき、前半はほとんど攻撃機会が得られずにいた。それでもなんやかんや破綻しなかったのは、評価されるべきだけれども。

さらに、鹿島が良くなかったのは組み立て、ビルドアップの部分をほとんど機能させられなかったことだ。いつものようにボランチの一枚が最終ラインに降りて、FC東京の2トップに対して数的優位を形成するものの、そこからボールを前進させてもほとんどFC東京の守備ブロックに引っかかり、効果を発揮することが出来なかった。

ならば、FC東京のようにシンプルにロングボールを使って前線のアタッカーを走らせればいいのではないか?という思いが湧いてくる。ただ、今節の鹿島は愚直なまでに繋ぐことを選択し続けた。おそらく2トップの伊藤と遠藤ではFC東京の2トップほど質的優位をロングボールで示すことが出来ない、素早い即時奪回でセカンドボールを拾うアップテンポな展開は間違いなくガス欠に陥るので選びづらい、選択の理由はそんなところだろう。

ただ、いくら発展途上で継続してやっていかなければならない局面とはいえ、決して上手くいっている訳ではないやり方をいつまでも続けて、相手にペースを掴まれるのをそのまま許容してしまうのは、あまり賢明なやり方とは言えないだろう。

鹿島が思っていたよりも繋げないことに気づいたFC東京は、ペース配分を考えながらも徐々に前線からの圧力を強めていく。鹿島のボランチ降ろしには、2列目の1枚(主に内田)を上げて、3対3の数的同数で対応。これで攻め手を失った鹿島は苦し紛れにボールを入れては、FC東京の網に引っかかり、攻撃を受ける。前半30分過ぎまではほぼFC東京の時間と言っていいほどになっていった。

唐突な先制点と3つのGoodポイント

だが、先にゴールネットを揺らしたのは鹿島の方だった。33分、中盤低い位置でレオ・シルバのプレスからボールを奪うと、エヴェラウド→三竿と繋ぎ、三竿は降りてきた遠藤にパス。遠藤は右サイドからフリーでスペースに走り込んだ広瀬陸斗に預けると、広瀬のアーリー気味のクロスに大外で合わせたのはエヴェラウド。フリーで放ったヘディングシュートが決まって、押されていた鹿島が先制したのだった。

このシーン、3つのGoodポイントがある。まずは遠藤。ポジションを下げて三竿からのパスを引き出し、素早く右サイドに展開しただけでなく、ゴール前で優位性が作れているのに気づき、指差しで広瀬にクロスを指示したのも見逃せないところだ。

次にアシストした広瀬。何と言っても褒めるべきはクロス精度だ。このシーンも相手からのプレッシャーが掛かっていない部分もあるが、広瀬はそういった時のクロスは必ずピンポイントで合わせてくれる。左の永戸が警戒されている分だけ中々持ち味を出せずにいるが、右の広瀬からのクロスは今の鹿島の明確な攻撃の形の一つとなっている。

そして、ゴールしたエヴェラウドだ。このゴールまで守備で穴になり、ボールロストも少なくないなど、良いところがほとんどなかったが、ゴールという形で一発回答した。自陣からゴール前までサボらず走り込んだのもそうだし、伊藤とクロスの入り方が被っていることに気づき、素早く軌道修正したことがゴールに繋がった。ゴールを決めた途端、動きがエネルギッシュになったのはブラジル人らしいが(笑)

コーナーキック守備の問題点と改善案

先制点で一気に流れを掴んだ鹿島。これで相手の守備をこじ開けることにエネルギーを使わなくて済むし、相手が手を打ってこなければいけない状況にしたので、それに対応したやり方をしていけばいい、という非常に楽な展開に持ち込んだ…、はずだった。

45分。左サイドからのコーナーキック。三田のボールにニアで合わせた渡辺剛が頭でループ気味に決めて同点に追いつかれると、さらに前半ラストプレーでは右サイドからのコーナーキックを森重がクォン・スンテに競り勝ってネットを揺らして、鹿島は逆転を許してしまった。

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この2つの失点シーン、まず問題なのはマンツーマンで付いている選手にマークをあっさりと外されて失点している問題だ。前節の湘南戦の石原直樹のゴールもマークを付けていたはずなのに外されて失点していたが、この試合も1点目の渡辺は三竿が、2点目の森重はエヴェラウドがマークに付いていたものの、シュートを打つ時には完全にフリーになっている。

また、ストーンを担当している選手が競り負けてしまっているのも問題だ。湘南戦で石原直に競り負けた犬飼や今節で森重に競り負けたスンテは競り負けてはいけないところで競り負けているのでそれはそれで問題だが、湘南戦でも杉岡大暉が、今節も1失点目で広瀬が先に相手にボールに触られてしまっている

今季の鹿島のセットプレーの守備はゾーンとマンツーマンの併用だ。昨季まではほぼマンツーマンだが、今季になって変えている。これはおそらく(運用見送りになってしまったが)VAR導入で、ペナルティエリアでの接触に厳しくなったことや、マンツーマンだと一つでもミスマッチが生まれると、そこを狙われ続けるリスクを抱えていることが、変更の理由だろう。

重要なのはゾーンかマンツーマンかということではない。今のままでは選手配置に無理があるということだ。現状ニアサイドのストーンとなっているのはそのサイドのサイドバックが務めているが、永戸が173cm、広瀬が176cmと決して身長がある訳ではない。ニアサイドのボールはストーンの選手に跳ね返してもらいたいのに、ここの部分を相手にかなり狙われてしまっているのだ。また、守備がルーズになりがちなアタッカーをマンマーク要員に置くのも適切とは言えないだろう。この試合でもエヴェラウドが森重にマンマークで付いていたが、2失点目ではあっさりとマークを外されてしまっている。さらに、今のままだと全員がセットプレーの守備に回っており、カウンターをすぐに狙いたくても人がいない、というのも問題だ。

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個人的には今日のメンバーなら、上記のような配置はどうか、と思っている。ストーンにエヴェラウドを置き、ゾーンの一番外側には三竿、とストーンとゾーンにとにかく高さのある選手を並べて、彼ら+スンテでとにかく跳ね返す役割に徹してもらう。また、競り合いが強くないレオ・シルバと身長がある訳でない永戸や広瀬をマンマーク要員に回し、彼らには競り勝つことよりもマーカーに自由を与えないことをタスクとして与える。現状と守り方は全く同じだが、この配置なら今抱えている弱点をある程度塞ぐことが出来るのではないか。

ただ、どういう形を取るにせよ、ここ2試合でコーナーキックから3失点しているだけに、コーナーキックの守備の改善が急務なのは間違いない。

長谷川健太監督の誤算

せっかく先制したのに、立て続けのセットプレー2発であっさりとひっくり返されてしまった鹿島。今季リードされた状態になると全敗、追いついたことが一度もない鹿島にとってこの状況はかなり厳しいかに思われた。

だが、後半立ち上がりは主導権は鹿島のものになる。主導権を引き寄せられた大きな要因としてはFC東京のガス欠が大きいだろう。前線から鹿島の組み立てを制限できないどころか、前線、中盤、最終ラインで間延びが発生し、ピッチのあちこちに埋めきれないスペースが散見されるようになっていった。こうなると、プレッシャーの掛からない状況で鹿島は伸び伸びプレーできるようになる。前半あれほど機能しなかったビルドアップで簡単にボールが運べるようになり、どんどん相手陣内に攻め込んでいけるようになっていった。

54分~

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この状況を見てFC東京の長谷川健太監督も手をこまねいていた訳ではない。2列目を入れ替え、アダイウトンとルーキー紺野和也を投入。推進力ある2人を活かして、前がかりになりつつあった鹿島の裏を2トップと共に突いて、カウンターでトドメを刺してしまおうという腹づもりだったのだろう。

この采配はまずまずハマっていたし、FC東京はカウンターから決定機を作り出すことも出来ていた。ただ、長谷川監督にとって誤算だったのは、ゴールが奪えず肝心のトドメを刺すところまでは至らなかったことだろう。すると、時間の経過と共にFC東京アタッカーの対応に慣れてきた鹿島はカウンターを食らう機会が減り、むしろ交代枠を使ったことで守備の強度が落ちたFC東京はますます押し込まれる状況となってしまい、後半残り20分は鹿島のワンサイドゲームを許してしまうことになる

ハマった選手交代と自由を謳歌する遠藤康

67分~

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ペースを掴みながらも中々ゴールの奪えなかった鹿島は67分に動く。アラーノと伊藤を下げ、土居聖真と和泉竜司を投入。彼らを2列目に置き、最前線にエヴェラウドを置く形に変えてきた。

この交代がハマった。土居と和泉はそれまでのアラーノとエヴェラウドよりも中央寄りでプレー。エヴェラウドが最前線で相手の最終ラインを押し下げ、その後ろでは和泉や土居、遠藤や上がってきた三竿がポジションチェンジしながら空いたスペースに入り込み、相手を揺さぶりつつ、ボールを失えばすぐに奪い返しに動いてカウンターの機会を与えない。

そして、大きかったのはサイドバックの活きるスペースを作り出したことだ。2列目が中央寄りでプレーすることで、サイドにはスペースが生まれてくる。そこを広瀬と永戸が使い、彼らからチャンスに繋がるボールを供給させる、という攻撃の形が出来ていた。特に左サイドの永戸は、前半守備に追われたうえに、エヴェラウドが永戸の出ていくスペースを埋めてしまっていることで窮屈そうな印象だったが、後半はどんどん攻撃参加することが出来ていた。また、FC東京の2列目が永戸と広瀬に対応するために、守備に回らざるを得なかったのも大きかった。カウンター要員として投入されたはずの彼らが、自陣深くで守備をするのはFC東京にとっては好ましい展開ではなかったはずだ。

この流れで75分、鹿島は同点に追いつく。左サイドでボールを持った遠藤が和泉とのワンツーで抜けるとクロスを供給。そこに大外から中央へと走り込んでいた土居がボレーシュート。これが鮮やかにネットを揺らした。鹿島は相手にほぼボールを触らせず、自分たちでボールを動かしながら相手の守備を崩した結果のゴールだった。

このアシストのシーンもそうだったが、この試合(特に後半)の遠藤の出来は抜群だった。神出鬼没に動いてスペースに飛び込んではボールを引き出し、そこからどんどんチャンスに繋げていく。遠藤が空けたスペースに2列目の選手らがきっちり走り込んで埋めていたこともあり、終盤の鹿島の攻撃は遠藤に操られるかのようにどんどんFC東京ゴールへと迫っていった。

ただ、そしてこの流れのまま逆転!といきたかった鹿島だったが、チャンスを決め切ることが出来ずにタイムアップ。試合は2-2の引き分けに終わり、鹿島は勝点3を掴み取ることが出来ず、1ポイントの積み上げに留まってしまった。

まとめ

FC東京の出来も影響したものの、これまで追い上げるもチャンスを逃して勝点0…という試合が続いていた鹿島にとって、今節の追いついての勝点1という結果は多少なりとも前進した、というポジティブなイメージが持てる結果だったのではないだろうか。

またアタッカーの調子が上がってきたのも朗報だろう。上田が欠けてはいるが、先述したように遠藤が抜群の出来を見せ、エヴェラウドや土居がゴールを奪い、和泉もこれまでの試合よりチャンスに絡めるようになってきている。

問題は何度も言うようにセットプレーの守備、そしてビルドアップとハイプレスの使い分けだ。ビルドアップは確実に成長こそしているものの、相手の強度が保たれ対策がしっかりしている状態では、全く効いていないのも事実である。今季は降格がないとはいえ、このままの成績では成長を我慢強く待っている余裕は消えてきてしまう。成長スピードを上げるか、もしくは一旦こだわらずにロングボールを多用していくという戦い方も現実的な選択肢となってくるだろう。

そのロングボールからハイプレス、あるいは即時奪回はまずまず機能しているし、そこからのカウンターは相手にとって確実に脅威になっている。ただ、ロングボールを多用することは自ら保持したボールを手放すことにも繋がり、必然的にボールを奪いに行く局面が増え、試合展開がアップテンポになっていくだろう。今の面々、そして連戦の中でのスタミナのことを考えれば、こうした判断に安直に踏み切れないのも理解できる。

スタミナ切れを恐れずに機能するアップテンポな試合展開に自ら動かしていくか、機能性はまだ低いが伸びしろのあるビルドアップにこだわり続けるか、ザーゴ監督のさじ加減、バランスの取り具合が今後の鹿島の成績を大きく左右していくことになりそうだ。

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