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【モッタイナイ】明治安田生命J1 第11節 横浜FC-鹿島アントラーズ レビュー

戦前

前節はアディショナルタイムのゴールでドローに持ち込んだ鹿島アントラーズ。これでリーグ戦は4試合負けなしを継続中。今節は中2日でのアウェイゲームだ。

対戦するのは横浜FC。13年ぶりにJ1に昇格した今季はリーグ戦5連敗もあって苦しんだが、前節は湘南ベルマーレとの裏天王山に4-2で快勝して今季2勝目。順位を16位に上げ、中3日で今節を迎えた。

スタメン

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鹿島は前節から4人変更。右サイドバックに小泉慶、センターバックはリーグ戦移籍後初先発の奈良竜樹と出場停止明けの町田浩樹のコンビが入り、前線にはファン・アラーノがスタメンに復帰している。

横浜FCは勝利した前節と全く同じスタメン。ベンチが瀬沼優司に代わって武田英二郎が入った以外は、メンバーを変えずに臨んできた。

鹿島のボールを奪う守備 その1

横浜FCは下平隆宏監督就任以降、ポゼッションを軸にしたスタイルを志向している。カテゴリーがJ1に上がってからもそれは変わらず、今節も立ち上がりからボールを保持する姿勢を見せた。形は4-4-2のままで、サイドバックが大外、2列目が中央寄りのハーフスペースの位置に立つ。鹿島も同じ4-4-2のシステムのだったことを逆手に取り、鹿島の選手たちが誰がケアに行くのか迷うような場所、ギャップを使おうとする意識が特に前線の選手には強いように見えた。

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これに対して鹿島はまずサイドバックに出させた後、そこから中央のボランチや2列目に入るパスを奪いどころに設定。彼らにボールが入るたびに、ボランチの三竿健斗やレオ・シルバ、さらにはサイドバックの永戸勝也や小泉も加わり、何度もプレッシングを仕掛け、実際にかなりの成果を挙げていた。その奪ったボールをチャンスに繋げるまでには至らなかったものの、三竿やレオ・シルバのボール奪取力をフルに活かすための守備は立ち上がりから機能していた。

鹿島のボールを奪う守備 その2

中々思うようにボールを前進させることが出来ない横浜FCは、試合の経過と共に組み立ての形に変化を起こしていく。ボランチの佐藤謙介が最終ラインに降りて、センターバックと共に3バックを形成。鹿島の2トップに対して数的優位を作り出そうとした。

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ただ、この横浜FCの変化に対しても鹿島は準備が出来ていたようだった。横浜FCの縦関係になったボランチに対しては、2トップを縦関係にして対応。高い位置を取るボランチ(上図では瀬古樹)には2トップの一角(上図ではアラーノ)がベッタリとくっつき、中央へのパスコースを塞いでおり、3バック化した横浜FCの最終ラインには2トップのもう一角と2列目の選手が高い位置を取ることで、相手との数的同数を実現していた。

しかし、横浜FCは次の手をすぐに打つ。キーパーの六反勇治を組み立てに加え、再び状況を横浜FCの数的優位に持っていこうとした。ただ、鹿島は六反に対してもプレスを敢行。六反を加えた段階で数的優位を作れているため、横浜FCは鹿島のプレスを剥がしてボールを前進させられれば良かったのだが、六反のキックはことごとく鹿島の中盤で引っかかり、鹿島は何度もショートカウンターの機会を得ることが出来ていた。

横浜FCにとってみれば、六反のキックが中盤で余りにも引っかかるのなら、中盤を飛ばして最前線の皆川佑介と一美和成に当て、彼らツインタワーの高さを活かすことも出来たはずだが、スコアが動くまで横浜FCにそうしたプレーはほとんど見られなかった。横浜FCにその気がなかったのか、そうしたプレーは狙っていたが精度を欠いていたのか、皆川・一美と奈良・町田のマッチアップでは鹿島の方に分があると考えたのか、その理由は不明であるが。

ボール保持でもリズムを掴みだす鹿島

立ち上がり、ボールを保持する機会は少なかったがプレッシングから主導権を掴むことに成功した鹿島。時間の経過と共にボールを握る機会も増えていく。

鹿島も横浜FCと同じく、組み立ての時はボランチの一角が最終ラインに降りることで数的優位を確保。さらに、前線に張ることの多かった横浜FCの2トップに比べ、鹿島はアラーノがポジションを下げてボールを引き出すことが多かった。正直、このプレーはあまり効果的とは言えなかったものの、なるべく高い位置でボールを奪うことを目論む横浜FCに対し、鹿島はこうしたアラーノの動きを囮に使いながら、最終ラインの裏へロングボールを送ることで、前線のアタッカーたちにスペースと時間のある状態でボールを預けることが出来ていた。

こうして、攻撃の局面でも徐々に優位に立っていく鹿島。サイドからの攻撃に偏りがちなのと、ボールを失った後のプレス強度が不足気味だったものの、リズムを掴むにつれてこうした課題も修正されつつあり、これからチャンスが増えていく、かに思われた。

全てをぶち壊した失点

試合は25分に意外な形で動く。左サイドでボールを受けた松尾佑介に対し、鹿島は奈良が対応しつつ小泉もカバーに入り、数的優位の状況を作り出す。松尾はそこからインサイドに突入してきた皆川にパス。皆川は三竿との競り合いになりながら、クロス。ここで一美の腕にボールが当たり、鹿島の選手たちはハンドをアピールして、プレーが止まってしまう。ただ、笛は鳴らずプレーは続行。インプレー中であり、横浜FCはこぼれ球を松尾が拾って、最後は松尾のパスから皆川のシュートがネットを揺らし、先制したのは押されていたはずの横浜FCだった。

ここでは判定の是非についてはあえて触れない。それ以外に問題だったのは、まず小泉と奈良の対応だろう。松尾に対して数的優位を作りながら、アタックすることもせず、マークを受け渡すこともせず、結果的に皆川へのパスを通されてしまっている。これでは数的優位を無にしていると言っていい結果であるし、奈良も小泉も対人の部分に自信を持っている選手なだけに、2人が出ていって結果として何一つ攻撃を阻害出来ていないのならば、チームとしてはただただ痛手になるだけである。

また、もっと問題なのはセルフジャッジである。一美の腕にボールが当たった瞬間、鹿島の選手たちは全員ファウルをアピールしてプレーを自ら止めてしまった。このシーンだけでなく、鹿島の選手たちは自らのジャッジでプレーを止めてしまうシーンが昨季以前からも見られており、結果的に損をするのはこれで一度や二度目ではない。特にペナルティエリア内でプレーが続いているにも関わらず、手が使えるキーパーの山田大樹までもプレーを止めてしまったのは、正直お粗末と言うほかない。笛が鳴るまでプレーは続いているのだから、キャッチするなり(他の守備陣含め)ボールを外にクリアするなりして、プレーを一度切る必要があったのは間違いない。

いずれにせよ、この失点で流れは全て変わってしまい、鹿島にとってはこの失点が最後まで尾を引く結果となってしまった。

リズムを作り出すマギーニョと松尾佑介

リードを奪えたことで横浜FCは明確にリズムが良くなった。これまで何度となく鹿島にボールを奪われていたポゼッションでも途端にパスが回りだす。ビハインドとなってやり返すはずの鹿島だったが、却って攻撃の時間が減少してしまっていた。

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さらに、横浜FCは組み立ての逃げ道を見つけることに成功する。それが右サイドのマギーニョと左サイドの松尾の存在だ。個の力で打開できる彼らが大外に位置を取ると、単独でもゴール前まで持ち込まれる可能性があるため鹿島としてはケアしない訳にはいかない。ただ、そうなると中央の強度がサイドに分散されてしまうため、ボールの奪いどころを絞り切れなくなってしまう。こうして、スコアレスの時は面白いようにボール奪取の機会を作り出していた鹿島だったが、ビハインドになってその回数が減り中々反撃の一手を打ち出せないまま前半を折り返すことになった。

鹿島のペナ角崩し

リードを許し、後半に入った鹿島。当然追いついて逆転しなければならないので、プレスなどの強度が上がりだす。ただ、それ以外にも鹿島は明確な狙いどころを持って後半に入ったように思えた。

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それは横浜FCのセンターバックとサイドバックの間に位置する、ペナルティエリアの角のスペース。そこに飛び込むのは2トップだったり、2列目だったり、サイドバックだったり、時にはボランチだったり、と人は変わっていたが、後半の鹿島はこのスペースに飛び込む選手を活かすような裏へのボールを多用していた。

ここを使う最大の理由は、横浜FCのセンターバックを引っ張り出すためであろう。センターバックとサイドバックの間にあるため相手は誰が行くのか判断に迷うし、スキを与えれば失点しかねないエリアであるから、放置は出来ない。そこで前半から鹿島のクロスをはね返す鉄壁ぶりを見せていたセンターバックを引きずり出せれば、ゴール中央の強度は必然的に下がる。そのスキを鹿島は突こうとしていたのだろう。

この一連のプレーから、鹿島は小泉が攻撃の流れに乗り出し、右サイドの攻撃も活性化させていく。左サイドからクロスを供給したり、中央に斜めのパスを入れたりとチャンスメイクに務めていた永戸勝也に比べ、前半の小泉は攻め上がりのタイミングが遅かったり、ボールを持っても一度止めて出しどころを探してしまうため、攻撃をノッキングさせてしまうケースが目立った小泉だったが、後半になりこうした裏への抜け出しを多用することで攻撃をノッキングさせず、前半はサイドに流れていた土居聖真やアラーノを中央に留まらせることで、右サイドからチーム全体の攻撃の流れを良化させていった

裏目に出た交代策

65分~

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攻勢に出るものの中々ゴールの奪えない鹿島は、65分に2枚代え。フリーマンのごとく振る舞える遠藤康を前線に入れ、さらに永木亮太を右サイドバックに投入。永木のキック精度をサイドからのクロスなどに活かし、小泉のボール奪取力と前線への飛び出しをボランチで活かす、という各々に期待した役割がはっきりと窺える交代だった。

結果的にこの交代もまずまず機能していたが、肝心のゴールが奪えない。刻一刻と減っていく時間に焦りを覚えた鹿島ベンチは次の手を打つ。

74分~

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守備陣を削って、前節同点ゴールを生んだ染野唯月と荒木遼太郎のルーキーコンビを投入。ボランチに永木と遠藤が入り、右サイドバックに和泉竜司、センターバックに三竿が入るスクランブル態勢でゴールを目指した。一方の横浜FCも押されていた左サイドのケアに武田、カウンター要員として斉藤光毅を投入。守備を修正しながらも、トドメの追加点を狙う姿勢を見せた。

ペナルティエリアの角を狙った崩しを継続しつつ、荒木や染野の技術の高さや落ち着きを活かして中央突破からでもゴールを狙う。それが鹿島の目論見だったが、狙いとは逆にこの交代から攻撃が徐々に噛み合わなくなっていく。理由としては、ポジションを入れ替えすぎたことによるバランスの崩れと、連係のズレだろう。これまでほとんど組んだことのない永木と遠藤(しかも遠藤はフリーマンの如く自由に振る舞う)、スクランブルでサイドバック起用された和泉。こうした慣れない部分で齟齬が生じ始めるのはある種致し方ない部分ではあるし、ザーゴ監督としてはスコアが動かない以上、交代策でゴールをこじ開けようとしたが、結果として攻撃力アップになることはなかった

鹿島は5枚目の交代枠でエヴェラウドに代え松村優太を送り込むが、最後は5バックにして守備を固める横浜FCの前に、最前線が染野ではパワー不足は否めず、結局スコアはそのまま試合終了。鹿島は痛恨とも言える敗戦で、順位を上げるチャンスを逃してしまった。

まとめ

もったいない敗戦である。前半から思い通りに試合を進めながら、たった一つの失点、それも自らに原因を求められるもので全てをぶち壊してしまった。こうした試合で勝点を積み上げていけないと、いくらスタイルが浸透してきても優勝争いは遥か夢の先だろう。

また、今節は何としても追いつきたい終盤になるにつれて攻撃がチグハグになってしまった感が否めなかった。ザーゴとしてみれば選んだメンバーで打てる手は打ったのだろうし、個人的にもそう思うが、今節に関しては伊藤翔のようなストライカーを1枚ベンチに入れておけば…、とも思ってしまう。上田綺世がケガから復帰してきたとの情報もある。連戦の中でいかにメンバーをやりくりして、常にチームの最大値を発揮できるようにしていくか、ザーゴとしても詰めていくべき部分はまだ残っているように思える。

今節の敗戦でここまでのまずまずの良い流れは水の泡となってしまった。次節は中3日で6位ガンバ大阪とのゲームだ。今季はG大阪のような上位陣に勝てていないことも、思うように順位の上がらない理由の一つである。ここでその殻を破ることが出来るか。鹿島のリバウンドメンタリティが試される。

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