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【上手くいかない時の過ごし方】明治安田生命J1 第23節 北海道コンサドーレ札幌-鹿島アントラーズ レビュー

戦前

前節はミッドウィークの連戦の中、サガン鳥栖に2-0で勝利。連敗の後の連勝で盛り返して、順位を暫定6位に上げた鹿島アントラーズ。今節はアウェイ3連戦の2戦目。中3日でのゲームとなる。

鹿島を迎え撃つのは14位北海道コンサドーレ札幌。今季は開幕前から大きな補強もなく、シーズン途中には鈴木武蔵が海外移籍。厳しいやりくりの中、リーグワースト2位の失点が響いて下位に位置している。前節も名古屋グランパスに0-3で敗戦。今節は中3日で迎える。

なお、両者は第3節で対戦。鹿島は序盤から押し込んでいたが、ワンチャンスを鈴木に仕留められて失点すると、その後攻めあぐねる展開に。終了間際にダメ押しも許して、0-2で敗戦している。

前回対戦時のレビュー

スタメン

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鹿島は前節から5人変更。センターバックに関川郁万、ボランチにレオ・シルバ、2列目にファン・アラーノ、前線に土居聖真が戻り、左サイドバックには杉岡大暉が起用された。

札幌は前節から1人変更。ボランチに大卒ルーキーの高嶺朋樹を起用、荒野拓馬を前線で起用するゼロトップの布陣を採用した。

鹿島のプレスを無効化する福森晃斗

試合は立ち上がりこそ鹿島が良い入り方をみせたかに見えたが、時間の経過と共にペースは札幌の方に移っていった。その理由として大きいのは札幌のボール保持にある。

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札幌のボール保持はボランチの一枚(主に高嶺)が最終ラインに降りて4枚になり、ウイングバックが前線に張り出す、ミシャ式とも呼ばれる形で行われる。組み立ての部分でも前線でも数的優位を作り出すのが狙いの形だが、今節は最前線の荒野がフリーマンとして振る舞っていた。荒野は最前線に留まることなく、時にはボランチの位置まで降りてボールの引き出し役となることもあり、その際はシャドーの金子拓郎と駒井善成が前線に留まることで、前線の人数を確保するようになっていた。

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札幌で優秀だったのは左サイドの福森晃斗だ。札幌は鹿島のプレッシングで組み立てに詰まると、キーパーに戻して数的優位を活用するか、比較的プレッシャーの弱い大外に運ぶことで回避していたのだが、正確な左足を持つ福森はただ単に回避するだけでなく、攻撃のスタートにもなっていた。

福森がボールを受ける時、鹿島の布陣は必然的に全体が右サイドに寄っていく。福森がショートパスを選択した時にプレッシャーを掛けてボールを奪いたいがためであり、むしろ中途半端に距離感が空いていてはプレッシングの強度は成り立たない。そのため、鹿島にとってはこの時左サイドは捨てているスペースになる。

その捨てているスペースに福森は正確にボールを蹴り込んでいったのだ。少々のプレッシャーも気にせずに正確に逆サイドへのボールを放った先には、右ウイングバックのルーカス・フェルナンデスがフリーで受けられる状況が整っている。この時点で、札幌としては前がかりになった鹿島の裏を突き、さらにドリブラーのルーカス・フェルナンデスが1対1で仕掛けられるというおあつらえ向きの状況が整っていることになる訳だ。

鹿島としては自分たちのやり方を大きく変えないでいくなら、発射砲台となっている福森により強いプレッシャーを掛けにいって止めるしかないのだが、そこで登場するのがフリーマンとなっている荒野だ。彼が福森がショートパスを出せる位置を取ることで、本来福森にプレッシャーを掛けにいくべきアラーノは福森にいくべきなのか?それとも荒野へのパスコースを塞ぐべきなのか?という迷いが生じることになる。この迷いを利用して、札幌は福森を活用しながらボールを前進させていったのである。

ボール保持でリズムを作れない鹿島

鹿島が主導権を掴み切れなかった理由としてもう一つあるのが、ボール保持の局面だ。鹿島は今節、札幌のオールコートマンツーマンに大いに苦しんでいた。

オールコートマンツーマンはその名の通り、ピッチ全体でマンツーマン=人につく守備を実行し続けるというものだ。メリットとしてはあらかじめ誰が誰をマークにいくのか明確になり、判断を求められるケースが減るという部分が大きく、逆にどこか1人が外されてしまうと途端にピンチになりやすく(1人1殺なのでカバーするという意識は低くなる)、また相手が動けばその分だけ対応しなければならないので、陣形が乱れやすくなるというのがデメリットでもある。

鹿島は今節も後ろからの組み立てでリズムを作り出し、主導権を握ろうとした。後方では数的優位を作ってボールを前進させ、時には裏へのロングボールでエヴェラウドらを走らせて相手を押し込み、もしボールを奪われても一気にプレッシャーを掛けてすぐさまボールを奪い返す。今季の良い時の鹿島が見せるピッチ上での現象の再現を今節も狙っていたのだ。

だが、今節は札幌がどこまでも付いてくる。形を変えようと、ポジションを動かそうとも。常にプレッシャーを受け続ける中で、鹿島は組み立ての部分でのミスが増えていく。せっかく持ち運んで縦パスを入れても、そこでボールを失ってしまっていた。

さらに、問題だったのが鹿島自身がプレッシャーを外すためにポジションを動かし続けたこと、また札幌のボール保持で自分たちのプレッシャーを外され続けたことで、陣形が間延びしてしまいボールを奪われても即時にボールを奪いに返しに行く態勢が整っていなかったことだ。選手同士の距離感が遠いために、複数人がボールホルダーにチャレンジできる位置にいない。このことがさらに鹿島を主導権確保から遠ざけていた。

悪循環で負担の増える「認知」

自分たちで仕掛けるプレッシャーはいなされ、逆に自分たちはプレッシャーを受け続ける、主導権を掴むはずがますます遠ざかるという悪循環に陥っていた今節の鹿島。そこにのしかかるのが連戦の疲労である。こうして、鹿島は疲労を隠せなくなっていき、強度が上がらなくなっていった。

連戦の疲労とはいえ、両チーム条件は中3日で同じだし、上手くいっている時も別に走っていないわけではないので(むしろ今季の鹿島は上手くいく時ほどよく走っている)、今節なんであんなに走れなかったのか疑問にも思うかもしれない。その答えは、今節の鹿島が認知に特に負担がかかる状況になってしまったことにある。

上手くいっている時も、いってない時も走っていることに変わりはない。では何が違うのか。それは判断をどれだけ求められているかだ。今季の鹿島は開幕前からこういう時はこうしようというプレー原則をずっと仕込まれてきた。そのため、その原則に当てはまる時は迷う必要がない。この問題の時はこの公式を使って解けばいい!というのが自然な流れで頭の中にインプットされているからだ。

だが、その原則に当てはまらない時はどうだろう。選手はここで判断を求められるのだ。無理やりにでも原則に当てはめるように持っていくのか、そうではなく全く別のやり方で解決を目指すのか。それを刻一刻と変わる状況の中でプレーごとに判断を求められるとなると、選手は自分の肉体以上に認知や判断といった脳の部分に負担がかかり、そこの部分が疲労していってしまうのだ。

その部分に疲労が溜まると生まれやすくなるのがミスだ。今節の失点も原因は三竿健斗の判断ミスにある。41分のシーンでは押し込まれた中で、三竿が一度はボールをインターセプトしたのだが、その後すぐにプレッシャーを受けたことでそれをかわそうとしてミスを犯し、そこを札幌に奪われて二次攻撃から失点してしまった。三竿個人を責めるべきというものではなく、チーム全体で認知の部分に負担をかけるような展開に持ち込まれてしまったことで、あのようなミスが生まれやすい状況になってしまった。そのことと向き合うべきだろう。

選手交代に意図を込める

後半になっても、悪循環の大元を鹿島は解決したとは言えなかった。札幌のボール保持を最後まで封じ込めることは出来なかったし、あわや失点というピンチを何度も作られている。

それでも、こちらも決定機を作り出すことは出来た。その理由は選手交代に明確なメッセージ性を込められたことにある。

77分~

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札幌がアンデルソン・ロペス、ドウグラス・オリヴェイラとパワーのある助っ人を前線に投入して、彼らを活かしながらカウンターで追加点を狙おうとしたのに対し、鹿島は最初に永木亮太、上田綺世、松村優太と3枚を同時に投入。キック精度の高い永木と単独でも仕掛けられる松村を右サイドに置き、最前線に上田、さらに左サイドにエヴェラウドを配置することで、右で崩して左で仕留めるという狙いを明確にしたのだった。

さらに、前線に空中戦の強い染野唯月を入れることでターゲットを増やし、しまいには左からもクロスを供給できるように和泉竜司をサイドバックで投入。前線のパワーを活かして、クロスから相手を押し込もうという意図の感じられる5枚の交代であった。

実際、チャンスは作った。ただ、右サイドを抜け出した松村の折り返しはエヴェラウドに合わず、左サイドでエヴェラウドが起点となったこぼれ球に反応した上田のシュートはポストに阻まれてしまい、得点を奪うという唯一にして最大の目標を達成することは出来なかった。

結局、試合は0-1で終了。鹿島は札幌にシーズンダブルを喫する結果となった。

まとめ

この前の連敗中の大分トリニータ戦やガンバ大阪戦のように良い流れで仕留めきれなかったツケを払うような敗戦とは違い、今節は終始自分たちの思うようにいかない中で敗れるという、ある種妥当ともいえる敗戦になってしまった。

シーズンも後半戦になってきており、メンバーが固定されてきたこともあって、選手は少なからず疲労を抱えていることだろう。そんな中で今節のように自分たちのペースに持ち込めない試合が続いては余計にその疲労を溜め込んでしまうことになる。そんな中で、あくまで自分たちの狙いを貫くのか、その場を凌ぐために振る舞いを変えていくのか、チームはまた一つ判断を求められる局面に立ち向かっているということだろう。

ここ数試合を見ていると、相手の鹿島対策も確実に進んでいる。そんな中でただ自分たちももがくだけでなく、メンバーを変えたり振る舞いを変えたりと何らかの新たな振る舞いを見せる必要があるだろう。過密日程でただでさえ試合をこなすこと自体が難しくなっている現状も踏まえつつ、そんなことを感じさせた今節だった。

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