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【どこに悔しさを見出すのか】明治安田生命J1 第17節 川崎フロンターレ-鹿島アントラーズ レビュー

戦前

鹿島アントラーズ

・現在6位

・前節はセレッソ大阪に1-0で勝利

・今節は中3日で迎える

川崎フロンターレ

・現在1位

・前節は湘南ベルマーレに1-1のドロー、先制許すもレアンドロ・ダミアンのオーバーヘッドで追いつく

・今季は開幕から19試合負けなし

・同じく中3日で今節を迎える

スタメン

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鹿島は前節から1人変更

・前線に上田綺世が入る

・エヴェラウドが久々のベンチ入り

川崎Fは前節から5人変更

・センターバックにジェジエウ、左サイドバックに登里享平が復帰

・前線は家長昭博、レアンドロ・ダミアン、三笘薫の3人に

・現状のベストメンバーで臨む

自分たちの間合いに持ち込む川崎

試合の入りは両チーム非常にテンションの高いものだった。きっかけは鹿島のハイプレス。小泉慶を引き続きトップ下に起用したことに現れるように、今節の鹿島は前線から激しくプレスを仕掛けて川崎Fのボール保持から自由を奪うことにフォーカスして試合に入ったように見えた。1分に自陣深くからディエゴ・ピトゥカがドリブルで運ぼうとしたところをダミアンが奪って三笘のシュートに繋げたシーン、3分にアンカー脇のスペースから小泉がボールを運び、スルーパスに荒木遼太郎が抜け出してシュートまで至ったシーン、とお互いに攻守が入れ替わる中でシュートチャンスを作り出していく。

この一連の流れを経た後、川崎Fは明確にテンポを落とし始め、自分たちのボール保持を確実なものにしようとした。理由としては連戦の疲労を考慮したのはもちろん、アップテンポの展開だと自分たちがゴールを奪える可能性も高まるが、相手のゴールを奪う可能性も高まってしまうため、わざわざ立ち上がりからそんなギャンブルに出る必要はないという判断だろう。

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川崎Fのボール保持は横幅を最大限に活かそうとするのが特徴だ。センターバックが大きく開きながら、中央にアンカーのジョアン・シミッチが立ち、キーパーのチョン・ソンリョンも加えるとひし形の形を構成。鹿島の上田、小泉の前線2枚に対して数的優位を確保して、ボールを前進させていく。普段なら、鹿島はここでサイドやボランチの選手も加わることで数的不利を解消しようとするのだが、彼らは川崎Fのサイドバックとインサイドハーフを見なければいけない状況に追い込まれている。最終ラインは川崎Fの3トップを見なければならないし、数的不利を解消するためにはかなりのリスクを背負って出ていかなければならないという形に川崎Fは追い込んでいた。

当然メリットもあればデメリットもあるように、この川崎Fのボール保持の形にも弱点がない訳ではない。一つ挙げるなら、個々の距離感をかなり広がっているため、ボールを失った時にかなり相手にスペースを与えてしまうこと。特に守備陣はピッチ全体を使うように位置取っているため、個々のカバーエリアがかなり広くなっている。ボールを変に失ってしまうと、一気に自陣ゴール前まで持ち込まれるリスクも含んだボール保持を行っているのだ。

川崎Fはそれを個々の繋ぎの上手さやボールを失った後の素早い切り替えでカバーしている。特に貢献度が高いのがインサイドハーフの田中碧と旗手怜央の2人。彼らは攻撃でもミスが少なく、繋ぎだけでなく自らゴール前に侵入してシュートまで持っていける能力も高いが、それに加え守備への切り替えも速い。彼らの運動量が川崎Fを支えるベースとして小さくない割合を占めているのは間違いない。

さて、そんな川崎Fのボール保持に数的不利を余儀なくされている鹿島。このままプレスを仕掛けてもしょうがない!ということで撤退を選択して、相手の攻撃をサイドからに限定しようとしていく。サイドからならクロスでもドリブルでもパスでも一手加えなければシュートまで至ることは出来ない。その一手をしっかりはね返せれば問題ないという考えである。

だが、相手がそうした対策をしてくるのは川崎Fはもう散々やってきていること。焦りの顔を見せずに確実にボールを運んでいく。まず、家長と三笘の個の力でシンプルに押し込み、相手の最終ラインを押し下げる。これで相手を縦方向に間延びさせると、次はハーフスペースにサイドバック、インサイド、ウイングの誰かが侵入して中央へのパスコースを見出しつつ、サイドチェンジも含めて横に揺さぶっていく。これを繰り返すことで縦横に圧縮していた鹿島の守備陣形は徐々にその距離感を広げられてしまっていた。

そんな中で生まれたのが19分の先制点。右サイドのボール保持で、川崎Fはジェジエウから山根視来にボールを繋ぐと、山根のスルーパスにダミアンが抜け出し冷静にゴールネットへと沈めた。このシーン、鹿島の守備の人数は揃っているが川崎Fのパス回しで揺さぶられたことで、相手の選択肢を削ることもプレッシャーを掛けることも出来ていない。その結果、山根にスルーパスを出せる余裕を与えてしまい、犬飼智也はダミアンに前に入られてしまった。このシーンだけが特別守備が悪い訳ではなく、その前からの過程で鹿島はエラーの起こしやすい状況に追い込まれてしまっていたのだ。

粘りを生んだ常本佳吾

20分~

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失点後、鹿島は小泉を右サイドに移し、前線を上田と土居聖真の2枚に変更。プレッシングをいったん諦め、撤退守備の強度を上げる方向にシフトしていった。

川崎Fが攻め、鹿島が受ける展開は変わらなかったが、ここで鹿島がこれ以上失点せずに粘れたのは結果的に大きかった。前半、鹿島はボールを持っても川崎Fの激しいプレスで満足に繋ぐことが出来ず、リスク回避の意味合いも含めてロングボールを選択することが多かったが、ボールを受けた上田が中々起点を作ることが出来なかったため、守備のターンがかなり長くなっていた。それでも川崎Fに決定機を作らせることはなかった。

理由として大きいのは右サイドの守備が安定していたことだろう。先制点が入るまでは右サイドを中心として攻めていた川崎Fだが、スコアが動くとペース配分の意味合いもあるのか左サイドにシフトしていく。対面するのは常本佳吾と右サイドハーフに回っていた小泉だったが、彼らが対人守備で負けることはなかったのが大きい。特に常本は出色の出来。マッチアップした三笘をスピードに乗る前に潰していったことで、川崎F一番の戦術兵器を抑え、鹿島にリズムを作り出していった。

巡ってきた荒木遼太郎の活かしどころ

後半開始時~

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1点ビハインドで折り返した鹿島はハーフタイムに選手交代。小泉に代えて白崎凌兵を左サイドに投入。荒木をトップ下とする4-2-3-1にシステムを変更した。前線からのプレッシング強度を上げてくれることを期待されて起用された小泉だったが、早い段階でチームが撤退守備に移行してしまったことで、前線で起用される意義を失ってしまったのは小泉にとっても不運なことだったと言える。

1点を追う鹿島はこのまま下がったままでは何も変わらない!ということで、後半開始から再びプレッシング強度を高めていく。プレス強度を上げるということは当然剥がされればピンチにもなりやすくなるのだが、そこのリスクを背負ってでもゴールを奪いにいきたいということである。

後半立ち上がりはその収支がマイナスに出ていた鹿島だったが、55分ごろから状況が変わり出す。その理由として大きいのが、川崎Fがガス欠し始めたこと。特に中盤で攻守に走り回っていた田中と旗手の疲労が目立ち始め、彼らが埋めていたアンカーのシミッチの脇のスペースが埋めきれなくなるシーンが散見されるようになった。

こうして鹿島の反撃が始まる。アンカー脇のスペースに荒木、白崎、土居がどんどん侵入してパスを引き出すことで、鹿島は攻撃のリズムを作り出していく。特にこうしたスペースを使ってチャンスを作り出すのは荒木にとっては十八番のプレー。前半から上手く相手のプレッシャーを避けて上手いことボールを引き出して攻撃の形を生み出していた荒木だったが、いよいよその本領を発揮する状況が整いつつあった。

待望の同点ゴールが生まれたのは61分だった。中央でボールを運んだレオ・シルバから白崎がボールを引き出すと、シミッチの脇に侵入してきた荒木へ縦パス。荒木のスルーパスに抜け出した上田がゴールへと流し込んだ。一度はオフサイドと判定されたものの、VARの介入の結果ゴールが認められた。個々の特長を活かし、チームとして狙っていた形で奪ったゴールだった。

勢いを削いだ川崎の修正

71分~

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同点に追いついた後も流れは鹿島が握っていた。これを見た鬼木達監督は後半の飲水タイムを利用して修正。布陣を4-4-2に変更して、中盤の底にシミッチと田中の2枚を並べるようになった。

この修正は鹿島の勢いを削ぐには的確な一手だった。シミッチの脇のスペースを使われるならそこに人を置いてスペースを消してしまえばいい。これで再現性を持てていた攻め手を失ってしまった鹿島は、徐々に相手陣内深くに攻め込めなくなってしまっていった。

さらに、厄介だったのが川崎Fの前4枚だ。布陣変更後の川崎Fは彼らが攻め残る形を取るようになる。鹿島も疲労が目立ち始め即時奪回の機能性が落ちるようになると、川崎Fが攻撃をはね返し彼らにボールを渡せば、前線4枚は独力でもゴールに迫れる力を持っている。このカウンターで鹿島が押し下げられたことで、試合は五分から川崎Fに主導権が傾きつつあった。

そうした流れの中、このままドローで終わるかと思われた試合は最後の最後で動く。90+4分、川崎Fはゴールキックのセカンドボールを拾って、左サイドに展開。途中出場の長谷川竜也がクロスを上げると、それがファーに抜けてそこに待っていたのは直前に投入された小林悠。トラップから左足でシュートを突き刺し、川崎Fが土壇場で勝ち越しに成功した。

鹿島としてはここまで守備で素晴らしいパフォーマンスを見せていた常本が長谷川の切り返しでクロスを上げる余裕をこのシーンだけ与えてしまったこと、町田浩樹がクロスをはね返し切れずにファーサイドに流してしまったこと。こうした小さいミスとも言いづらいプレーが積み重なった結果、手元にあった勝点1すらこぼれ落ちてしまう痛恨の失点に繋がってしまった。

試合はこれでタイムアップ。1-2で敗れた鹿島に対して、川崎FはJ1新記録の開幕20試合無敗を達成した。

まとめ

悔しい敗戦だ。勝点0が妥当な内容だとも言えるが、振る舞いがもう少し上手くこちらに転がってくれば1ポイントでも3ポイントでも掴める可能性はあった。だが、踏ん張りどころを耐えて、勝負どころを逃さなかったのは川崎Fの方。ある種、鹿島らしいとも言われる勝負強さを体現出来ていたのは相手チームの方だったと言わざるを得ない。

試合後のコメントを読む限り、チームとしては前半にプレスを仕掛けきれなかったことを悔いているようだった。個人的には撤退守備そのものが悪いとは思わないし(それなら小泉トップ下起用の良さが活きないというのはあるが)、圧縮の強度や1stディフェンスが定まらないと寄せが甘くなっていることもチームの課題であって、そうした部分は今後対戦相手に狙われる部分であるからフォーカスして修正すべきだとも思うが、そもそもの前段階としてリスクを負ってでも前に出れずに、自分たちが狙っていた形が発揮できなかったことの方が問題とチームは捉えている。

--自信を持って入らせることができなかったというのは、川崎F対策を強くし過ぎたのでしょうか?また、前半の内容の要因は?
何も川崎F対策は正直していませんので、われわれがわれわれらしく前でプレーするために(小泉)慶に入ってもらいました。ただ、そこ1人ですべての重心が前に出るわけではないので、少しそこの意図をチーム全体に浸透し切れなかった。そういった意味で僕のミスがあるのかなと思います。別にどの選手であっても同じですけど、前でプレーしていきたいので、攻守両面において、もちろん相手の時間帯もありますからそうならないときも当然ありますけれども、攻撃でも守備でも前に重心を置くようなことをしたかった。ただ、それが前半、マイボールになってもなかなか顔を出せない状況。守備でも前からしっかりプレッシャーを掛けられない状況。ハーフタイムに話をして出てもらいましたけど、後半やったことを前半からやらなければいけなかった。われわれはもっとチャレンジャーとして、もっと怖がらずにやらなければいけなかったと思っています。
https://www.jleague.jp/match/j1/2021/053008/live/#coach

その方向性でアプローチしていくのなら、配置の優位性でボールを運ぼうとするチームにどうプレッシャーをハメ込んでいくのかは喫緊の課題となる。今節の川崎Fといい相馬体制初黒星を喫したサガン鳥栖戦でも、ピッチで起こっている現象は同じことが原因だ。ここを改善できなければ、チームとしての上昇は難しくなる。この敗戦を糧に出来るか。

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