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【ザーゴの見方】ACL プレーオフ 鹿島アントラーズ-メルボルン・ビクトリー レビュー

戦前

スタメン

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鹿島は新監督を迎えて、これがシーズン初戦。戦術の浸透もまだまだこれからという段階だけでなく、元日の天皇杯からこの試合まで一カ月経っておらずオフは長くても2週間と、満足に休息が取れない状況だった。それでも、なんとかコンディションを整え、最低限のゲームモデルを落とし込んで、この試合に臨んでいた。そして、新監督のザーゴにはこの試合に関して「内容は度外視で、勝利を」というミッションが与えられている。スタメンは昨季の主力と新加入6人が合わさった形となった。練習ではルーキーも主力と混ざっていただけに起用が予想されたが、蓋を開けてみれば実績のあるメンバーで組まれた形となった。

一方のメルボルン・ビクトリーである。昨季のオーストラリアリーグ3位ということでこの大会の出場権を掴み、プレーオフ予選では5-0と大勝でこの試合に駒を進めている。ただ、今季のリーグ戦では8位と苦戦。2週間前には監督交代も経験している。この試合に関してはいつもの4バックではなく、5バックを採用。ザーゴ曰く、「直近5試合観たが、一度もやっていなかった」そうだ。

メルボルンの出方

先程も述べたように、普段やっていない5バックを採用してきたメルボルン。そのゲームプランは「バスを置いて撤退守備からのカウンター」だった。前線からやたらに追うことはせずに、5-4-1でブロックを敷き、サイド深くには侵入させても、クロスは中央でしっかり跳ね返す。ボールを奪ったら、1トップの201cmFWアティウに当てて起点を作るか、両サイドのアンドリュー・ナバウトとクルーズに預けて彼らの独力打開でゴールに迫る。シンプルではあるが、昨季鹿島が撤退守備を崩すのに散々苦労していたことを考えれば有効な策であったし、鹿島の守備陣は特にアティウとクルーズの個の力にそれなりに手を焼いていた。

ザーゴの見方① ビルドアップ

メルボルンが撤退を選んだことで、必然的にボールを持つ時間が長くなった鹿島。序盤は三竿がアティウをピン止めし、広瀬と永戸の両サイドバックがクルーズとナバウトの両ウィングをピン止めしていたため、奈良と犬飼のセンターバックのところからボールを前進できていたし、この2人からサイドに展開して深くまで攻め込んでクロス、もしくはそこから逆サイドに振ってクロス、という形が作れていた。

ただ、押し込むことが出来ていたため、徐々にサイドバックの位置が高くなっていく。そうなると、サイドバックをケアしていたメルボルンのウィングは、サイドバックを後ろのウィングバックに受け渡し、自分たちはセンターバックをケアしに行けるようになっていった。こうなると、DFラインまで降りることも少なくなかった三竿にアティウがくっついてくることで、必然的に3対3と数的同数の形になり、余裕を持ってボールを前進させることが出来なくなってしまった。

そこで、ザーゴが動く。高めに張っていたサイドバックの位置を下げさせ、センターバックからのパスの受けどころにしたのだ。これで、メルボルンはウィングが鹿島のセンターバックとサイドバックのどちらを見るのか、という2択を突き付けられている状態にもなるし、ウィングバックが前に出て鹿島のサイドバックに付いていけば、その出ていった場所にスペースが生まれ、そこを使われるかもしれないというプラスアルファの選択肢を突き付けられている状態にもなった。

ただ、試合を通じて振り返ると、ビルドアップの完成度はまだまだと言わざるを得なかった。一つは、センターバックとボランチの立ち位置だ。数的優位を確保したい、サイドバックの位置を高くさせたい、そういった狙いがあって守備時のポジションから動かしてビルドアップを進めようとしているのだろうが、必ずしもその場その場に合ったポジション取りをしているかと言われれば、決してそうではなかった。

また、ボランチとセンターバックにビルドアップで必要以上の負担がかかっているのも気になった。この試合、サイドバックが低い位置まで降りてサイドで受け口になるシーンはあったが、2列目の選手やボランチで高い位置を取っていたレオ・シルバが下がって中央やハーフスペースでパスの受け手になるシーンはかなり少なく、前線で相手DFラインと勝負するシーンがかなり多かった。下がらないのがチームとしての方針かもしれないが、下がることによってパスの受け手になったり、またディフェンスが連動して付いてくることで、そのディフェンスがいたスペースを使うことも出来たり、とメリットは決して少なくない。鹿島は決してビルドアップを最優先にボランチとセンターバックをチョイスしている訳ではないだけに、尚更である。今後、トレーニングを経て試合をこなしていく中で、どんな変化を遂げていくのか、注視したい部分だろう。

ザーゴの見方② プレッシング

ビルドアップでは完成度がまだまだと述べたが、ザーゴ監督になって良くなった点探しもしておきたいところ。その一つがこの試合で垣間見られた。プレッシングだ。

ザーゴ体制になって鹿島が目指すサッカーは「ボールを持つことで、試合をコントロールし、自分たちが試合の主導権を握るサッカー」である。この場合、大事なのはボールを握ることと、それと同じレベルでボールを失ったらすぐに奪い返すことである。当たり前のことだが、ボールは一つしかない。自分たちがボールを持ちたかったら、相手から奪うしかないのである。

この思考がこの試合の鹿島には色濃く反映されていた。相手のビルドアップに対して、2トップを先頭にして積極的にプレスをかけていくシーンが多かった。一度外されても二度追い三度追いを続け、後ろの選手たちもそれに追従してプレスに行く。そのプレスで高い位置で奪うことは少なかったが、相手に苦し紛れにロングボールを蹴らせて、それを回収して自分たちの攻撃のターンに変えることは出来ていた。

さらに、光ったのが相手にボールを奪われた後のプレーである。この日の鹿島はボールを奪われると、すぐさまボールの近くにいるプレーヤーが積極的に奪い返しにプレスをかけていた。これは元々のチームの方針もあるだろうし、相手の撤退守備を崩すのは難しいために、相手がボールを奪ったところからすぐに奪い返せば、相手の陣形が崩れた状態で攻撃を仕掛けられ、そうすることで得点の可能性を上げるという狙いもあったのだろう。

この状況を鹿島が自ら作り出すシーンも見られた。低い位置でボールを受けたサイドバックが相手のディフェンスラインの裏にボールを蹴り込んで、そこにFWの選手を走り込ませていた場面だ。これはもちろん、前線の選手がボールを収められれば、そこから攻撃が展開できるし、仮に収められなくてもそのままプレスに行くことで、高い位置でボールを奪い取ってショートカウンター、という狙いもあったからだ。

ただ、そのプレッシングはこの試合では安定感に欠けていた。序盤から切り替えが遅れるシーンもあったし、終盤は奪い返しに行くことが出来ず、相手に余裕を持ってクリアやカウンターを許してしまっていた。それでも、この原因はコンディションによるものが大きいだろうし、今後状態を上げていければ、そういったシーンも減ってくるだろう。また、ビルドアップの部分が改善できれば自分たちがボールを握る時間が長くなるだけに、ボールを奪い返しに行くという局面自体が減ることにも繋がってくる。

サイドバックのピンポイントクロス

試合は鹿島が主導権を握って進めるも、中々メルボルンの牙城を崩すことが出来ずに時計が進み、逆に後半自陣低い位置でのスローインからボールを奪われると、ナバウトのミドルシュートが奈良に当たってコースが変わり、そのままゴールに吸い込まれてしまい先制点を与えてしまう。

こうなると、メルボルンは俄然引きこもって試合を終わらせようとする。鹿島がサイドを崩しても、中央にいるメルボルンのディフェンスの数は多い。ただ、それでも鹿島は決定機を作り出すことが出来ていた。その要因はサイドバックのクロスの質の高さにある。右に入った広瀬も、左に入った永戸もキック精度の高さには元々定評があったが、その評判通りのプレーを見せてくれた。

プレッシングが活きる環境ならいいが、この試合のように相手がベタ引きしてしまうと、そのプレスを出せる部分は限られてしまう。そうなると、こちらが遅攻で崩していかないといけないが、先程も述べたようにビルドアップの完成度はまだまだだ。そうなると、多少相手の枚数が揃っていても、強引に崩し切らなければならないシーンも出てくるだろう。高さや強さのあるエヴェラウドの獲得もそのためという部分が少なからずある。その上で、サイドバックの正確なクロスが加わるのは、強引にでも崩し切れる可能性を高めてくれるはずだ。エヴェラウドだけでなく、鹿島には伊藤や上田など点で合わせるストライカーもいる。彼らを活かす意味でも、両サイドバックのプレーには期待がかかる。

総評とザーゴのこれから

結局、チャンスは作りながらも、最後まで相手を崩し切ることは出来ず、0-1で試合終了。鹿島の今季のACLはプレーオフで終了という結果になってしまった。

結果だけ見れば評価できるものではないだろう。初めに書いたようにザーゴにはこの試合「内容度外視で、勝利を」というミッションが与えられていた。この結果ではミッション未達成ということになってしまう。

ただ、ザーゴの中でこの一戦はもちろん大事な試合であることに間違いないものの、この試合で全てのパワーを使い切るレベルの熱量を注ぐというよりは、あくまで今季のスタートの試合と位置づけた部分もあったのではないだろうか。

報道で出ている通り、この試合の前に紅白戦は行われなかった(コンディション面を考えると行えなかったのか、行うことも出来たが無理して行わなかったのか、は不明だが)。さらに、筆者は試合2日前の練習を観に行ったが、そこでは強度の高いメニューは少なく、またほとんどが相手への対策というよりも、自分たちのやりたいことにフォーカスした練習メニューだった。こうしたことから、この試合に向けては1試合のためだけに全てを懸けて準備するというより、長いシーズンに向けて必要なものを蓄えつつ準備する、というような長期的なプランの中で迎えた試合だったのではないかと思えるのである。

もちろん、ザーゴが結果を求めていなかった訳ではないし、後者のやり方でも勝てる可能性は十分にあると考えての選択だったことは間違いないはずだ。ただ、そのやり方で勝つには、今回はそれに耐えうるコンディションと成熟度の面が不足していた。この部分は敗因となってくるのではないか。

いずれにせよ、徐々にチームが目指すスタイルは見えつつある。今後はトライ&エラーを繰り返し、毎試合何が足りていて、何が足りなかったのかを計っていくことになる。その進捗度でザーゴ監督自身と、ザーゴが率いる鹿島というクラブの評価が決まってくるのではないだろうか。


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