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【手札で勝るなら】明治安田生命J1 第12節 横浜FC-鹿島アントラーズ レビュー

戦前

前節はヴィッセル神戸相手に後半追いついたものの、引き分けに終わった鹿島アントラーズ。水曜日のルヴァンカップでも引き分けに終わっており、負けなしは続いているものの公式戦2試合勝ちなしで今節を迎える。

鹿島を迎え撃つのは横浜FC。J1復帰2年目の今季は開幕から低迷が続き、下平隆宏前監督を解任。現在はユースの監督を務めていた早川知伸新監督が指揮を執っているが、リーグ戦は未だに勝ちなし。ただ、水曜日のルヴァンカップでは柏レイソルに完封で新体制初勝利を挙げている。

スタメン

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鹿島は前節から1人変更。前節負傷した上田綺世に代わって、染野唯月が1トップで起用された。

横浜FCは前節から3人変更。センターバックに田代真一、ボランチに手塚康平、2列目にマギーニョが入っている。

常本佳吾の推進力が生んだ先制点

試合は雷雨の影響で30分遅れてキックオフ。下平前監督時代はボール保持への強いこだわりを見せていた横浜FCだが、今節はその姿を見せずに早い段階で前線に長いボールを供給していった。ターゲットとなるのはクレーベと伊藤翔の2トップ。彼らの質的優位で押し込んでフィニッシュまで持ち込む算段だったのだろう。鹿島がそれほどプレスを掛けてこなかったこともあって、実際これが上手いことハマっていた。9分のスルーパスに抜け出した伊藤がシュートまで至ったシーンはその代表的な例。横浜FCにしてみれば、こうしたシーンで決めていれば試合展開は大きく自分たちに傾いていたであろうだけに、悔いが残るだろう。

一方の鹿島である。こちらも横浜FCがそこまで積極的にプレスを仕掛けてきた訳ではないので、ボール保持に苦労している様子はなかった。ただ、今の鹿島もボール保持にはこだわらないので、ロングボールを多用していく。鹿島が使ったのは右サイドバックの常本佳吾のオーバーラップ。左サイドでボールを前進させながらサイドチェンジで右サイドに展開して、スペースを常本が駆け上がってボールを受け、クロスを供給してシュートチャンスを作ろうとする。常本の前に出ていく推進力を活かして、鹿島は形を作り出そうとしていた。

常本がサイドを駆け上がって横浜FC守備陣を揺さぶることで、横浜FC守備陣は間延びし始め、中央には徐々にスペースが生まれてくるようになってきた。そこで登場するのが鹿島の2列目3人衆。彼らは横浜FCボランチの脇のハーフスペースにどんどん顔を出して、パスを引き出してはボールを運び、相手を押し込んでいく。横浜FC守備陣は試合を通じてこのハーフスペースに出入りする鹿島の2列目の選手たちを捕まえることが出来ていなかったのが、勝敗に大きく影響することになった。

12分の先制点はその典型的な形だ。レオ・シルバに横浜FCは2トップの間を縦パスで通されると、中央で受けた白崎凌兵が落として、そこから三竿健斗、土居聖真へとボールが繋がる。土居がボールを運んで右サイドに展開すると、常本のクロスを受けた荒木遼太郎がシュート。最後はそのこぼれ球を白崎が頭で押し込み、ゲット。この一連の流れの中で横浜FCの対応は全て後手に回っているため、鹿島の選手たちには全く制限がかからないままフィニッシュまで至っている。サイドを使って相手の陣形を広げ、中央で自由を得て、相手を崩していく。鹿島は戦前に狙っていたであろう形で幸先よく先行することに成功したのだった。

エラーとトレードオフ

先制してからも鹿島ペースは変わらない。先述したように、横浜FCがハーフスペースに出入りする鹿島の2列目を捕まえられなかったためだ。彼らが余裕をもってボールを受けられるため、そこからボールを前進させてチャンスを作り出せる鹿島。シンプルな相手最終ライン裏へのロングボールでもチャンスを作り出し、優勢はそう簡単に揺るがなかった。

反撃したい横浜FCは活路をサイドへのロングボールに見出そうとする。最終ラインでの組み立てへのプレッシャーが強くないことを逆手に取り、彼らは鹿島のサイドバックの裏のスペースにボールを蹴り込み、そこに2列目のマギーニョと小川慶治朗を走らせていった。鹿島は守備時は中央を集中してケアするため、サイドはスペースが生まれやすくスライドして対応しなければならない。鹿島のサイドバックにロングボールへの対応を強いることが出来れば、攻撃時の高いポジショニングを逆手に取ることが出来る。横浜FCは鹿島守備陣がエラーを起こしやすい状況を作り出すことで、チャンスを窺っていた。

今節はサイドバックの好対応もあって失点することはなかったが、ただここで問題なのはそこそこエラーは発生していたということだ。サイドへのスライドが遅れていたり、ボールホルダーへの寄せが甘かったり、繋がれるとピンチになりそうなパスコースを塞げていなかったり。これは何も今節に限った話ではなく、相馬直樹監督就任以降すべての試合で見られる現象であり、もっと言えばずっと前から起こっている現象でもある。

ただ、ベンチはこのことをあまり深刻には捉えていないように見受けられる。それはこうしたエラーでピンチになる時もあれば、各々の判断や感度の良さでボール奪取からチャンスに繋げられるシーンもあるからだ。個々の自由度を上げたことでのトレードオフであるし、個々の質が高ければ成功する確率は高くなる。実際に強い時の鹿島はそれで守ることが出来ていた、それがこの守り方を許容する裏付けになっているのだろう。

荒木遼太郎が呼び込んだ追加点

反撃を試みる横浜FCに対し、鹿島は前半の最後にビッグチャンスを得る。45分、左サイドでボールを奪うとそれを荒木が拾ってカウンター発動。荒木は染野に預けて前に出ていくと、タメを作った染野からのスルーパスを受けてドリブルで相手ゴールに近づいていく。最終的には荒木が対応した田代からエリア内で後ろから倒され、鹿島はPKを獲得した。

このシーンには荒木の凄さが詰まっている。こぼれ球にいち早く反応してボールを拾ってマイボールに出来ること、切り替え速く前に出ていきボールを運べること、そしてシュートチャンスを逸したと見るやドリブルで奥深くまで持ち出すことで相手に無理な対応をさせてPKを誘っていること。全て荒木の上手さが可能にしていることであり、その才をトップ下のポジションで自由を与えられることで遺憾なく発揮している彼は、紛れもなく今の鹿島の攻撃の中心であり最も欠かせない存在になっている。

そして、この荒木が獲得したPK。キッカーの土居は一度は六反勇治に防がれるものの、こぼれ球を自ら押し込んでゲット。鹿島は前半の最後に大きな追加点を手にして、2点リードで前半を折り返した。

ペースを渡さない荒木遼太郎の真骨頂

後半開始を前に、2点を追う横浜FCは2枚代えを敢行。小川に代えて松尾佑介を2列目に、手塚に代えて安永玲央をボランチに投入した。

後半開始時~

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後半になって横浜FCはボールの動かし方に手を加えてきた。ロングボールを多用していた前半に比べ、ショートパスを多用。鹿島のボランチ脇のハーフスペースに伊藤や松尾が侵入してボールを引き出すことで揺らぎを作りつつ、サイドからボールを前進させていきチャンスを作り出そうとしていたのだ。

実際、チャンスは作れていた。47分の右サイドからのアーリークロスにクレーベが合わせようとしたシーン、64分の右サイドからの楔のパスをクレーベが落として松尾がシュートしたもののクロスバーに阻まれたシーンは、横浜FCにとっては狙い通りのシーンであるはずだ。

だが、横浜FCの問題はこれらの攻撃が全て単発で終わってしまったことだ。その原因は鹿島がはね返したボールをほとんど拾えなかったこと。今節の横浜FCはセカンドボール合戦で終始劣勢だったことで、巻き返しを図る時間帯でもペースを握って押し込むことが出来なかった。

そのセカンドボールをことごとく拾っていたのが荒木。彼がボールを拾うことで、鹿島はカウンター発動のスイッチが入る。こうして鹿島は後半も横浜FCと同等かそれ以上のチャンスを作り出していた。

その荒木は数字の上でも結果を出した。80分、3本続いたコーナーキックの3本目。この日初めてコーナーキックを蹴った荒木のボールは町田浩樹の頭にドンピシャ。これで鹿島は3点目となり、勝負の大勢は決した。荒木のボールの質の高さはもちろん、町田が三竿の背後から入り込むことでマーカーの田代を完全に外した状態でヘディング出来たことが大きい得点であった。

結局、試合はこのまま3-0でタイムアップ。快勝した鹿島はリーグ戦の負けなしを4試合に伸ばした鹿島は10位に浮上した。

まとめ

幸先よく奪えた先制点、前半の最後に奪えた追加点と、欲しい時間帯でゴールが奪えたことで鹿島としては比較的にラクに運ぶことが出来た試合と言えるだろう。3点差のついた終盤には荒木や染野といった陣容的に欠かせない選手を休ませ、ディエゴ・ピトゥカをルヴァンカップに続いて試運転させることも出来た。結果としては申し分ないだろう。

今節の結果は横浜FCが鹿島と似たようなスタイルで臨んできた部分が大きく影響したように思える。お互いにボール保持にこだわらず素早く前線にボールを入れていくし、高い位置から積極的にプレッシングを仕掛けることもない。以前からそうだが、鹿島はスタイルが似ていて個々の質で上回ることの出来る相手には滅法強い。今節も言わばその定説通りの試合となった。

いずれにせよ、今節の勝利でボトムハーフを脱出することが出来た。大事なのは連勝でさらに勝点を積み重ねて、順位を上げていくこと。次節はルヴァンカップを挟んで11位のFC東京戦。リーグ戦4連敗中と苦しむ相手から3ポイントを掴み取りたい。

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