見出し画像

【意義を見つけた消化試合】ルヴァン杯 GS 第3節 清水エスパルス-鹿島アントラーズ レビュー

戦前

土曜日のリーグ戦ではサガン鳥栖に2-0で勝利。今季初のリーグ戦連勝を飾った鹿島アントラーズ。今節はそこから中3日でのルヴァンカップ。すでに敗退は決まってしまったが、これまで出場機会の少なかった選手たちにとっては貴重なアピールのチャンスだけに、無駄に消化したくはないところ。

そんな鹿島をホームで迎え撃つのは清水エスパルス。ピーター・クラモフスキー監督を迎えた今季は序盤戦勝ち星に恵まれなかったが、リーグ戦ではここ4試合負けなしと調子を上げてきている。ただ、ルヴァンカップでは前節名古屋グランパスに敗れ、鹿島と同じくすでに敗退が決まっている。

スタメン

ダウンロード (3)

鹿島は鳥栖戦から8人入れ替え。キーパーはプロデビュー戦となるルーキーの山田大樹。4バックは内田篤人、関川郁万、奈良竜樹、杉岡大暉のセット。ボランチには名古新太郎がケガから復帰、また荒木遼太郎と染野唯月のルーキーコンビもスタメンで起用されている。

清水は土曜日のリーグ戦から全員を入れ替え。リーグ戦では4バックだが、このルヴァンカップでは陣容の都合もあるのか3バックで戦っている。ボランチの成岡輝瑠はユース所属の2種登録選手、前線のジュニオール・ドゥトラは古巣対戦だ。

山田大樹起用のワケ

この試合、トピックスの一つとして挙げられるのが山田の先発起用だろう。鳥栖戦でデビューを果たし、好パフォーマンスを披露した沖悠哉の継続起用も考えられたが、おそらく次のヴィッセル神戸戦を見据えて今節の起用は見送ったものと考えられる。今まで試合にほとんど出ていなかった若い選手がいきなり8日間で3試合こなすのは、キーパーというポジションなので肉体的にはともかく、精神的な負担が大きいと判断したのだろう。(もちろん、そうした負担をかけるためにあえて継続起用するのも一つの方法である)

そうした中、ベテラン勢との争いで選ばれた山田はこの試合及第点とも言えるパフォーマンスを見せてくれた。2失点したものの、失点シーンはノーチャンスだったし、好セーブも見せてくれた。また、沖と同じくキックの精度も素晴らしかった。相手に寄せられても動じずに前がかりになった裏を突くようなボールをアタッカー陣に通してチャンスの第一歩となった立ち上がりの2分のシーンは、メンバーを入れ替えたことで多少バタついたチームを落ち着かせ、流れを引き寄せる意味で大きなプレーだった。

ハマらないプレッシング

鹿島は18分に先制する。自陣でのボール奪取からのロングカウンター。右サイドでボールを受けてドリブルした荒木からニアに飛び出した染野にボールが渡り、染野のクロスをファーサイドで伊藤翔が折り返すと最後は白崎凌兵が頭から飛び込んでゴール。

清水の攻撃→守備の切り替えがあまりにルーズだったのは否めないが、荒木がドリブルで運んだこと、染野がフリーランをサボらなかったことで生まれたゴールだった。

ただ、そこから先は清水の時間帯となった。そうなってしまった理由として一番大きいのは、この試合終始プレッシングがハマっていなかったことになるだろう。

ダウンロード (4)

清水は左サイドから攻撃を組み立てていくことが多かった。理由としては、左利きの福森直也を起点にしたかったというのもあるだろうし、鹿島の前線の右サイドが染野と荒木というルーキーコンビだったため、彼らの所からなら押し込めそうというのもあったのだろう。

清水の3バックでの組み立てに対して、鹿島は2トップが対応する。鹿島としては数的不利の状況だが、ここで2トップに求められていることはボールを奪い切ることより、選択肢をサイドに限定させること。サイドに入ったところでプレスの強度を高め、奪いどころにするのがチームとしての共通認識だからだ。

だが、その狙いに反して鹿島は清水に中央へのパスをかなり許してしまっていた。清水の技術の高さや狭いエリアでも通そうとする姿勢もあるのかもしれないが、それにしてもプレッシングで選択肢を限定させるという本来の目的が果たされていない以上、プレッシングの質が悪かったという部分は否めないだろう。染野や荒木が先発での起用回数を増やしていくためには、守備面での立ち振る舞いが課題かもしれない。

また、中央にパスを通されてもボランチからの後ろの選手が寄せきって奪い切ってしまえば問題ないし、今節の鹿島には永木亮太らそうした選手が揃っていたはずだったが、この試合鹿島は最終ラインの押し上げが不十分だったため、寄せきれずに余計に劣勢を招いてしまっていた。これはコンディション面が整っていないのかもしれないが、こうした部分が主力として試合に出続けている選手との差になってしまっているのは気になるところである。

さらに、鹿島にとって厄介だったのは鈴木唯人の存在だ。清水の前線はかなり流動的にポジションを変えていたが、右シャドーでスタートした鈴木はトップ下のように振る舞いながら、清水のボランチの近くまで降りてボールを引き出そうとしていた。こうなると、清水のボランチをケアしていた鹿島のボランチにとっては、自分たちのエリアに新たにもう一人見なければいけないという数的不利の状況が生まれてしまい、それがさらに寄せ切れないという現象を加速させていってしまった。

鹿島がプレッシングを仕掛ける分、そこを外されてしまうと後ろの人数はどうしても薄くなってしまうだけに、スペースが生まれてきてしまう。プレッシングを外した清水はそうしたスペースを前線のアタッカーたちが突くことでチャンスを作り出し、流れを引き寄せていった。

臨機応変合戦を制した清水

ダウンロード (5)

清水から主導権を奪い返すべく、前半の飲水タイムをきっかけに鹿島は変化を見せる。永木をセンターバックの位置まで下げて3バックを形成、永木のいたボランチには染野を置き、2列目の選手を前に押し出す形にしてきた。

これはまず数的同数の局面で攻撃を受けることが多かったために、永木を入れて3バックにすることで後ろの人数を担保して、人数が足りていないという現象を避けたかった狙いがあるのだろう。また、前線のプレスがハマっていなかったことから、清水の3バックに対して伊藤+2列目の3枚という数的同数をぶつけられる形に変え、プレスを機能させてサイドに追い出すということをハッキリさせたいというザーゴの狙いがあるように思われる。

ダウンロード (6)

だが、鹿島の形の変化を見て、清水もすぐに振る舞いを変える。ボランチに入っていた成岡が最終ラインに降りて、4バックの形となり鹿島の前線3枚に対して数的優位を形成。鹿島がボールの奪いどころを絞り切れないような配置に変え、中央にパスを通す方法を再び確保したのだった

こうした清水の変化に対して、鹿島もすぐに対応して形を変えられるようになるのが理想的だが、チームが発展途上の段階な上、大きくメンバーを入れ替えたこの試合でそれを求めるのは無理がある部分は否めない。だが、清水のこうした形の変化によって、鹿島の5バック作戦は機能していたとは言い難いものになってしまった。

清水に主導権を握られた展開のまま、鹿島は同点に追いつかれてしまう。42分の失点シーンは鹿島の左サイドから崩され、最後は中央に入り込んでいた宮本航汰に決められたものだが、このシーンでは中央からサイドに釣り出された上に、誰にも寄せられない中途半端なポジションを取ってしまっている奈良のように、ポジションバランスが崩れ、強度が保てない中で相手に崩されてしまい、対応が後手後手になってしまったが故の失点だった。

後半に入ると鹿島は5バックをやめて元の形に変えるが、清水もそれに対応して振る舞いを変えたため、流れは清水のまま。54分には途中出場の小泉慶がボールロストしてしまい清水のカウンターになると、最後は途中出場の河井陽介のクロスをドゥトラに押し込まれ、鹿島は逆転を許してしまう。関川から小泉に通したパスも、小泉の前を向こうとするターンも姿勢としては悪くなかっただけに、そこで起きたミスから失点しまうのは中々やるせなかった。

流れを変えた清水の交代策

鹿島が逆転を許した段階で、両チームが交代に動く。鹿島は松村優太とファン・アラーノを投入、清水は4枚目の交代カードとして鄭大世を前線に投入した。

56分~

ダウンロード (7)

鄭大世の投入はチームマネジメントの側面から考えていた予定調和的なものでもありそうだが、これが清水にとっては完全に裏目に出た。ポジションを流動的に動かしていた川本梨誉に比べ、鄭大世はドゥトラと2トップを組んで前線で張っていることが多かった。これは攻撃面だと2トップで鹿島のセンターバックにそのままぶつけられるので、カウンターなどの局面では脅威になれるが、守備面ではあまり積極的に参加しないために、鹿島が組み立てる時はあまりプレッシャーを気にせず縦パスを通せるし、中央は鹿島が4-2-3-1に変えたことでアラーノが低い位置を取るため、清水の中盤と数的同数の形になっていった。

ダウンロード (8)

中盤が数的同数になることで、鹿島はどこかで相手を剥がすことが出来ればそのまま前線に持っていけるという状況になる。清水もこの形になってしばらくはそれを許さなかったし、逆にカウンターで2トップを活かしてチャンスも作り出していたが、そうしたチャンスを決め切れずに、中盤の運動量が疲労によって落ちてくると、一気にデメリットの方が目立つことになってくる。鹿島にとってみれば、それは格好の機会となる。ということで、終盤はバテてきた清水を尻目に鹿島が中盤での主導権を握り、アラーノを中心にそこからどんどん攻め込んでいった。

左サイドを活性化させた山本脩斗

鹿島にとってもう一つ大きかったのは山本脩斗の投入だろう。前半は右サイドに偏っていた攻撃が、この男の登場によって左サイドからも攻めることが出来るようになり、それが結果的に3点目に繋がった。

左サイドが活性化した理由は山本個人のポジショニングだったり、仕掛ける姿勢だったり、クロス精度だったりといったパフォーマンスの部分もあるが、個人的には荒木が左サイドに回ってきたのも大きいように思える。この試合もチャンスに絡んでいた荒木を警戒してか、清水の右サイドのポジションはかなり低いものになっていたし、荒木へのケアが集中する部分があった。そうなると、左サイドにはスペースが生まれてくる。そこを山本が上手く活用したという訳だ。

また、山本の登場によって杉岡が左センターバックに入ったのも大きいだろう。前半の鹿島の攻撃が右サイドに偏っていた理由の一つとして、ボランチとセンターバックが全員右利きで左サイドへの展開は右サイドほどスムーズにいかなかったという部分は否めなかった。それを左利きの杉岡が入ることで、流動性を高めることに繋げた。ザーゴ監督が今季町田浩樹を重用する理由として、彼が左利きという部分は少なからずあるだろう。

流れを完全に掌握した鹿島は、81分に追いつく。ロングカウンターでアラーノがボールを運び、左サイドの荒木へ。荒木はDFを引き付けると、染野にプレゼントパス。これを染野が決めた。中盤で主導権を握ったことで活きるようになったアラーノの個性、そして荒木のゴール前での驚くほどの冷静さが活きたゴールだった。

さらに、86分には左サイドから仕掛けた山本のクロスに大外から飛び込んだ松村が頭で合わせて逆転。松村を完全にフリーにしてしまったように清水の守備があまりにルーズだったのは否めないが、山本の切れ込んでいく仕掛けやクロス精度の高さ、そして相手DFの視野から外れた状態で大外から侵入した松村のポジション取りが故に生まれたゴールであった。

逆転した鹿島は、このまま試合を締めにかかる。最後は染野と荒木のルーキーコンビでボールキープして時間を稼ぎ、タイムアップ。鹿島は初勝利で今季のルヴァンカップを締めくくった。

まとめ

清水の強度が落ちてきたため、結果逆転することが出来たが、それまでの時間帯でプレスがハマらずに後手に回ったことは反省点だろう。ここまで鹿島は特に最終ラインのメンバーをあまりに入れ替えずに戦ってきた。そのかいあってか、そのメンバーたちによる成熟度は上がりつつあるが、今回のようにメンバーが入れ替わった際にその成熟度を保てるのかという問題が、相手の振る舞いが変化した時の対応も含め今節浮き彫りになっている。今後も連戦が続く中で、同じメンバーで戦える保証はない。チーム全員の練度を上げていく必要があるだろう。

とはいえ、起用された若手が結果を出し、逆転で勝点3を掴み取ったのは収穫だ。先述した山田はもちろん、ゴールという結果を出した松村も今後に向けての期待を感じさせてくれたし、荒木や染野に至ってはもうチームの重要な駒の一つとなりつつある。この流れに中堅の選手たちやまだフィットし切れていない新加入組も乗っていきたいところだ。

ハイライト動画

公式記録

タケゴラのTwitter

使用ツール


続きをみるには

残り 0字

¥ 200

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

遠征費とスタグル代に充てるので、恵んでください