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ヴァイラーと鹿島は火を起こし続けられるか

否めない息切れ

2勝4分、勝点10。鹿島アントラーズの6月以降のリーグ戦の戦績である。この間の平均獲得勝点が1.67、5月までの平均獲得勝点が1.88だったことを考えると、このところの鹿島がどうしてもペースダウンしていることは否めない(それでも思ったより粘れているのだが)。

5月末に明け渡した、首位横浜F・マリノスとの勝点差は5に広がっており、今週末の直接対決で敗れようものなら、その差は8にまで広がってしまい、残り11試合で逆転には最低でも3試合が必要、と厳しい状況に立たされてしまう。

エース離脱の穴

ペースダウンの理由はいくつかある。1つは上田綺世の海外移籍。18試合で10ゴールとハイペースでゴールを奪い、前線で起点にもなってくれるストライカーを欠いて、チームに影響がないわけがないのだ。

その上で上田の移籍以外にも、発生している離脱者がチームが苦しむ要因になっている。松村優太や荒木遼太郎といった若きアタッカーは長期離脱しており、ケガから復帰してきた仲間隼斗もアウェイの北海道コンサドーレ札幌戦から出場がない。また、上田の穴を埋める存在として期待がかかっているエヴェラウドも調子に波があり、まだ本調子とは言えない状態で、さらに染野唯月も出場機会を求めて東京ヴェルディへと移籍していった。

この状態で7月のここまで4試合で6ゴール、平均得点は1.50。6月までの平均得点が1.61であることを考えると、ここまではよく健闘していると言うべきだろう。だが、今後の残り試合でも上田はいない。そのことを踏まえて、得点力を補充する方に舵を取るのか、得点力が望めない分だけ失点数削減に力を注ぐのかは、判断のしどころであろう。

強度低下によるシフトチェンジ

そして、ペースダウンのもう1つの要因であり、チームにとって根深いのが、強度の低下問題である。レネ・ヴァイラー合流後からの鹿島は、高い位置から制限をかけながら、ミドルゾーンで激しくプレッシングを仕掛け、ボールを奪えばすぐさま前線のアタッカーにボールを預け、少ない手数で攻撃を完結させる、という強度を前面に押し出したスタイルで勝点を積み重ねていった。

だが、試合を重ねるにつれて蓄積した疲労や連戦、夏場の暑さによって徐々にその強度は奪われていく。こうなると今までのやり方を続けるのは難しくなっていく。それをもちろん認識していたヴァイラーは、ここのところ明らかに好調時とは異なるアプローチで試合に臨んでいる。プレスの開始位置やボール奪取の目標位置を下げることで、チームの重心を後ろにしながら、時としてボールを保持しつつ、隙あらばロングカウンター一本でゴールに迫る。今までの鹿島がよくやっていたような戦い方に戻した、とも言えるような振る舞いを見せ始めたのである。

確かに、この戦い方なら前ほど強度は求めなくても戦えるだろうし、チームとしても大崩れすることはない。何より、今までのチームが選択していた戦い方ということもあり、チーム全体がこの戦い方に馴れているため、そこまで導入に支障がない。現実的に勝点を積み上げていくことを考えれば、現時点で最もリスクのないベターな選択肢と言えるだろう。

だが、この戦い方をする上で、チームにはいくつか懸念点が浮かび上がっている。一つは撤退守備の耐久度。鹿島のこれまでの守り方はマンツーマンの思考が強く、たとえ押し込まれても個々がやられなければ失点しない!という考え方が前提にあった。だが、今の鹿島はセンターバック陣はそうした部分の対応に甘さが残っており、必ずしもそこで勝てる計算ができない部分がある。その上で、カバーリングやコーチングにも課題が残っており、味方が空けたスペースを埋めたり、味方を動かして守らせるというプレーが出来ていない部分があるため、守備陣が動かされてしまうと途端に脆さを露呈してしまっている。そうした部分の課題を抱えながら、低い重心で1点勝負に持ち込もうとするのは、失点のリスク的に致命傷になりかねず、先に失点してしまうと苦しい展開でやられてしまったり、せっかく奪ったリードも守り切れるのかという点で疑問符を付けざるを得ない状況なのである。

もう一つはゴール期待値の低下だ。重心を下げるということは、必然的に相手ゴールから遠ざかった状態で攻撃をスタートすることになる。その状態で攻撃を仕掛けるということは、遠かった分だけゴールを奪う可能性も低くなってしまう。つまり、攻撃陣はゴールを奪うために今まで以上の負担をしなければいけないということである。さらに、蓄積疲労の影響か攻撃陣の個々の調子は緩やかに下り坂となってしまっているし(それでも十分すぎるパフォーマンスは見せてくれている)、上述したようにここのポジションに離脱者が多くなっているのは、チームにとって少なくないダメージとなっている。そこを考えると、左サイドバックに広瀬陸斗が定着しつつあることで、独力で仕掛けられる安西幸輝を1列前で使えるのは、今のチーム状況においては大きなメリットとなるはずだ。

この状況の中で、1点勝負に持ち込んで勝ち切るというのは中々難しいし、実際思ったような結果は出ていない。7月のここまで4試合で勝ったのが柏レイソル戦の1試合のみ。その試合も一度追いつかれながら、鈴木優磨が執念で得たPKから勝ち越したものであり、決して再現性のある勝ち方ではない。この戦い方で優勝争いに必要な分だけの勝点を積んでいけるのか、という疑問点は依然として目の前に横たわったままなのである。

残るのは何か

とはいえ、ここまでの話はこれまでに何度か触れてきていることであるし、予想できていた状況ではある。今更、ここについてどうこう言うつもりはない。この状況の中で粘りながら勝点を積み上げ、望むべき結果を掴み取ってほしい、それだけである。

だが、これで結果を得られなかった場合のことは少なからず考えておくべきだろう。現状ヴァイラーのここまでの振る舞いとして積み上がったのは、強度が高い時に出来る戦い方であり、それ以外でのチームの土台となるベースの部分やゲームモデルといった部分にあまり上積みはない。今までと同じ戦い方をしているのだから。

それでも、そのことでヴァイラーが責められる言われはない。強化部がヴァイラーに求めたのは、とにかく勝つこと。チームに新たなゲームモデルを築いてほしいとザーゴを招聘した時とは訳が違うのだ。チームは時間を掛けてスタイルを築いていくよりも、柔軟に戦えて、監督としてタイトルの味も知っているヴァイラーに目の前の試合に勝って、結果を出すことを求めている。ヴァイラーはここまでそのオーダーに応えて、優勝争いしているのだから、及第点と言える結果を現時点では残していると言えることになる。

しかし、ヴァイラーに求めたリクエストを踏まえると、その成否はタイトルを取れたか否か、で決まってくる。そうなると、もしこれで臨んだ結果を得られなかった場合に、ヴァイラーの責任を問う声は避けられなくなってしまう。その時に、チームがどういう振る舞いをするのか。ヴァイラーを切って次の監督に切り替えたとしたら、そこに今までと何の違いがあるのかという疑問は残るし、ヴァイラーを残したとしても続けていく上でチームに積み上げたものはあるのかという懸念は残る。ここ数年の結果を踏まえて今すぐにでも結果を残しておきたいという思いは強く理解できるのだが、その先に何が残るのか、という点に対してもクラブとしてちゃんと回答があるのか、そこが現状での一番の懸念点である。

そもそも、ヴァイラーの長所である柔軟性をフルに発揮できるだけのスカッドを今の鹿島は持っているのだろうか。今のスカッドの中でいかに目の前の試合を勝つか、ということを考えてヴァイラーは戦い方を選択しているのだろうが、そのスカッドがもっと豊富になれば、必然的に選択肢も広がってくる。初めてのJリーグで来日が遅れたヴァイラーにとって、彼好みのスカッドになっているとは必ずしも言えない部分がある中で、結果を出しタイトルを掴み取れなければ、クラブの実績としても金銭面としてもますますそのリクエストに応えるのは難しくなってしまう。今夏もここまで補強は上手くいっていない。ヴァイラーにはそうしたエクスキューズも踏まえた上で、その手腕を発揮してもらわねばならず、その上でクラブとしても判断をする必要があるということは、改めて認識しておくべきだろう。

起こした火を絶やすな

そんなこんなで、リーグ戦はあと11試合。そして、次節は首位横浜FMとの直接対決である。ここで勝ったら必ずしも優勝できるとは言えないが、ここを落とすとかなり厳しくなるというのは間違いない。前半戦、ホームで完敗を食らった相手にリベンジを期したいところだ。

今の鹿島のチーム状況を劇的に変える特効薬みたいなものは、今の時点だと残念ながら存在しない。だが、直接対決でライバルを叩く、というのは少なからずチームに勢いをもたらしてくれる。今季のチームは鈴木優磨が巻き起こしたバイブスに乗っかって、ここまで来たという側面がある。そのバイブスをさらに上げていくのか、消してしまうのか。それによって、今季の鹿島の残りの振る舞い方は、おそらく大きく異なってくる。次節の横浜FM戦とはそういう試合になるだろう。

バイブスがさらに上がり、勢いに乗ることが出来れば、自信を深めながらチームは更に戦い方の幅を広げることも、新たな勝ち筋を見つけることもことも出来る可能性がある。今の鹿島に必要なのは粘り続けて、そのバイブスが上がるのを待つこと。そのバイブスが上がったのがシーズン終盤なら言うことはない。

自ら起こした火を消さず、シーズンの残りを戦い抜けるか。今季の鹿島の行く末は、ここにかかっている。

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